寝取られ男のセットリスト②『楽しい時間はいつも夜』歌・作詞・作曲:Mion 編曲:Reo
ざまぁ…って何?
俺はそう言わざる得ない状況にある。
タツさんに呼ばれて事務所に行った…
「なぁヒロヤ?不安なら一緒に行くぞ?まぁウチがいてもどうにかなる問題でもないけど…」
ヒーさん…バイトの上司で姉ちゃんの疎遠になった友達で、そして改めて友達から始めたヒスイさんが心配そうに見ている。
付いてきて欲しい、意味わからないから…
そしてヒーさんと事務所に来たのは良いけどさ…俺の前にいるこの人達は…
「本当にヒロ君はいないんだな?ボクは嘘が嫌いだぞ…君等はそうやって騙し討ちしてボクの心をを壊したからな…タッちゃんはともかくそこの眼鏡…アマテラスは信用出来ない…」
獅子川ミオンさん…ミオンだっけ?
一世代前のトップアイドル…今は確か企業の偉い人だっけか?子供の時に引退ライブをテレビで見たから覚えている。
最近、誰か訴えるとか騒いでたな…
何故か据え置きソファーに座らず、その後ろに隠れ顔だけ出して、自称探偵のタツさんとイクエさんを批難している。
「獅子川さん、安心して欲しい。獅子川さんがヒロの顔をヘドが出る程見たくないらしいと伝えたら、まるで敗残兵のような顔で車に乗って海に行った。しかし何故ヒロをそこまで?一応オレの彼ぴっぴなんですが…?」
「そ、そこまでは言ってない!それはそこの
「なんすかソレ?」
「下痢便トーテムポールこと藤原さんは気にしなくて良いわ、この淫乱アイドル★ミオンに世の中の上下関係を叩き込んだだけだから」
一般的には考えられない会話が繰り広げられている…そしてもう一人は…
「ミオンは相変わらずトんでいるなぁ!いやぁ若い若い!同じ世代とは思えないよ(笑)」
この人はレオだ…少し前まで男だと言われていた世界的に有名なミュージシャン。
髪が半分、あみあげとストレートでカラフルな髪、高身長でガリガリの身体に中性的で整った顔。
歌以外は全部こなし主にメンバーが居なくなったバンドの穴を埋める…いや、まるでそのメンバーがいるかのように演奏する。
個人の名義で名前が出ないから楽器をやっている人間にファンが多い。
かくいう俺もレオのファンだ…この人の演奏は不思議なもので、メンバーが亡くなったバンドのサポートに入るのだが、まるで死んだメンバーがそこにいるかのような錯覚に陥る。
だからレオに追悼ライブを望むバンドマンは多い
バンドマン達はこぞって言う。
レオの演奏は技術じゃない、魂そのもの。
正直、俺もサイン欲しい…いや、嫌がるかな?
「やァタツ!今日は呼んでくれてありがとう!たまたま日本の仕事が一段落した所で面白い話を聞いてね。義妹の千代から凄い奴がいるってのを聞いてさ!世界最強なんだって?会いたかったよ、タツ!なァタツ!うおぉ!?本物のタツ!」
「ヤメロ…て下さい…ホントに…」
タツさんの肩をガっと掴んでハグしたが…タツさんの顔が強張って、手で押し返している。
この人、人見知りなのか…
「レオは相変わらずだな…とにかくヒロヤ君だっけ?えーっと、マコト、マコトは分かるか?アイツはボクの事務所にいるんだよ。その関係でちょっと話がある」
イケメンの同級生、ベースだったマコト…ちゃんと事務所に居る芸能人だったんだな。
「あのバカ、ツラは良いけどやる気が無い。いや、役者とかモデルとか、そういう才能はどうやら無い。だけど昔、音楽やってたって言うからやらせたら『昔のバンドに比べると天と地の差がある』とか抜かしやがったんだ、下手くそなくせに…それで、その昔のバンドとやらのギターヴォーカルが君だと聞いた」
どうやらあのバカ余計な事しか言わないらしい。横からぬっとレオさんが会話に入ってくる。
「要はミオンが私が日本にいるうちに、マコトとやらにハクを付けようって魂胆さ、悪い奴だよ、ミオンは!ハハハ!」
「あの…話が全然見えないんですが…」
そのミオンさんがソファーの後ろから頭だけ出して何だか嫌そうに言った。
「元々マコトを何とかしようと思っていたんだ…君は嫌がるかも知れないけどマコトのバックで演ってくれと頼むつもりだった。そしたらタツちゃんがちょうど君を使って【ざまぁ】するから何とかならないかという無茶苦茶な注文をしてきた。更にヒロ君がバックに付いてるという…だから仕方なく、頭使ってお金も使って、結果、君とマコトでレオでゲリラライブをやる事にした。ヴォーカルは君かマコト、今後も続けていくなら君でも良いけど…辞めるって聞いてたから…」
「ヴォーカル?もちろん、ミオンがヴォーカルだよな!」
「「はぁっ!?」」
俺とミオンさんの声が被った。
いや、そりゃ俺はそうだけど何でこの人も?
「ボクは関係無いだろ!?もう引退して何年経ったと思っているんだよ!?それにこの間、やらかしたばかりだぞ!?絶対嫌だ!」
「アホか、私がドラムやった所で地元の文化祭で人気レベルのバンドがどんな目立つ場所でやっても一般人は「何これ?」ってなるだけだろ?私だって楽器やってる奴しか、気づかないよ…まずは誰もが納得いくアイコンが無いと見向きもしない」
文化祭で人気レベル…そりゃまぁ…確かにそうだけども…
「私は海外生活が長いが、日本の祭りが好きだ、祭りが。千代が起こしたあの伝説…歴史に刻まれなくとも記憶に残る。同じ事をしようとは思わない。ただ誰かの心に刻む、そんな音楽を私はやりたい…そうだろう?ヒロヤ君?」
「伝説って警察沙汰じゃん…」
「え…?あ、はい…やりたいです。マコトと…それに…」
ミオンさんのツッコミは聞かなかった事にしよう。
「あぁ聞いてるよ。ドラムのロクタ君だろう?話を聞いた段階で私は彼に会ってきたからね。これは彼の願いでもあるんだ。だから私がドラムをやる!良いよ!良いよぉ!最高に青春!青い衝動!」
凄いテンション上がってるレオさんだが、会ってきたってどういう事!?
憧れのミュージシャンが一緒にやろうと言うなら…それにロクタの名前を出されたら…
「ヤバい…ボクがやる空気になってるじゃないか…オイ!マコト!お前はボクの歌でやりたくない無いよな?お前が歌いたいよな?この女、レオは変な力で演奏上手くしてきたりイタコみたいなのして幽霊出したりするぞ?ドラッグみたいなもんだ、そんなの嫌だよな!?なぁ?」
ミオンさんは何やら必死だ…それにマコト?
良く見たら奥の部屋にイケメンのマコトがいた。
「いえ、ミオンさん。俺、やります。元からヒロヤがやるならやる気でした。なぁヒロヤ?それにロクタが…もしロクタと出来るなら最高の「お前何!真っ直ぐな目をしてやる気になってんのぉぉ!?ボクが散々真面目にやれって言っても『ウィッス』とかしか言わなくてしなかったクセによぉおおおお!!!」
どうやらミオンさんはしたくないらしい…でもレオさんの言ってる事は分かる。
ライブハウスでやってた時…俺だけではどうしても限界が…
思い悩んでいるとイクエさんが急に手をバッと広げて言った。
「分かったわ!つまりこのアラフォーショタNTRアイドル・ミオンだけが我儘を言ってるだけ!年増アイドルは黙ってやれ!やらなかった場合と予想以上に盛り上がった場合は、この団体を
急にイクエさんが仕切り始めた。
「ん?あぁ、別に今から全裸でスクランブル交差点行ってタイマ何とかでいいぞ?葉っぱはあんま好きじゃねーけど」
「はぁ!?レオと比較するな!ボクは常識人!ボクが酷い目にあう確率高過ぎだァァァァ!!!うわあああマシロおおおおおおおお!!!!」
バタンッ…ミオンさんが出ていった。
「あの変態アイドル…マシロという20ぐらい歳の離れた年下の彼氏がいるわ。あ~やっていつも被害者ぶって、これから甘えるつもりよ。いつもそう。ほら見てご覧なさい…外の車で待ってたマシロの所に行ったわ…」
急に目から光が出て、外に出ていったミオンさんが映し出される。
『アレ?打合せはもう終わったの?ってうわわ!?』
『聞いてくれマシロ!皆酷いんだ!またボクを全裸で盆等踊りさせるつもりなんだよ!?』
『いやいや、全然分からないよ!?落ち着いて!?良いから落ち着いて!?』
『嫌だ!ボク!不安定!マシロ!甘える!にゃ〜ん♥にゃ〜んだよ!?♥』
昔のインディアンのイメージを彷彿させる謎の喋り方で運転席のマシロさんとやらにのしかかり猫の様に甘えている…先程まで…いや、前にテレビで見た獅子川美音は20代にしか見えないキャリアウーマンな感じで…全然違う…てかこれ、見たら駄目なやつじゃない?
「はぁ〜…社長の噂は聞いてたけど落差がスゲェな…」
事務所に所属しているマコトも驚いている。
ミオンさん、ダッシュボードから出したゴムを口に咥えてにゃーんとか言ってるけど…
「これから本番始まるけど見ますか?」
「いや、やめましょう」「消して下さい、社長のアレはキツいです」
「そうね、ババァの濡れ場なんて誰も見たくないわ」
言いたい放題言われているミオンさん。
「じゃあ、まぁ、これからスタジオ行くぞー」
レオさんが今度は仕切り始めてスタジオに行く事になった。
展開早いっていうか、凄い流されてる感じするけど…そして暇そうなタツさんとオロオロしてるヒーさん。
「何か良くわからんがオレは何もする事ないか?帰ってゲームやって良いか?」
「ウチもとりあえず来たけど帰った方が良いか?ヒロヤに付いて行っても良いのかな?」
タツさんとヒーさんがどうして良いか悩んでいるとイクエさんがはぁ!?みたいな顔して言った。
「アンタ達はもう一つ依頼があるからそれやれ。ほら、身辺調査だよ、コイツの元カノの」
「は?何でオレが?」
「アンタが書かせた契約書見なさいよ、下痢便トーテムポール。そこのヤンキー崩れ女の依頼もあるから「な!なな!ナンデモ無い!それじゃヒロヤ!後でな!ウチが話を聞いとくから!」
なんだろう?俺依頼なんかしてたっけ?
そんなこんなでライブは一ヶ月後…渋谷のスクランブル交差点を停められる時間は30分…最短で準備して5曲演るらしい…
練習は…レオさんとミオンさんのプロと言われる技術と的確なアドバイスに感銘を受けるばかり。
それとミオンさんの彼氏のマシロ君は同級生で…その流れでタツさんと探偵事務所のヒロさんも同じ歳という事を知った。
噂で聞いた事ある。マコトはウチの高校でも芸能活動手前で止まってるイケメンで、近くの私立に同じ様に運動も勉強も何でも出来て凄く良い家の御曹司…マコトの完全上位互換みたいなイケメンがいると聞いたことがあるが、それがマシロ君だった。
そして…片や東大行くのが当たり前の進学校…なのに怪奇事件ばかり起きて警察が出入りして、天才故の?とか言われていたり、近所のヤンキーがこぞって「アソコの学校には関わるな」と言われていた高校…そこに通っていたのがヒロ君、タツさん、イクエさんだった。
凄い人達に囲まれて…自分がどれだけ矮小な人間か知る。知っではいたけど眼の前にはいると認めざるを得ない。
この人達といると、分かる。
成功する人間、何かを成す人間は何処かで浮世離れしているという事。
そんな事を考えながら、それでもやれる事をやりたいと思いながら過ごした日々。
ゲリラライブ3日前、バイトが終わり、休憩室でダラダラしていたらヒーさんが思い詰めた様な顔で正面に座った。
「なぁ、ヒロヤ?最後の確認だぞ?元カノ…キリコだっけ?憎んだりしてないんだな?お前は何も思ってないんだな?」
ヒーさんはたまにスタジオに来てくれた。
別に付き合ってはいないけど真面目に考えている。
音楽をやってる俺は、やはり何処か特別な感じがするそうだ。
でも、もうこれで最後、音楽はしないと言ったらウチの工場に就職すれば良いじゃんと軽い返事だった。
そして、タツさんと何かしている。具体的には分からないけど、良からぬ事かどうかも不明だけど…
そして桐子…電話をしても出ない。
俺は知らなかったが桐子は今、とても忙しいらしい。
そうだわな、アイドルだか何だか分からんが俺と言う彼氏が死んだ事で事務所にも入り急激に仕事が増えた。
突然会いに行ったら迷惑はかかるだろう、だって死んでんだから。
「いや、特には何もない。ただ、もし向こうが後悔してるなら心のどっかで死んでないんだよ〜ぐらい伝わって気持ちが軽くなれば良いと思うけど…後はまぁ、俺の分まで頑張れって感じ?」
俺はもうやめるから、沢山の人に影響を与える、自分をさらけ出す事を。
だから俺とは比にならない重圧の中で頑張ってる桐子には…陰ながら、他人として応援してあげたい。
「そうか…まぁ、ヒロヤがそういうんなら良いんだ」
「それと姉ちゃんとの事だけど…俺はヒーさんとの付き合いに反対されたらヒーさんに付くから…それだけは決めてるから」
ヒーさんの目が泳いだ…嬉しそうに、それでいて何か覚悟の決めた顔でこちらを見る。
「まぁそれは…ウチとチーコの間の話だから…ライブの後でな。ちゃんとした返事、まだ聞いてねぇからよ」
それからも俺は練習やらで忙しかった。
しかしまさかあんな規模のライブになるとは思わなかったし…まさかヒーさんやタツさんがあんな事やるなんて想像もしてなかった。
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