第4話 お互いに惚れ直したということで

「お疲れ様です」戦闘終わりのレイに、ひめが話しかける。「相変わらずカッコいいですね。また惚れ直しました」

「ありがとう。でも、それはこっちのセリフ」

「では、お互いに惚れ直したということで」

「そういうことにしておこう」


 それから、2人は抱き合った。軽くキスをして、お互いを見つめてほほえみ合う。


 助けられた少女が、若干引いていた。顔を赤くして、ワタワタしていた。

 それも当然だろう。いきなり目の前で抱き合ってキスを始めるんだから。


「さて……」キスを終えたレイが、少女に、「ケガはない?」

「は、はい……」

「それはよかった。じゃあね」


 軽く手を振って、レイは路地裏から去っていこうとする。ひめも頭を下げてから、レイに続こうとした。


「ま、まって……!」少女は我に返って、レイたちに声をかける。「あ、ありがとうございました……! その……お礼を、お礼をさせてください……!」

「いらない」これまた即答だった。「お礼が欲しかったわけじゃない。ただカッコつけたかっただけだから」

「え……いや、その……でも……」少女はここで機転を利かせて、「じゃあ、その、助けてください……!」

「……助ける?」レイは足を止めて、「……なにか困ってることがあるの?」

「は、はい……その……お父さんが、亡くなって……その、いろいろ……とにかく、一度家に来てください。詳しいことは、母と一緒に……」


 レイはひめを見る。そこでひめがうなずいたので、


「いいよ。わかった。キミの家まで案内して」

「……」少女は顔を明るくして、「ありがとうございます……!」


 というわけで、レイとひめは少女の家まで案内される。


 道の途中で、レイは少女に聞く。


「少しマヌケなことを聞くようだけど……ここはどこ? 城下町みたいだけど……」

「は、はい……オリヴィエという城下町です。結構大きくて……人も多いです。だからこそ、ちょっと治安も悪いんですけど……」少女が襲われるくらいには、治安が悪い。「でも、良いところですよ。さっきみたいな人たちは少数で……大抵の人は優しくしてくれます」

「なるほど……」それは本当かもしれない。全員が全員さっきみたいなチンピラなら、少女の命はなかっただろう。「グレイブって人が強いって聞いたんだけど、本当?」

「あ……たぶん本当です。グレイブさんはこの国の騎士団長で……とっても強くて優しいって評判です」


 騎士団長グレイブ……その人物の評判が高いようだ。


「勇者様が魔王を倒したって聞いたけど……」

「はい。20年前に……といっても、魔王と相打ちになったみたいですね。今はご存命じゃないです」

「それは残念」戦ってみたかったんだろうな。「女神の末裔というのは?」

「勇者様と一緒に魔王と戦った英雄です。3人いるみたいなんですけど、名前まではちょっと……」勇者ほどの知名度はないらしい。「そのうち1人は勇者様と永遠の愛を誓いあったとか……あぁ、ロマンチックですね……」


 うっとりと、少女は空想するように語る。


 ともあれ、レイたちがこの世界に来る前にも、いろいろな戦いがあったようだ。

 勇者と女神の末裔……まぁその戦いの話を聞くと長くなりそうである。122296文字くらいはありそうなので、ここでは聞かないことにしよう。


 まぁ……女神の末裔とやらと出会うこともないだろう。他の国にいるようだし、勇者はすでに亡くなっているようだ。


 勇者と言われるほどの人物……会ってみたかったけれど、仕方がない。


 そしてしばらく歩いて、


「到着しました」少し町中から外れた場所にある、小さな家だった。「ここが私の家です」


 木造の、お世辞にもキレイとは言えない家。所々崩れかけていて、生活の困窮を伝えていた。


「ただいま、お母さん」少女は元気よく扉を開けて、「ねぇねぇ。ちょっとお礼をしたい人がいて……家に入ってもらってもいい?」


 少女が入室交渉をしている後ろで、レイがひめに言う。


「……今思ったけど……僕たち、家がないね」

「お金もないですね……」ひめは自分のポケットを探って、「無一文、無職、無住居……服を着てるだけサービスしてくれてるほうでしょうか。言葉も通じますし……かなり優遇してくれてますね」

「そうだね……」チート能力ってのを受け入れていれば、家はあったのだろうか。「まぁいいか……キミがいるだけで僕は幸せなんだけど……キミが嫌な思いをするのは嫌だな」

「私は大丈夫ですよ。あなたがいれば、野宿でも大丈夫」

「ありがとう……」


 実際、野宿くらいなら問題ない。食べれなくて、飲めなくて、苦しんで死んでも問題ない。そこに恋人がいるのなら、笑顔で朽ち果てよう。


「あら……」家の中から顔を出したのは、なんだか体調の悪そうな女性だった。「あなたたちが……娘を助けてくれたのかしら……」

「助けてないよ。ただ、カッコつけたかっただけ」それからレイは頭を下げて、「ごめん……敬語使うの苦手で……」

「敬語? そんなの王族くらいにしか使わなくていいけれど……あなたたちの国では違うの?」

「え……? ああ……」そういえばここは異世界だった。「……じゃあ、タメ口でもいい?」

「どうぞ」優しそうな女性で助かった。「とにかく……入って。娘を助けてくれたお礼がしたいわ」

「だから助けてないって……」


 どうしても人助けをしたと言いたくない、気難しいお年頃のレイだった。


 そんな感じで照れているレイもかわいいなぁ、とひめは思った。


「とりあえず、お茶でも用意するわね。さぁ、入って」

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