親父
小深純平
第1話
私は昨年、定年を迎え61歳になった。
家にいる時間が長くなり妻との距離が短くなり、今までは見えなかったことが互いに見えるようになった。妻は私に一挙手一投足、何かと注文をつけるようになった。一言一句にも若い頃なら「そうね」という相槌も多々聞かれたが最近はほとんどが否定的だ。食事の時は「お父さん食べ方がうるさくて汚い」とか言って、娘と2人で軽蔑的な笑いをする。部屋でただテレビを見ているだけでも「だらしない恰好しているわね、ジャージしかないの」とか、とにかく妻は私がよく見えるらしい。以前は全方位が子供達だったが、今は子供達も自立して全方位が私なのだ。時のながれで、ある程度は仕方がないと思っているが毎日の事ではいささか疲れてしまう。そこで私は妻に提案をした。「互いに自分たちの時間が増えたのでそれぞれが別々に暮らさないか」、「そうね」妻はあっさりと相槌を打った。子供達にも相談をしてみたら快く賛成をしてくれた。また、幸い私には空き家になっている実家がある。関東のQ市にあるこの家は都内から1時間くらいであり妻とは適当な距離感になる。
私は早速、引っ越しの準備に取り掛かった、しかし実家なのでそれほど荷物は必要としなかった。1週間後には準備が整のい、私は妻と娘に見送られ気持ちよく車のハンドルを握った。
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