第21話  英雄王

 英雄王(ゴブリンキング)って漫画とか小説とかに良く出てくるよね。僕もファンタジー系は好きだから読んでいるけど、普通、英雄王(ゴブリンキング)って身長二メートルとか三メートルじゃないの?今、僕の目の前の奴は三階建ての建物の高さくらいっていうのかな?


 おおよそ10メートルの巨大な英雄王(ゴブリンキング)は、地下から這い上がるようにして腕を伸ばし、崩れた蟻の巣を押し退けながら地上へ這い上ると、恐ろしいほどの数の巨大羽蟻が地中から飛び出してきたわけだ。


 ブーンという羽音を立てながら何百匹という羽蟻(クピン)が集団となって上空へと舞い上がる。奴らは全身が明るい茶色で透明な羽が自分の体と同じくらい大きい。その大きな羽がたてる音は騒音となって高原湿地帯に響き渡った。


「蟻を使役して巣を作らせていたんじゃなくて、元々あった蟻の巣をゴブリンは住処として活用していたという事かよ!」

 ゴブリンの巣は瓦礫したと言っても、爆裂魔法ではなければ壊れないと言われるほど硬い。頭上から降り注ぐブロック状の塊を腕で弾き飛ばしながらマチューが声を上げると、

「マチュー!とにかく羽蟻の羽を燃やしてくれ!」

 腰から剣を引き抜いたジャメルが必死の声をあげる。

 

「炎よ!爆ぜろ、広がれ!炎の龍となり敵を飲み込め!」


 集団となって頭上を飛ぶ羽蟻を飲み込むようにして炎がうねるように広がっていく。羽蟻(クピン)の羽は半透明で大きな作りをしているから、あっという間に羽蟻たちの羽は燃え上がったけれど、地面へと落ちた羽蟻たちは健在だよ?


 羽は燃やされても硬い体まで燃やす事は出来ず、地上に落ちてきた奴らは牙を剥きながら僕らの方へ敵意を見せる。

 でかいよ蟻!怖すぎるだろおおおお!


「氷の女神よ、我の願いに応じこの地へ降臨せよ!敵を貫き、飲み込み、愛しき子らの苗床とせよ!」


 この時の僕は全く知らなかったのだが、この時の二人はエレメントの神を降臨させる特殊な魔法を使っていたらしい。


 空から氷の柱が落下してきたかと思うと地面へと突き刺さり、その柱は花弁を開くようにして氷を開花させていくと、中からそれは麗しい女神の彫像が現れた。

 その女神が瞳を見開くと、地表はあっという間に氷に覆い尽くされて、地上に落ちた羽蟻たちを呑み込んでいく。


 その氷はただ相手を凍らせるだけではなく、呑み込んだ敵の養分を吸いあげていく。羽を燃やされた蟻たちがあっという間に氷の中で萎れていく様を眺めた僕は、これ、僕が何もしなくても助かったんじゃないの?と、思ったわけだ。


 さすがAランクの冒険者、しかもエルフ独自の魔法を顕現させる事が出来るってわけなのだろう。氷は英雄王(ゴブリンキング)の足元にも広がり、踝から膝、腿、腰、胸元へと分厚い氷で包み込んでいく。

 

 英雄王(ゴブリンキング)はボサボサの髪の毛が腰まで伸びているような巨大な奴で、腰の周りを魔獣の皮のような物で覆い、素肌に銀色の胸当てをしているような格好だった。

 その全身は刺青のような紋様に覆われており、光る石で作ったネックレスのような物で首と額を飾り付けている。


 逞しい体つきをした10メートル級は顎の上まで氷で覆い尽くされると、まるでゴブリンの王に慈悲を与えるかのような眼差しで氷の女神が足を運び、巨大な氷柱と化した英雄王の体に触れる。


 苗床に利用するために養分を直接吸収するのかな?

 氷の女神の苗床ってなんなんだろう?

 ちょっと想像しただけで怖い。


 怖いなぁとは思ったけど、僕は氷の女神に感謝をした。

 ここで10メートル級が無事に吸収されれば、クエスト終了という事になるのだろう。

 氷の女神の吸収力はエグいほどで、そこら辺に散らばっていたゴブリンたちの死体ですら吸収して萎れたミイラ状態にしちゃっている。


 僕の想像では、巨大なゴブリンもあっという間にミイラ状態になっているはずだった。そう、萎れているはずだったのに、顎の上まで氷で覆われた英雄王はびくともしない。氷の女神が、これはちょっとおかしいなぁみたいな感じで小首を傾げると、

「あああああああああ!」

ジャメルの絶叫が響いた。ダメージを受けた様子のない英雄王は、氷を粉砕してしまうなり、振り下ろした拳で氷の女神を叩き潰したのだ。


「ジャメルー!」

 氷の女神が受けた衝撃は召喚者にも反映されるらしい。

 その場から吹っ飛び、激痛のあまり転がるジャメルを振り返ったマチューが、

「炎の龍よ!今すぐ敵を飲み込め!殲滅せよ!」

 羽蟻を粗方地上に落とした炎の龍に向かって大声を上げる。


 長大な蛇そのものの形をした炎の龍はうねりながら舞い上がると、巨大ゴブリンを包み込むほどの炎を吐き出しながら口を開き、牙を剥いて飛び掛かる。


 どぉおおおおおおおん


 爆音が轟き渡り、瓦礫の山が上空に舞い上がる。炎の熱が身を焦がすほどの熱量で辺りに広がり、僕もまた飛んできた岩に押しやられるような形で後方へとすっとんだ。


 高原湿地帯に転がる蛇紋岩の下敷きとなった僕が、ボロボロの状態になりながら岩を押し退けて起き上がった頃には、爆炎が大分収まっていて、周囲にはもうもうと煙が舞い上がっているような状態だった。


「嫌な予感しかしねー〜」


 氷で包まれた英雄王が何のダメージも受けていない時から僕は気がついてはいたんだ。

 山のようなゴブリンを倒している間、身の丈よりも大きな武器を振るうゴブリンが何体かいたんだけど、そいつらはほぼ全員、薄い膜のようなもので体を覆われていて、衝撃らしい衝撃を受けなかったんだ。


 下っ端相手なら無敵状態の貫通魔法も、上位ゴブリンには通用しなかった。

 だとするのなら、英雄王だって、何かの膜のようなもので守られていたとしてもおかしくはないんだ。

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