第3話 よく言われるよ

 相手は6人。屈強そうな、いかにもケンカ慣れしていそうな男たち。


「喰らえ!」


 気合の雄叫びとともに、男の1人が右の拳を放つ。


「ふむ……」レイはそれを首をひねってかわして、「なるほど……」

「なにに納得したんだよ」

「そうだね……あなたたちは、この世界では強いほう?」

「ああ……と言いたいところだが、そうでもねぇな……一部のバケモノには遠く及ばねぇよ」

「正直な人だね」俺たちが最強だ、と言い出すと思っていた。「バケモノってのは?」

「有名なところだと女神の末裔……それと勇者はそれより強いって話だ。まぁあいつらはこの国の人間じゃないからな。会うことはねぇだろうよ」

「じゃあ、この国で一番強い人は?」

「……王宮のグレイブじゃないか? まぁ、直接見たことはねぇが……」

「ありがとう」それからレイは男と距離を取って、「いろいろ教えてくれて……優しいんだね」

「冥土の土産だよ」


 男はグルグルと肩を回して、


「覚悟はいいな?」

「最初から出来てるよ」


 それから男たちは一斉にレイに飛びかかった。


 その騒ぎに乗じて、少女がひめのもとに駆け寄って、


「お、お姉さん……」

「ケガはないですか?」ひめは少女に微笑みかけて、「怖かったですよね。もう大丈夫ですよ」

「で、でも……」少女は男6人に襲われるレイを見て、「あのお兄さん……」

「大丈夫」ひめからすれば、まったく心配はない。「うちの恋人は、強いので」


 6人の暴漢VSレイ。


 男たちは数の有利を生かして、次々と攻撃を繰り出す。


 しかし、


「な……」一発も、レイには当たらない。レイは完璧に攻撃を捌いていた。「なんだお前……」

「さぁね。僕が何者かなんて、僕も知らない。ただ……あなた達よりは強いみたいだね」

「……調子に乗るな!」


 叫んで、男は手のひらをレイに向けた。


 そして、


「……わ……!」危険を察知したレイが横っ飛びする。「……すごいね……それが魔法ってやつ?」


 レイの横を通過して壁にめり込んだのは、氷の魔法。男の手から発射されたそれは壁をえぐり、そして消えた。


「お前から魔力を感じないんだが……」男は挑発するように、「まさかお前、無能力か?」

「ああ……なんか、そんな事言われたね」


 転生先を斡旋してくれた女神様がそう言っていた。

 恋人と同じ世界に転生する代わりに、魔法は使えない。


「魔法も使えないやつが粋がるなよ」


 そうして、男たちは各々魔法を構える。

 炎の魔法。水の魔法……様々な魔法が構えられ、レイを取り囲んだ。


 レイが1つ深呼吸をする。そして明らかに集中力を高めている。


 真剣な表情のレイ。

 そんな彼の姿が、ひめは一番好きだった。


「やっちまえ!」


 男の合図とともに、一斉に魔法が放たれる。


 破壊の音が、路地裏に響いていた。氷の魔法や炎の魔法で温度が切り替わる、激しい攻撃。


「お、お姉さん……!」少女がひめに抱きついて、「お兄さんが……お兄さんが……! やられちゃうよ……!」

「大丈夫ですよ」たしかに魔法には驚いたけれど、レイがやられるほどじゃない。「見ていてください。私の恋人は強いんです」


 先ほどと同じ言葉。

 どんな状況になっても、ひめはレイの強さを信じている。


「どうした?」男が余裕たっぷりに、「防戦一方だな。そのまま逃げてても、勝機はないぜ?」

「逃げてるわけじゃない。これが僕の戦い方ってだけ」

「ほう……戦い方ねぇ……どんな戦い方なんだよ」

「そうだね……例えば……」レイは男を指さして、「キミは……魔法の威力がコントロール出来ないね」

「な……?」


 図星だったらしい。男は一瞬息を呑んだ。


 そしてレイは、続ける。


「右隣の人は、真っすぐしか魔法が飛ばせない。さらに隣の人は……回数制限があるね。魔力が足りないのかな? あと数回しか魔法が放てないと見た」

「……」その推測のすべてが的中していることは、男たちの反応を見ていればわかる。「お前……ってことか?」

「うん。キミたちの戦いは、観察させてもらった」考えなしに魔法を撃ってくれたから、観察しやすかっただろう。「6人合わせて23点」

「はぁ?」

「戦力分析だよ。80点を超えないと、僕が負ける要素はないね」

「お前……さては嫌なやつだな?」

「よく言われるよ。まぁ事実だから仕方がないね」


 実際にレイの性格は悪いのだろう。


 だからこそ、強い。戦闘において性格が悪いのは、強みなのだ。


 相手の弱点を見抜き、そして戦いに利用する。


 気がつけば相手は自由に動けない。弱点ばかり狙われて、自分の苦手な分野で戦い続けることになる。


 とてもストレスが溜まる戦いを強制されるのだ。


 それがレイの戦い方。異世界でも前世でも、同じ。


 男たちは激高してレイに襲いかかる。


 しかし戦いが続けば続くほど、レイに情報を収集される。


 最初は防戦一方だったレイも、しだいに反撃する余裕が生まれ始めていた。


 受け流し、投げ技、関節技、カウンター。すべて相手の力を利用した返し技。自分から攻めるのではなく、相手の攻撃を捌いてからの反撃。

 究極の後の先。返し技に特化して、相手に合わせて動きを変える。


 その戦いぶりは、異世界相手でも健在のようだった。


 やがて、


「クソ……!」男は地団駄を踏んで、なにか企んだような笑みを浮かべる。「じゃあ……こういうのはどうだ?」

「……?」


 首を傾げるレイ。


 その瞬間、男の1人がひめの背後に回り込み、そのまま羽交い締めにして拘束した。


「あ、ひめさん……」

「どうだ?」ひめを羽交い締めにした男が、勝ち誇ったように、「こいつ、お前の恋人だろう? もしもこいつが殺されたくなかったら、大人しくしてろ」

「あ、いや……その……」レイは急に歯切れが悪くなって、「ひめさんには、手を出さないほうが……」

「なに言ってやがる。すぐに――」


 言葉の途中で、男が宙に舞った。


 男はそのまま壁に叩きつけられて、動かなくなった。どうやら失神したようだった。


「申し訳ありませんが」男を投げ飛ばしたひめが、「囚われのお姫様をやる気は、ありませんよ。私は……強いので」


 そう。このカップル……ひめも強い。なんならひめのほうが強いかもしれない。


「だから言ったのに……」警告を無視してひめを襲った男に同情しつつ、レイは言う。「ひめさんは加減できない人だから……戦うなら僕にしときなよ。殺さないようには、してあげるから」


 その言葉とともにレイは、手招きをする。戦うなら相手になるという意思表示だったが……


 手招きに乗ってくる相手は、もはやいなかった。


 男たちは2人のカップルに怯えたように、逃げていった。

 

 戦闘終了。勝者バカップル。

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