嘲笑う者

織風 羊

第1話

 そら、色々あったさ。

こんな仕事をしていれば当然のことさ。

人の裏側なんて、たかが知れているさ。

要するに化けの皮一枚剥いでやるだけの事さ。

人っていう連中は、つまり、そういう事なのさ。

そりゃ、中には裏も表もない奴がいたさ。

いや、そうじゃない、誰にでも他人に知られたくない事なんて星の数ほどあるものさ。

それでも、そういう連中は隠しておきたい事実を心の奥にしまって、正直に生きようと努力しているものなのさ。

ただし、そういう連中ってもんは探してもなかなか見つからない。

分かるだろう?

正直者が馬鹿を見る時代なんだ。


 盗みはしなかったし、殺人もした事はないね。

殺されかけた事は数え切れないし、その為に暴力沙汰になってしまうのは当たり前のことだ。

だから、人を傷つけた事はない、なんて口が裂けても言えないね。


 大体の仕事は、人探しや、ボディーガード、現金輸送ってのもやった事がある。

人探しって、人を探すだけ? なんて思ってないだろうな?

私達のような裏の探偵って呼ばれてる職業はね、ちょっと表の世界とは違うものなんだよ。

時には死んだ筈の人間を探し出してくれ、っていうような依頼だってあるのさ。

大概が探し出せない、だろうと思っているんじゃないかな?

ところが、これがほとんど探し出せるんだ。

考えても見てくれ、死んだ筈の人を探せなんて、気でも違ったのか? なんてものさ。

然し、それでも探せって依頼してくるには、それなりの理由があるって事なんだ。

簡単に言えば、やばい橋を渡れっていうような依頼のことさ。


 殺人?

頼まれた事はあるさ。

とんでもない、私はヒットマンじゃない。

そんなのは殺し屋のやることさ。

全くもって人を馬鹿にしたような依頼だ。

確かに拳銃は持っている。

然しだ、こいつは人を狙ったものではなく、狙われた時に使うものさ。

つまり、依頼内容によっては、やばい橋、っていうのが直感的に分かるんだよ。

そう、ボディーガードなんてやるもんじゃない。

自分の体を張って依頼主を守るんだ。

相手が素手で来るならなんとでもしてやるさ。

そんな奴が居る訳ないだろ?

丸腰で人を狙ってくるようなおめでたい人間なんて居ないさ。

そんな連中は、路上で喧嘩でもして憂さを晴らしてるよ。


 だから、辞めちまったのさ。

事務所を畳んだんだよ。

結構やばい仕事を引き受けて来たからね、まとまった蓄えはある。

こいつが底を尽きないように仕事を探せばいい。

もう二度と、命を張った仕事にはつかない。

これだけは、はっきりと言えるね。

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