第29話:キラキラしています
魔法が使えるということは、この方は天人族なのですねぇ……。
冷やすのに集中している彼の顔を見上げた。
毛先へ行くにしたがって金色が強くなるダークブロンドの髪が、陽の光でキラキラと輝いている。
キリリとした意志の強そうな眉に、くっきりの二重。でも目尻がやや下がり気味で激甘だ。
高い鼻、セクシーな唇は薄すぎず厚すぎず……と、しげしげ見ている自分に気づき、慌てて視線を手に戻した。
危ない危ない、また罪が増えるところでした。
救世主様は鑑賞用ではございません。
ジロジロ見るなんて失礼です。
この世界に来て以来、毎日のようにカッコいい騎士様に囲まれている。
最近、鉄仮面が崩壊したイケメン仏像副団長様、略して「イケ仏様」がすぐ近くにいるせいで、わたしのイケメン耐性は強化される一方だ。なにせこの頃、イケ仏様も声を上げて笑うことがあるのだ。
ちょっとやそっとでは男性の見た目に惑わされない防御力を身に着けた。自分の成長を実感しているし、自信もついて来たところだった。
それが一瞬で崩れ落ちました……。
わたしは面食いじゃないと思っていたのに。
救世主様の顔面力は強すぎた。
わたしよりもよほど異世界人だ。彼の周りだけ別の世界線があるとしか思えない。
「先程は危ないところを助けて頂き、ありがとうございました。あの、もう大丈夫ですので……」
魔法は魔力がたくさんある人でないと長時間使うことは出来ないとイケ仏様から聞いている。負担になってはいけないので、止めてもらうことにした。
それに、さっきから香水の良い香りがしていて、ずっと近くにいると心臓にあまり良くない気がする。
わたしの体には、低めの声とか、いい香りとか、美しい顔は毒なのだ。
死ぬといけないので離れてください。
「あの袋はご令嬢のものか?」
「あ、はい。大丈夫です、自分で取りに……」
歩道の端でぐっちゃりとしている買い物袋を取りに行こうとした。しかし、急にやって来た我が身の自由に足腰がついて来られず、そのままヘナヘナとへたり込みそうになってしまった。
「ご令嬢!」
救世主様は後ろからサッととわたしの体を支えてくれた。見た目も異次元のイケメンだけど、行動までイケメンだった。
その代わり、わたしには罪が一つ増えた。「腰を抜かしかけてグッドルッキングガイにバックハグされる罪」である。
わたしは彼に向き直り、再びお詫びを言った。
「何度も申し訳ありません……」
「無理もない。気が緩んだのだろう。気丈なのは美徳だが、周りに頼ることも大事だ」
「はい……」
耳が痛い。
どうしてわたしはイケ仏副団長に行きたい場所を伝えて安全に連れて行ってもらわなかったのだろう。どうして護衛の人達を邪魔などと思ってしまったのだろう。
習慣だと言えばそれまでだけど、それにしたって、もう少し良い方法があったはずだ。
「少しこうしていよう。動揺している時に無理は禁物だ」
彼は右手でわたしの体を支え、左手でわたしの痛んでいる部分を冷やしてくれた。
「ご令嬢、名前を伺っても?」
「あ、リアと申します」
「家名は?」
「姓は。坂下です」
「サカ、シ、タ……発音が独特で珍しい家名だな」
「外国から来たばかりです」
「そうか」
正確には異世界だけど、それを言うわけにはいかない。
異世界から来た人は、すなわち神薙であって、天人族にとっては超ビッチでセクハラ・パワハラなんでも来いの最悪な生き物なのだ。
わたしはそういう意味でのセ・パ両制覇はしたくないし、バレて面倒臭いことになるのも嫌だ。こんなイケメンさんに、ビッチだと勘違いされて嫌われるのも困る。
遠い遠い外国から来たことにしておいた。これはあながち嘘ではなかった。なにせ帰れないほど遠いのだ。
本日の変装コンセプト通り、庶民のフリをしている貴族令嬢ということにしておけばいい。本国では貴族でした、ということで押し通そう。
うん。
それがいいですよね。
はい。
あの、ところで……
なんで、わたし、この方に抱き締められているのでしたっけ……。
ちゃんと頭が回っていなかったわたしが悪いのかも知れない。
最初はただ、片方の手を背中に回して支えてくれていただけだったのに、気がついた時には彼の胸にすっぽりと「収納」されていた。
「あ、あの……っ」
「うん、どうした?」
どっ、どうしてそんな耳元で、低い声で言うのでしょうか。
しかも何か出していませんか?
フェロモン的なやつをです……。
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