第2話
「なんなんですかさっきの」
近くの自販機で同じ炭酸水を買ったお姉さんが隣に座ったのを見て。
俺は気になって仕方なかった質問を投げかけた。
「君、お姉さんに喰われてくれない?」は、まだ昨日言ってたことなので本人確認のようなもの。
でも、「喰われないなら堕ちて?」ってなに。
冗談半分で言ってるようだったら気にしないが、言ったあと。お姉さんが中々俺から熱い視線を外さなかったので、気になってる。
「言葉通りの意味だよ。私は君のことを堕とす!」
ガッツポーズまで決めちゃってるが、なんでそうなった。
酒にの匂いは感じないし、顔も赤くなってないから酔っ払ってるように見えない。
「そ、そんな可哀想な人を見るような目で見ないでよ。たしかに? 急にこんなこと言ってきた見ず知らずの人っておかしいのかもしれないけ……ど? あれ?」
お姉さんはキョトンとした顔を向け。
「私たちって名前知らなくない?」
「そりゃ昨日は酔っ払いに好き勝手されてたので、知らないですね」
「んんっ」
切り替えるため顔を背け咳払いしてるが、赤くなってるのを隠しきれてない。
「私は
「田中龍星です」
「へぇ〜。龍星くん。……龍くん。かっこいい名前だね」
お姉さん、楓さんは小声でそう言い。
「もし堕ちたら私のこと、楓ちゃぁ〜んってとろけた顔で言わせよっと。えへへっ。今から堕ちるのが楽しみだぜっ!」
意味不明なことを声高らかに言ってきた。
「楓さん酔ってます?」
「よ、酔ってないわい! 昨日高校生を喰うのは犯罪だら無理だって言ったのは龍くんの方じゃん。だから、仕事中色々考えた結果堕とすことにしたの」
未成年に手を出すのはダメだから、堕とすっていう理屈は理解できなくもないけど。
「なんで……」
「?」
「なんで俺なんですか」
気になっていた。楓さんからしても、俺たちは昨日たまたま出会っただけの関係。
酔っ払っていたということもあるが。
今は違う。素面で俺を堕とすと言っている。
正直、嬉しい。俺のことをこうやって面と向かってちゃんと見てくれてる人がいるっていうのは嬉しい。
でも、謎だ。
なんで?
どうしてここまでグイグイくるの?
「龍くんはまた難しいことを聞いてくるね」
楓さんは一息おき、炭酸水を一飲みし。
「もちろん将来的に龍くんを喰いたいっていう願望があるから堕とすんだけど……。昨日、私さ。色々溜まりに溜まって龍くんに出会わなかったら、投げ出してたかもしれないんだよね。助けられたから、そのお返し? 的な? 一目惚れ? 的な?」
お返しと一目惚れは全然違うと思うんだけど。
さては楓さん、酔ってるな?
「まぁ俺はそんなつもり無かったんですけど、大体分かりました」
「うむうむ。くるしゅうない」
酔ってそうだ。
「程々にした方がいいですよ。いつか体壊しちゃいますから」
「ん? いや酔ってないから! 酔ってたら多分、名前を聞いた辺りで龍くんの服がなくなってるからねっ」
グッと親指を立ててきた。
酔ってたら暴走するって自分で言ってるのに、なんでそんな誇らしげな顔をしてるんだ。
正直、迷惑極まりないけど。なぜだろう……。
不思議と楓さんから小動物的な癒やしを感じる。
一つ一つのジェスチャーや顔が可愛いくてずるい。
いつもは一人の時間を過ごしてたけど、もっと楓さんに癒やされたい。
ま、もう炭酸水を全部飲んだから帰るんだけども。
「俺、明日も……明後日も。多分その次の日もその次の日もずっと同じ時間帯、このベンチにいると思うんで。……よかったらまた会いましょ」
「おっ。もしかしてお姉さん、ナンパされてる?」
「そう受け取ることもできます」
「えっ。や、やだなぁ〜冗談じゃ〜ん」
俺はもっとここにいたい気持ちを抑え。
体をくねくねさせ夢中になってる楓さんを見ながら、明日も絶対行くぞ……と心に決め、家に帰った。
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