第7話

「大丈夫?」


「だ……だ……!」


 顔を真っ赤にしながら唇を震わせる少女。ついに、オーバーヒートに達したのか、限界まで顔を赤くしたあと────


「だ、大丈夫じゃないですごめんなさ~~い!!!」


「え、あ、ちょっ!?」


 ────超高速で立ち上がった後、頭を下げてから勢いよく講堂の外から出ていってしまった。


 え、そんなに恥ずかしいの?いくら女子校で、男子に対する免疫が恐らく少ないだろうという可能性は考えていたが、まさかここまで……?


 ちらり。


「っ!」


「……っ」


 ちらり。


「!」


「……」


 何故だろう。先ほどから顔を合わせようとすると全く目が合わない。全然こっち見ないじゃん。さっきまで穴が空くほど見つめてたくせに。


「……あ」


 声にならない音が口から漏れた。視線の先には、あの時俺を見つけて首トンを披露した少女がいた。同級生だったのか。


「………ぁ」


 勘違いでなければ目が合ったと思う。しかし、どこか気まずそうに目を動かしたあと、ごめんね?というふうに両手を合わせた。若干頬が赤い。


 まぁ遠いもんね、ここからそちらまで。ここで下手に動いたら注目されること間違いなし。気持ちは理解できる。


『……はぁ、裕樹さんは新入生がここから出るまで動かないで下さい。私が案内します』


 花火様から助け舟が出された。


「災難でしたね、裕樹さん」


「えぇ、まさかあんなにガン見されるとは思いませんでしたよ」


 20分後、あの後もなかなか動かない新入生を、またもや鶴の一声で花火様が動かした後、ほとぼりも少しは冷めたでしょうということで、俺が所属する薔薇組がある棟に移動している。


 瑠璃学園は、三つの学部で構成されており、それぞれ『強襲科』『魔力工作科』『後方科』となっている。


 強襲科が、大多数のヒロインが所属する学部で、戦場に赴きアビスを倒すため表舞台に立つ生徒達が集まっている。


 魔力工作科とは、ジャガーノートを製造したり、メンテナンスしたり、はたまた戦闘に役立つものを開発したりと、研究家気質の人達が多い。俺を検査したのも魔力工作科のエースと呼ばれている人らしい。


 後方科は、強襲科の生徒達を後方で支援する人達…まぁまんまか。戦場でヒロインが上手く立ち回れるようオペレートしたり、どうやってかは知らないがヒロイン達の戦闘力を底上げしたりできるらしい。不思議だ。


 そんな俺が所属する学部は強襲科となる。瑠璃学園新入生は全部で250人おり、180名が強襲科、50名が魔力工作科、残りの20名が後方科だ。


「ここの階が、主に強襲科が使用する棟となります。一年生は一階ですね」


「え、棟?」


「はい、棟です」


 つまり、今俺が踏み出している範囲から目に見えるとこ全てが強襲科で使うところ……?デカくない?


 流石は瑠璃学園と言ったところか。規模が一般校とは違いすぎる。俺の中学校はこんな何個も棟はない。


「それでは、私はここで。薔薇組は一階の端の方にありますので、迷うことは無いかと」


「あれ、来てくれないんですか?」


「行きたいのは山々ですが、私がここを通ると『やかましい』というレベルでは済まされなくなってしまうのでちょっと……」


 くるくると、髪を指で弄り始めた花火様。なんだろう、不都合なことでもあるのか……?


「まぁ、詳しいことは二週間後に分かると思いますので」


「何でそんなピンポイントに……まぁ分かりました。今日の夜ご飯どうします?」


「今日は生徒会の仕事がありますので、食堂で取ります。あまり裕樹さんに負担をかけたくありませんからね」


「別にいいんですけど」


「気持ちの問題です」


 優しく人差し指で額をつつかれる。全くもって痛くないが、「いてっ」と大袈裟にリアクションしておく。


「それでは裕樹さん。ではまた」


「はい。ごきげんよう」


 来た道を戻っていく花火様を見送ったあと、俺も階段を降りていく。一階の端の方だったよな。


「…………」


 階段を降り、角を曲がった瞬間足を止めてしまった。なぜなら、教室の窓という窓から、同級生である少女達がびっしりと顔を出していたからである。


 いやこっわ。何それすっごい怖いんだけど。


 目に見える光景に「えぇ……」と声を漏らし、目線を上にあげる。


 ここは……睡蓮組か。てことは、薔薇組は一番向こう────え、こんな注目されながら俺この廊下歩くの?めちゃくちゃダルいんですが。


 気まずいよりも、どこか面倒臭いなという感情の方が勝ってしまう。どうにも、一度死んだからかは知らないが、感情の起伏も中々出にくくなっている。喜怒哀楽はまだマシな方なんだがな。


 歩を再開させ、目的地の薔薇組へと急ぐ。もう少しで10時になるし、早く行かないとホームルームに間に合わない。


 睡蓮組を通り抜け、百合組、茉莉花組、竜胆組、紫陽花組の前を通り、最後の薔薇組……あれ、ここは窓から顔だしてないんだ。


 ふーんと思いながら扉の取っ手に手をかけると、コソコソとした喋り声が耳に入ってきた。


「や、やばい……!あの人、同じクラスなんだよね!メイクとか大丈夫かな……!」


「最悪!今日に限って寝癖少し残ってるなんて……っ!ねぇねぇ、私大丈夫かな……」


「落ち着け……!落ち着け私……!男の人なんて家族にいるでしょ!お父さんと兄貴と……だめ!あの人に比べたらウチの男達頼りなさすぎる!」


「………………」


 大丈夫か?このクラス。なんか別の意味で心配になってきた。



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