再会
物書未満
やりなおし
このアンドロイドはきっと、そうだ……
ある日、僕は自分の研究論文が何度も弾き返されてむしゃくしゃしていた。
頭の堅い老人共め。そんなんだから衰退するんだ。
でも考えても仕方ない。
半分諦めて、街を車で走っていたらふとジャンク屋が目に入った。
この手のジャンク屋はだいたいアンドロイドのジャンク品を格安で売っている。
と、店先に処分品と書かれたアンドロイドがいた。
「親父さん、これは?」
「ああ、あいつか。ありゃ稀にみる本物のジャンクだ。パーツ取りもできねぇしメーカーも分からん。明日にゃ溶鉱炉行きさ」
「ふーん」
何故か、妙な欲が湧いた。
どうせジャンクの、しかも処分品。値段なんてキャンディ代にすら届かないんだ。買ってしまおう。研究者で技術者の僕なら直せるかもしれない。家には一般の解体屋にすらないような大型機械だってある。
この娘を直してやろう。なんならむしゃくしゃしてるから僕が完全にバラバラにして壊してあげよう。
なんでもいい。ストレスのはけ口が欲しい。
烈情にも似た醜悪とすら思える感情が湧いた。だから買って、車のラゲッジスペースに強引に詰め込んだ。
――
「さあ、やってやる」
作業台に置いて、乱暴に彼女の体をいじくって無理矢理電源に繋いだ。コネクタが潰れてるなら配線を剥き出しにして繋げばいい。
通電したら必要な出力にまで電圧と電流を調整して、次にCPUに無理矢理接続して起動させる。
こんなのは僕ら一部の研究者や技術者が持ってるマニアックな装置がなければできない。
強制通電や強制起動なんて最近のアンドロイドには耐えられないし、普通に壊れる。
まあ、こんなジャンクの処分品なんて壊すつもりでやらなきゃ直らない。
「お、動いた動いた」
CPUは動いてる。
OSは……なんだこれ、古すぎるな。
お、型番出てきたか? ん? うわ、文字化けだ。しかも起動メッセージも全部文字化け。なにも分からないじゃないか。流石はジャンクの処分品だ。あはは。
とにかく中枢は動いてる。後は適当に配線とかコネクタとか雑に直せばいいや。パーツは……家に転がってるやつでいいかな。
でかいプラモデルみたいだな。
――――
――眼球パーツ、左右違うけどいいや。ジェネリックのオッドアイだな。わはは。
――胸部は……あー、このぺったんこで構わないか。スレンダースレンダー。
――手足は汎用品だねぇ。色味はバラバラだけどさ。
――CPU雑魚すぎるし余ってるやつでいいのにしてやるか。第2世代から第10世代なら上等でしょ。
――冷却液きったねぇなあ。配管も汚れすぎ。全部外して安物で自作した配管通してやろう。
――あーあ、こんなところまでボロボロ。3Dプリンターでいいや。シリコン成形もしとこ。
――――
「よし、できた!」
いじり回して一ヶ月。とりあえず直った。さぁ、起動だ!
――ピピッ
おおー、通電通電。反応上々。
「こんにちは。貴方が私のご主人様ですか?」
「ああ、そうさ。よろしく頼むよ」
「はい。私は……ん? システムデータver1.80.564が削除されておりアクセスできません。型番、製造元、並びに基本情報の開示ができません」
「気にしなくていいよ。代わりにシステムver2.00.001にアクセスしてみて」
「はい……このシステム情報によると、私はHi-tech社製、型番FR-D33Mです。個体名、ファンライ?」
「個体名は僕がつけたんだ。ある方がいいでしょ?」
「ありがとうございます。私は家庭用アンドロイドのようですので家事などおまかせください」
「じゃあ家事全般よろしくね」
彼女には家のデータも入れてある。僕が指示しなくたって家事全般できるようになってるし、勝手に充電できるようにもしてある。指示ナシで全部やってくれるんだ、こんなに便利なアンドロイドをタダ同然にかえたんだから儲けものだよね。ぶっ壊れるまで使い倒してやろう。
「と、なるととりあえずは……」
眼とか手足とかパーツ全般を取り替えないとな。有り合わせじゃ引き出せない性能もあるし。
――眼はMAS-vision社のスーパークリアクリスタルアイ、最新モデルZTX10090HQにしてやろう。あらゆる汚れもホコリも見落とさないし料理の彩りだって完璧な色彩構成になるはずだ。
――手足と全身の駆動系は業界最高峰HO-tecnica製のマニピュレーターシリーズ最上位グレードXの13000番代を使う。一流職人すら凌駕する腕さばきになるだろうなぁ。
――全身のフレームは海山製作所のVTフレーム。駆動系に合わせて特注にする。誰もが振り返る理想的なボディラインになるはずだ。
――スキンはS2-K製のバイオスキン、THE・シルキーのホワイトover200からチョイス。最高に透明感のある滑らかな肌になる。髪は同社の大和ノ靡・雅、しっとり艷やかな黒のスーパーロングだ。
――各種センサーをThermalAK製のSENSE of SIXに。パイの焼き加減をわずかな音で判別できるほどの性能になるし、マッサージ加減もプロ顔負け。
「めっちゃお金かかるなぁ。まあいいや」
――CPUは自作する。自分で作って彼女に入れて僕のことしか考えられないようにする。全て僕のために動くようにする。彼女を盲目にしてやるんだ。
「……このCPUとメモリは」
――ガシャン!
――ガガガガ!
元々ついてた古いやつは破砕機に入れてしまった。こんなものはいらない。彼女には必要ない。
彼女は僕のとなりにいて、みんなに自慢できる存在であればいい。彼女に良いものをつけるのは僕が自慢するためで、僕の欲求を満たすためだけで、研究が認められない不満を埋めるためであって決して彼女のためだなんてことは微塵にもない。
そうだ、これは全部僕のためだ。
彼女は僕のとなりにいて、ぶっ壊れるまで僕のとなりにいて、壊れたらまた僕に直されて僕に使われればいい。僕のエゴにずっと付き合わせてやる。僕専用の都合のいい存在にしてやる。死ぬまでずっとそうしてやる。
……もう、誰にもやるもんか。
……彼女は僕のものだ。ずっと、ずっと。
「あの老人共……絶対に許さん」
一度彼女を手放した僕に、彼女のためを語る資格はない。だから、彼女にすることは全て、償いですら全て……
僕の、エゴだ。
再会 物書未満 @age890
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