生まれることも飛ぶこともできない殻の中の僕たち

春野 一輝

第一章 誕生日おめでとう

第1話 生まれたくない

ピヨはふ化が遅れたひよこだった

他のひよこはもうすでに母親とともに旅立ってしまった

巣に残されたピヨは、卵の中の栄養が尽きて死ぬまで待つか

試される大地で、ひたすら殻にこもる選択を取り続ける

死が近づく中、このまま死ぬのも嫌だなと

ぼんやりからの中で過ごしていた頃

同じように、殻にこもりながら、ころころ転がって卵のまま

旅をしているという、卵の存在に出会う

自分が何の鳥か明かさない、その卵の存在に

ピヨはミステリアスな魅力を抱きながら境遇を話す

最終的に、どうせ死ぬから卵のまま転がってきたという

その大胆さを告げるミステリアスな卵に対して

ピヨは興味を引き始め、魅かれ始めていた

しかし、その卵は目的の場所に向かうべく旅立ってしまう

ピヨは黙って通り過ぎていくのを眺めることしかできなかった

意気地なしのピヨ 死ぬ運命のピヨ 帰ってくることを待つことしかできないピヨ

弱虫のピヨは死んでしまうのだろうか 世界を知らずに

その時はじめて寂しさを覚えたピヨは

少しだけ転がってみる練習をしてみた

外は音がガタゴト聞こえ、唸る音が叩きつけてくるようで怖かった

ちょんと叩いた時にウッカリころころと転がって行ってしまう

ころころころころころ 転がり続け ウワー とむなしい悲鳴が飛び出す

死 と 世界に対する恐怖で 固まったピヨ

もう死ぬしかない


と思ったとき、止まることができた

何かと思うと、先ほどのミステリアスな卵だった

寂しかったの?と聞かれると、どうしても黙ってしまうピヨ

会いたかったのを前にして、ただ泣いてしまったピヨ

世界の怖さと死を覚悟して、実は少ししか動いていなかっただけなのに

こんなことで君に着いていけないだろうとわんわん泣き出してしまった

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