第7話
時は遡る。
グレイはジリウスと別れた後は目的もなくアルティシア領も中心であるギルド通りを歩いていた。
名前の通りに様々なギルドが拠点を構え賑わいを見せる区域である。
通りすがる人々と適当に挨拶を交わしながら、グレイはスラム街の子供が出していた屋台から肉串を買い。
食べながら活気のある街を眺めて歩く。
アルティシア領は黒き森の影響で各地の冒険者や商人達がチャンスを求めて多く出入りしており辺境という名の割には活気に溢れている。
「?」
食べ終えた串をスライムゴミ箱へ食べさせていると冒険者ギルドから怒声が聞こえた。
別段珍しい事ではないがその中に聞き覚えのない男の声が聞こえたのが気になった。
どうせ用事がある訳じゃないしと野次馬根性を発揮してグレイは冒険者ギルドへ足を向ける。
「ウルセェ! 辺境の冒険者ギルドが俺らに指図するんじゃねぇ!」
そこで目にしたのは別段珍しくもない『辺境』を下に見る冒険者達だった。
小綺麗な身なりの装備を見るに聖都では中堅クラスだったのだろう。
装備も程々に良い物だと言うのは分かるがそれだけだ。
黒き森の探索へ出るにはアルティシア領が設けた特殊依頼をこなさなければならないのだが、必ずと言っていいほどに今のような問題が起きる。
そして問題を起こす奴ほど実力が足りない。
別段グレイが興味が惹かれるわけではないし、貴重な自由時間を潰すにはインパクトが弱すぎた。
無駄に絡まれている受付の子が可哀想だとグレイは一歩踏み出す。
「調子に乗るなよ! 辺境ふぜいが!」
「それはマズイよアヤト!」
言葉と同時に即座に動く。
腕を振り上げた青年の腕を掴む。
流石に手を出した相手に容赦は必要ないだろう。
青年が驚いて顔を向けてくるがグレイは構わずに腕を絡め取り外へ投げ飛ばした。
「ルールを守れないなら聖都へ帰れ」
「グレイさん!」
受付の少女がグレイの姿を見て安堵の息を溢した。
青年の仲間であろう2人の少女は突然の事に対応できないでいる。
「あなた! アヤトになんて事を!」
剣士と思われる少女が腰に下げた剣を抜こうとするが、瞬きの間に踏み込んでいたグレイに抑えられ身動きが取れなくなる。
「うるせぇな 仲間の制御も出来ねぇやつが騒ぐなよ」
目の前で囁くグレイの瞳に温度は無く、少女を怯ませるには十分だった。
「さぁあそこで気絶してる仲間を連れて帰ってくれるかな? 冷静になったらまたおいで」
笑顔を浮かべて少女達へ言い聞かせると、涙を浮かべてギルドから出て行った。
「ありがとうございました! 丁度ギルド長も少し席を外していまして......」
「おう今帰ったぞぉ 入り口に新顔居たがどうした?」
受付の少女に頭を下げられていると筋骨隆々のスキンヘッドの男がのそりと入って来た。
受付の少女は男に事情を説明すると困ったように頭を掻いて頭を下げた。
「すまんな 面倒かけたなぁ」
「良いよ別に ジンも忙しそうだしな」
「言い訳になっちまうんだが 最近なぜか魔物動きが活発になっててな......ギルドに在中出来てねぇんだ」
魔物の活性化。
こんな所でもカルト集団の影響が出ているのかとグレイは少し考える。
考えた所でどうしようも無いと切り替え、困って眉を下げるジンの肩を叩いて励ます事にする。
「まぁしょうがないさ 魔物の対処は最優先だろうし」
「いや本当にすまねぇ グレイが居なかったらサリアが危なかったからな」
グレイはジンが何度も頭を下げるのを辞めさせ、適当に話を切り上げて冒険者ギルドから外に出た。
「見つけた」
意識の空白に入り込まれた。
「お前が特異点? うん見えない」
目の前には全身血に塗れた幼女がグレイの裾を掴んでいた。
思考が止まる。
頭にある角を見る。
魔族?どうして魔族がここに?。
いやそんな事より。
「怪我してる! おいジン!」
「あいよ! って魔族!」
「んな事より怪我してるぞ!」
「おぉマジだ! つっても今ウチにヒーラーいねぇぞ!」
グレイは血に濡れる事を厭わずに幼女を抱き抱えて走り出す。
「お嬢に見せてくる!」
「俺も行くぞ!」
男2人が全力疾走で街中を駆け抜ける。
それを見て住人は驚くが走っているのがグレイとジンだと分かると面白半分で騒ぎ始めた。
そしてジリウスの館の前で。
「旦那! 怪我人だ!」
「なんだって! スグにミリィに見せてみよう!」
そうして男3人が正門の前で声を張り上げ、それに気づいたミリアリアの場所へ向かう。
それが一連の騒動の中身だ。
何故、魔族があそこに居たのか。どうして怪我を負っていたのかはグレイ達には分からない。
とりあえずは完治した幼女に話を聞くことにしよう。
グレイ達は傷が治っていく幼女を見て安堵の息を吐くのだった。
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