第7話 会話

村:「本当に・・・もう行ってしまうのか.」


メ:「うん.」


トクダ村に来て三日目の朝,メリーは村のみんなに見送られながら,この村を旅立とうとしていた.


メ:「・・・本当はもっとここにいたいんだけど,旅をするって決めた時から一つの場所に長居はしないって決めてたの.世界中を旅したいから.」


村:「そうか.」


ツ:「うっ・・・ううっ・・・」


ヤ:「ツン,泣いてるの?」


ツ:「なっ,泣いてなんかないやい.・・・ただ・・・ただ目から汗かいてるだけだよ.」


メ:「・・・ツンくん,ヤンちゃん.仲良くしてくれてありがとう.離れ離れになっちゃうけど,わたし達は・・・わたし達はずっとともだちだから・・・.」


メリーの目が徐々に潤んでいく.


ヤ:「うん・・・.」


ツ:「・・・っ,あたりまえだっ!・・・わすれんなよ,俺たちのこと.」


メ:「うん.」


メ:「・・・ケリーさん,これ,ありがとう.大事にする.」


メリーの腰にある獣革の水筒.ケリーが一日かけて猪の皮からこしらえてくれたのだ.


ケ:「お礼をいうのはこっちのほうだよ.この村に来てくれてありがとう.身体に気を付けてね.」


メ:「うん.・・・それじゃあみんな・・・行ってきます.」


──飛翔フライ


「元気でねー!」「ぜってぇ風邪ひくなよー!」「いつかまた寄ってよねー!」


手をふりながら,大空へと浮かんでいくメリー.村のみんなは,そんな彼女に対し,手を振り返し,温かく見守っている.


メ:「・・・っ.」


メリーは涙がこぼれぬようにこらえながら,村に背を向けその場を離れていく.


晴れた空が,風に揺れていくとんがり帽子を温かく包み込むのだった.










───────────────────────────────








──トクダ村を出てから数時間たったころ


ヒューーー・・・・


メ:(見えた.一目でわかる,あれがフィレンチアなんだ・・・!!)


山を一つ越え,二つ目の山の中腹,緑の水平線の上を飛んでいるメリー.

山を越えた平地の方に姿を現した町の姿に目を輝かせる.


その町は,全体として円形で,灰色の城壁で周りを覆われていた.


町の中には,赤や青,白い建物など,いろいろな色の建物がある.


遠目でもわかる.いや,遠目だからこそわかる.いろんな色が混在する場所.

広さは魔女の村の二倍,三倍,いやそれ以上あるかもしれない・・・.


あれが,町・・・あれが都会・・・


どんな人がいるんだろう.どんなものがあるんだろう.どんなものが食べられるんだろう.


メリーの胸はすでにワクワクとどきどきでいっぱいだった.


メ:(・・・おっと,いけないいけない.今のわたしにはその前にやることがあるんだ.)


メリーはすぐさま浮かれていた気持ちを切り替え,身体の向きを変える.目指す場所はフィレンチアではない.フィレンチアの西にある山だ.


メ:(待ってなさい・・・,絶対やっつけてやるから・・・!!)


闘志をメラメラと燃やしながら,メリーはその場所へと向かっていく.


えっ?どうして山に行くのかって?


・・・.


──時は遡る.



────────────────



これは,旅立つ前の日の晩のこと─


村:「ワシらの村がここで,ここから南に山一つこえたところにシイナ村,北に山一つ越えて平地をまっすぐ行ったところにキリタ村,北東に山二つ超えたところにフィレンチアがある.この三カ所のうちどれかを次の目的地にするのがええじゃろう.」


メリーは,村長が木の棒を使って地面に書いた地図をまじまじと見つめる.


メ:(うーん,村長の地図によると一番距離が近いのはキリタ村か・・・.シイナ村もどんな村か気になるなぁ.・・・けど,気持ち的にはやっぱり町に行ってみたい.最初から行こうと思ってた場所だし.・・・よし,決めた.)


メ:「わたし,フィレンチアに行くことにするわ.」


村:「そうか.まぁ,それがええじゃろう.キリタ村もシイナ村もこの村とさほど変わらんからのう.・・・そういえば─」


メ:「ん?なに?」


村:「いや,実はの・・・これは,行商人に聞いた話なんじゃが,キリタ村とフィレンチアの間に山が一つあっての,フィレンチアのすぐ西にある山なんじゃが,そこが入ったものが二度と出てこれない山らしくての.毎月その山付近で行方不明者が出てるらしいのじゃ.」


メ:「そうなんだ.・・・それじゃあその山には近寄らない方がいいってこと?」


村:「いや,まぁそういうことなんじゃが・・・実はそのー,言いにくいのじゃが・・・その行方不明者が出る原因がじゃな?魔女の仕業じゃと言われておるんじゃ.」


メ:「・・・なんですって.」


村:「あくまで噂らしいのじゃがな?フィレンチアやその近隣の村中でその噂が広まっとるらしい.まぁそういう話があるというはなし・・・」


村長はメリーの様子を見て口をつぐんだ.メリーの雰囲気にビビったからだ.彼女が,普段の彼女からは考えられないほどメラメラと燃えるオーラを放っていたからだ.


メ:「そっか.ありがとうガリバーさん.その山のこと教えてくれて.」


村:「お,おう・・・.」


このときから,メリーの次の目的地は決まっていた.



────────────────────



メ:(魔女だったら止めさせて,魔物だったらボコボコにしてやるんだから・・・!!)


メリーの胸はいつになく使命感に溢れている.魔女の名誉を挽回したい,魔女への迫害をなくしたいという切実な思いを持っているメリーにとって,魔女が悪者であるという根拠にもなりかねないこの事件を解決することは最優先事項だからだ.人助けをした後に,また魔女の悪いうわさが流れてしまうというような最悪のループを避けるためにも是が非でも解決しておきたいのだ.



町が見えてから,いちおう町の人に遠目から飛んでいる姿を目撃されないよう,木々をすり抜けるようにして飛行していたメリー.木々の間を器用にすり抜けながら,なんとか目的の山に到着する.


たどり着いた瞬間,メリーは飛翔を解除した.いざという時のために魔力を温存しておくためだ.


メ:(よーし,歩くぞー!待ってろよ,犯人っ!!)


そうして,メリーは決意と覚悟を胸に,フィレンチア西の山へと足を踏み入れるのだった.





──────





メ:「ハァ・・・ハァ・・・.」


頬を伝う汗を手の甲で拭いながら,メリーはひたすら足を動かす.


・・・どれくらい歩いただろう.もうかれこれ一時間以上は歩いた気がする.それなのに,事件の犯人らしき人物どころか,魔物にさえ出くわしていない.このまま歩いて,はたして犯人に会うことが出来るのだろうか,いまからでも別の方向に歩いた方がいいのだろうか.そんな消えることのない不安に,メリーの気力と体力は失われつつあった.


メ:(今までの山ではラルフやカポックの群れ,猪なんかを5分おきくらいで見かけたのに,なんでこの山には魔物一匹いないのかしら・・・.歩いてるからなかなか出会いにくいってのはわかるけど,それにしても異常過ぎない?)


メ:(・・・それに,さっきからひっかき傷のある木をちょくちょく見かける.あの大きさはラルフのものにしてはでかすぎるし,絶対にこの山には何かいるはずなのに・・・.・・・ああもう!考えてたら喉が渇いてきちゃった.)


メリーは水筒を手に取り,口の中へと水を入れる.


・・・ぽたっ


メ:(・・・あっ,そっか.結構前に飲み干してたんだった.)


──初級魔法 水玉ウォーターボール!!


メリーはすかさず水筒の口の上に手をかざし,掌で小さな水玉を生成,ポタタタ・・・と,水筒の中に落としていく.


メ:(・・・よし,このくらいかな.)


ぐびっぐびっぐびっ・・・


メ:「ぷはー,生きかえるぅーー・・・!!」


正直水筒を使わずとも,直接口の中に水玉を入れれば水分補給は出来る.しかしながら,やはり水筒で飲む方が,なんかこう,飲んでる感がある.そういった理由で,メリーはもうすでに水筒で水を飲むのが癖になっていた.


メ:「・・・あー,どうしよう.喉潤ったら今度はお腹すいてきちゃった・・・.」


メ:(・・・何か食べるものないかなぁ.)


辺りを見渡すメリー.しかし,周りにあるのは植物ばかり.食べられそうなものは一つもない.あるとしても木に生えた果物くらいである.


・・・ん?果物?


メ:(あっ!?果物あるじゃんっ!!)


──風弾ウィンドバレット!!


メリーは生えている赤い果物に向かって即座に魔法を放つ.


ぼとっぼとっぼとっ・・・


メ:(よしっ,とりあえず三つ落とした.・・・見たことない果物だなぁ.)


メリーは落とした果物に駆け寄ると,さっそく両手で拾いあげ,口元に運ぶ.


メ:(うーん,甘酸っぱいいい香り・・・!!あむっ─)


一口食べた瞬間,口いっぱいに広がる熟したリンゴのような甘い香り,食感は熟した柿のようにジュクジュクとしていて,噛めば噛むほど・・・噛むほど・・・


メ:(あれ?思ったよりおいしくないな.・・・というか味がない.匂いだけだ.)


そう,その果物はいかにも甘そうな匂い,食感をしているのにまったく味がなかった.言うなれば,果物版の紅茶みたいなものだ.


メ:(うーん.なんかこうも味気ないと食べる気なくすなぁ.・・・まぁ,いっか.毒は入ってなさそうだし,腹の足しにもなるし.)


メリーは若干テンションを落としながらも,あっという間に三つの木の実をたいらげる.


メ:(・・・よしっ,食べた食べた.休憩して頭も冴えてきた.それじゃそろそろいくぞ!まずは,そうだな・・・ひっかき傷のある木を目印に進んでみよっか.今のところの手掛かりはそれくらいしかないしね.)


そうして,メリーが休憩明けの一歩を踏み出そうとしたそのとき──


「・・・・も・・・なー.」「まぁ・・・・・・・ほんと・・・」


メ:(ん?今のって.あっちのほうから・・・.)


メリーが声の聞えた方へと目をやると,遠くの木々の隙間を通る人影があった.


メ:(あっ,やっぱり人だ!人がいる!なんでこんなところに・・・.)


メ:(魔力は感じない.魔女が変装してるってわけじゃなさそう.それに,あの筋肉質な体.傷のある顔.・・・もしかして,わたしと同じように魔女を退治しにきた人達かしら.いや,きっとそうだわ.そうとなれば─)


メ:「おーい!おじさんたちー!」


メ:(仲間にしてもらう!そんで情報共有してもらって犯人がどの辺にいそうかつきとめる!ついでにわたしが犯人を倒すところも見てもらって良い魔女がいるってこと分かってもらうんだからっ!)


そうして,メリーはさっそく二人のもとへ走っていくのだった.






─────────────────────





フィレンチア西の山

二人の山賊が木々の間を縫うようにして歩いていた.


A:「ほんとすっかり魔物でなくなったよなー.みんなおかしらのペットにビビって逃げちまったみてぇだな.」


B:「そうだな.おかげで俺たちゃ隣の山まで狩りに行かなくちゃならねぇ.・・・マジであのペット何とかしてほしいぜ.毒キノコでも食って死んじまわねぇかな.」


A:「おいおいそんなセリフ,おかしらに聞かれでもしたら・・・」


B:「はっ,てめぇは気にしすぎなんだよ.神経質は早死にすんぞ?」


A:「いやまぁ,そうかもしんねぇけど・・・.」


B:「だいたいなぁ.ここにゃあ俺たち以外誰もいねぇんだから,こういう時くらい陰口いっても─」


メ:「おーい!おじさんたちー!」


男の声を遮り,少女の声がだんだんとこちらに近づいてくる.


A:「・・・いるな.俺たち以外に.」


B:「ああ,・・・ついてるぜ俺たちゃ.」


二人は不敵な笑みを浮かべながら,近づいてくる獲物を見つめていた.





─────────────────




メ:「ハァハァ・・・ふぅ.こんにちは,おじさん達,あたしメリー.見ての通り旅人よ.急に呼びかけたのに待ってくれてありがとう.」


A:「ああ,こんにちは.その歳で旅人なのか,すごいねぇ.お父さんかお母さんと一緒に旅しているのかい?」


メ:「いえ,一人旅よ.」


A:「一人?!魔物もでるだろうに・・・.」


メ:「まぁこう見えて一応腕に覚えはあるの.」


B:「へぇー,腕に覚えがあるのか・・・.」


メリーの話を聴いて,何か探るような目つきになる二人.若干訝しんではいるようだが,信じているようだ.


メリー:(よし!いい感じに会話できてる.こういうときのシミュレーションはもうばっちりだからね.)


メリーは心の中で小さくガッツポーズをする.


メ:「二人はここで何してるの?」


A:「ああ,俺たちは狩人なんだ.ここには魔物を狩りに来たんだよ.」


メ:「えっ,かりゅうど?この山,魔女が出るって聞いてたんだけど・・・.」


メ:(普通魔女が出るって噂されてる山で狩りなんかする?それに,ここまで魔物とも全く出くわさなかったし・・・.ちょっとおかしくない?)


A:「えっ!?えっとそれは・・・」


ドンッ


BはAの脇腹に左肘を食らわす.


A:「痛っ・・・!?」


B:おめぇ,うろたえるんじゃねぇよ.こういう時の対応も頭に指示されただろうが.


A:ああ,すまねぇ.


メ:「ん?どうしたの?いきなりひそひそ話はじめて・・・.」


B:「ああ,すまねぇなガk・・・メリーちゃん,急に小声で話しちまって.実は俺たちは狩人じゃなくて,町に雇われて魔女を退治しにきた傭兵なんだ.」


メ:(魔女を退治しにきた傭兵!)


メ:「やっぱりそうだったんだ.どうしてさっきは狩人なんて嘘を?」


B:「メリーちゃんを怖がらせないためさ.魔女の噂を知らない人にいきなりこの山に魔女が出るなんていったら,パニックになっちゃったり,疑心暗鬼になっちゃったりする可能性があるだろ?俺たちは魔女を狩りに来たと同時に,この山に入ってきちゃった人を無事町や村に送り届ける任務も担ってる.だから狩人のふりをして安心してもらって自然に送り届けようとしたってわけだよ.」


メ:(へぇー,すごいしっかり考えてるんだなぁ.)


メ:「なるほど.そういうことね.ごめんなさい,変に勘ぐっちゃって.」


B:「いいよいいよ.それじゃあ,メリーちゃんも行きたいところに送り届けてあげる.メリーちゃんの目的地はどこかな?」


メ:「あっ,まって.わたしあなたたちと一緒に事件の犯人を退治したいの.」


A:「えっ,俺たちと一緒にか?」


メ:「うん.さっきも言ったけど,わたし腕には自信があるの!だから魔女が出るって噂されてるこの山にきた.信じてもらえないかもしれないけど,絶対に足手まといにはならないから,一緒についていっていい?」


A:「そうだなぁ・・・.ちょっと,二人で相談していいかい?」


メ:「ええ,もちろん.」


そうして,AとBはメリーから少し離れた.


A:おまえ,ハンカチ持ってる? 


B:ああ,持ってるぜ.なんだ作戦bにするのか?


A:ああ.


B:臆病だなぁおまえは.aでもいいだろ,そっちの方が面白いし.


A:いやでもやっぱ怖ぇだろ.こんな自信満々に「腕に自信がある」なんて言われたら.


B:ガキにビビりすぎだろおまえ・・・.まぁいいや.乗ってやるよ.



B:「分かったガキ.・・・じゃなくてメリー!君を俺たちの仲間にする.一緒に魔女を倒そう!」


メ:「・・・っ!ありがとう!絶対にこの事件解決しましょうね!」


メ:(よーし,上手くいった!これで犯人探しが捗るはず!傭兵さんたちがいれば,今日の夕食にも困らないだろうし,事件解決に一歩前進ね!)


メ:「よし!それじゃさっそく犯人をさがしましょっ!今のところ犯人についてはどのあたりにいそうか検討はついてるの?」


B:「ああ,その前にちょっと待ってくれ.魔女探しの前にこれで顔を拭いてくれないか?」


Bはメリーに近づき,ポケットから白いハンカチを取り出す.


メ:「ん?なにこのハンカチ.内側が少し湿ってる.それに,何か変な匂い・・・.」


B:「除菌のためのハンカチさ.相手は魔女だ.何らかの病原体をこの山に撒き散らしてる可能性が有るだろ?だから俺たちはまずはそれで顔を拭いて除菌するのさ.」


メ:「へぇーそういうのがあるんだ.わかったわ.」


メ:(魔女が病原体を撒き散らすって思われてるのはちょっと不愉快だけど.まだ仕方ないか.・・・それにしても病気にならないように顔を除菌するなんて,あんまりよく分からないけど町の方では有名なのかしら?)


メリーは疑問を抱きながらも,傭兵だという二人の指示に従い顔を拭く.


メ:(うー,匂いがきつい.)


メ:「できたわ.このハンカチ返すね.」


B:「いやちょっと待ってくれ.もう少しだけ鼻と口のあたりを拭いてくれないか?念のために・・・.」


メ:「えー・・・?」


メリーはしぶしぶもう一度ハンカチを顔に近づける.


B:「すまねぇなメリー.」


メ:「こんな感じでいい?」


B:「ああーもうちょい鼻のあたりを・・・.」


メ:「うーん,こんな感じ?こんな──


─ドサッ


メ:(・・・あれっ?)


メリーはふいに,その場に倒れた.急に身体全体から力が抜け落ちたのだ.あまりに突然の出来事に,あまりに初めての出来事にメリーは理解が追いつかない.


メ:(どうしてだろう.急に身体が・・・)


B:・・・こいつ.まだ気ぃうしなってねぇみてぇだ.しつこい奴だなぁ.もっかいハンカチ押し付けてみるか・・・.


メ:(意識が・・・)


A:どうだ?うまく・・・たか・・・


B:ああ・・・ちょ・・・・



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