第25話 路地裏への道中
タッ・・・タッ・・・タッ・・・
大通りを歩く,トモシビ、キット,そしてミーニャ.
路地裏へと案内される道中、二人と一匹は自己紹介を済まし,すっかり打ち解けていた.
キ:「なーんだ.路地裏に行きたいのは人の邪魔にならないところで素振りがしたかったからだったんですね.急に路地裏に連れていけって言われたからびっくりしちゃいましたよ.」
ト:「ああ,そっか.そりゃあ悪かったな.・・・そうか,確かに初対面の人に急にそんなお願いされたら怖いわ.次からは気を付けねぇとな.」
キ:「そうそう.僕,てっきり人さらいの犯人なんじゃないかと思っちゃいました.」
ト:「ハハッ,そりゃ申し訳なかった.・・・そういえば,さっきから気になってたんだけどよぉ,キットって言葉遣いすげぇしっかりしてるよな.」
キ:「えっ,そうですか?」
ト:「そうだよ.お前まだ10歳くらいだろ?その歳でそんだけ自然に敬語で話せる奴なんてそうそういないぜ?やっぱ,親の教育がいいんだろうな.」
キ:「・・・まぁ,そうかもしれませんね.僕の両親は共働きで,一人でいる時間が長いから,それでママが少しでもトラブルを避けられるようにって敬語を教えてくれたんです。」
ト:「へぇー,・・・いい両親だな.」
キ:「ハハッ,まぁ,そうですね.」
どことなく,寂しそうに笑うキット.
ト:「・・・」
キ:「・・・」
二人は,前を向き,ひたすら歩いていく.
ト:「・・・キットはいつもこの時間にここらへんで散歩してんのか?」
キ:「いや,いつもってわけじゃないです.家からもちょっと遠いところですし.」
ト:「へぇー,じゃあなんで今日はここらへんで散歩してるんだ?単純に大通りを歩きたい気分だったのか?」
キ:「うーん,それもあるにはあるんですけどぉ,他に理由があって・・・.」
ト:「りゆう?」
キ:「・・・誰にも言わないでくれますか?」
ト:「・・・ああ,もちろん.」
うなづくトモシビ.それを見たキットは一呼吸おいて話し始める.
キ:「実は僕,今日魔女に助けられたんです.」
ト:「えっ!?」
思わず,すっとんきょうな声を出すトモシビ.周りにいた通行人の視線が集まり,慌てて取り繕う.
ト:「ああ,すまん.急に大きな声出しちゃって.・・・本当に魔女に助けられたのか?」
キ:「はい,今日のちょうどお昼すぎくらいに、用水路に溺れてしまっていたミーニャを助けてもらったんです.空を飛んで、ミーニャを持ちあげてくれて,カッコよかったなぁ・・・.」
「にゃー」
ト:「・・・人前でか?」
キ:「はい.大勢が見てる前でです.」
ト:「へぇー、そんなことがあったんだなぁ・・・.」
頭に後ろで手を組み,感慨深そうに空を見上げるトモシビ.
しかし,そんな態度とは裏腹に心の中でははしゃぎまくっていた.
ト:(えっ,それ,絶対メリーじゃん.人前でそんなことするヤツ絶対にメリーじゃん.相っ変わらず面白れぇことするなぁ・・・.)
キ:「信じてくれるんですか?」
ト:「えっ?」
キ:「魔女が助けてくれたっていう話.」
ト:「ああ・・・.もちろん、信じるさ.そんな嘘をつく意味がねぇしな.」
自然な感じでそう発言するトモシビ.
キ:「そっか・・・.」
彼のその反応に、キットは思わず笑みをこぼした.
キ:「みんなトモシビさんみたいな人ならいいのに・・・.」
ト:「えっ?」
キ:「・・・だって、あの場にいた人たちはみんな,魔女がミーニャを助けてくれたところを見てたはずなのに,魔女だからって悪者扱いして,捕まえようとしてたんですよ?おかしくないですか?」
ト:「おおっ.」
キ:「そりゃ魔女は疫病を蔓延させたっていう話は知ってますけど,あの魔女はミーニャを助けてくれた紛れもなくいい人なわけで.それなのに,魔女だからって非難して,ほんと許せないですよ.」
ト:「はぁー,そんなことがあったのか.」
早口でまくし立てるキットに,相槌をうつトモシビ.
キ:「・・・そのせいで魔女はすぐに遠くに行ってしまって.僕,お礼もちゃんと言えなくて・・・.だから,僕は今こうやって魔女を探しながらミーニャと散歩してるんです.」
前を向き,胸を張るキット.
ト:「なるほどなぁ.・・・ん?待てよ.ってことはその魔女ってここらへんに向かって飛んでいったってことか?」
トモシビの問いに,キットは頭を少し下に向ける.
キ:「・・・いや,違います.飛んで行ったのは東の方です.ただ,西のほうから来てたので,僕は飛んでる方にいっても追いつけないと思ったから,もしかしたらこっちの方に帰ってきてたりしないかなと思って,ここら辺を歩いてるんです.・・・まぁダメ元ってやつですよ.」
力なく笑うキット.しかし,彼の発言と行動にトモシビは感心する.
ト:「・・・なるほどねぇ,なかなかいい戦略だな.」
キ:「ありがとうございます.・・・あっ,トモシビさんつきましたよ.ここです.」
キットはふいに足を止め,注意を促すように右に向かって腕を伸ばす.
見ると,そこには三人の大人が横並びでギリギリ通れるくらいの狭い道が続いていた.
建物が影になっていて薄暗く、人の気配は全くない.
ト:「おお,・・・へぇー確かに路地裏だな.」
キ:「はい,素振りにはちょっと狭いと思いますけど・・・」
ト:「いや,十分だ.ありがとな.案内してくれて.」
キ:「こちらこそ,魔女の話信じてくれてありがとうございました.僕はもうしばらく,ここら辺をミーニャと散歩したら帰ります.もうそろそろママが帰ってる頃だし、あんまり遅くなるとママが心配するから.」
ト:「そうか.会えるといいな,魔女.」
キ:「はい!それじゃ,ばいばい.」
ト:「おう.またな.」
手を振るキット、振り返すトモシビ.
ト:「・・・ふぅ.」
ト:(メリーのヤツ,うまくいってんじゃん.)
離れていくキットとミーニャの背中を見送りながら,温かい気持ちになるトモシビ.
ト:「・・・よし,そんじゃ素振りすっか.」
こうして、トモシビは路地裏へと足を踏み入れるのだった.
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます