第5話 お母さん

ころころと転がりながら旅を続ける卵がある

美しくなる泉を目指して転がり続ける二つの卵

先頭を行くのはルヴナン、後ろからついて行くピヨ

幾夜を越えるたびに二人は仲良くなっていく


今夜もピヨはルヴナンに色んなことを話す

生んでくれたお母さんの事、ふ化した兄弟達がかわいかったこと

そして……おいて行かれてしまった事


ルヴナンはうんうんと返事をしながら真摯にきいてくれる

ピヨは楽しいも悲しいも受け入れられる気がして

ルヴナンに話題尽きるまで話し続けた


朝焼けの光が二人の殻を温めたころ

ピヨは知った声を聞いた

それはお母さんの声だった

ピヨはとたんに方向を変えて転がりだす

声の方向へ、もっと近く、もっと早く


お母さん、お母さん、そうだ、近くにいたんだ!


出会いたい感動と離れてしまわないかという焦燥感

そして希望を胸に、ピヨは転がった

ころころころころ転がって、ついには声の主へとぶつかった


「おやおや卵のままで、どこの子だい?」


ピヨは声が出なくなってしまった

その声は近くでよく聞けば、知っている母の声ではない

固まったままでいるピヨに、その声の主は事情を察し

ピヨを子供に迎えようかと提案する


「今は決めれない、友達の旅の途中だから、そのあとじゃダメかな」

「あたしもずっとここにいるわけじゃないからねえ」


ピヨは迷う

ここで着いて行くか、ルヴナンの元に戻るか

ルヴナンはピヨが居なくても旅を続ける、でもピヨは……

でもピヨはルヴナンとまだお話がしたかった

ピヨは誘いを振り切って、ルヴナンの元へ戻る道を選ぶ

元の道を転がって、転がって、ルヴナンが行ってしまわないうちに

あの親切な声の主にはもう会えないだろう……


戻るとあのどこか怖い母の子守歌が聞こえてきた

ルヴナンが一人歌い、ピヨを待っていたのだ

ピヨはこつんと卵をぶつけ、ルヴナンに存在を知らせる


「おいて行かれたと思ったよ」


いつもとは違うルヴナンの暗い声

ピヨは思う以上にルヴナンが自分を待っていてくれる存在だということを

この時に初めて知ったのであった

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