ストロベリーウェディング
海湖水
前編
空に浮かぶ月はまるで何かに食われたような形をしていた。それでもこの血はうずくのか。体が欲望に奪われないように部屋へとすぐに駆け込んだ。この体では幸せなんて手に入れることなんてできない。周りのものを傷つけて、みんなが私から離れていくだけだ。
「みな、ひさしぶりー!」
「ひな、ひさしぶり。」
雲一つない空に、降り注ぐ太陽の光。6月の最も気温が高くなる時間帯、昼。外出にするには少し暑いかもしれない時間帯だ。しかし、未奈はこの日を数少ない友人である
「ごめんだけど、どこか店の中に入らない?このまま外を歩くのも暑いし。」
陽菜穂の提案はもっともだ。なにより、こちらにとってもそのほうが都合がいいので近くのカフェを探しそこに二人は向かうことにした。
カフェにつくと二人ともケーキを頼んだ。運ばれてきた紅茶を飲みながら、待ち時間に未奈は本題へと入る。
「今日ひなを呼んだのは私の結婚につい」
「えっ⁉ちょっ、結婚するの⁉誰と⁉」
陽菜穂は紅茶でむせなが聞き返してきた。声が大きいので周りから視線が集まる。あれ?ひなに言ってなかったっけ?
そんなことを思うと陽菜穂が少し声の大きさを抑えながら未奈にきいてきた。
「大学からの友達の伸也くんって人と。」
「ちょっと待って。あのこと、その伸也君って人に言ってるの?」
陽菜穂が気にしている「あのこと」とは自分の身体的な特徴にあった。これによってなにか暗い過去があるというわけでもないし、もしあったとしても自分は覚えることができないだろう。
未奈は狼女だった。
ケーキが運ばれてきた後、陽菜穂の質問に未奈はひとつづつ答えていこうと思った。わざわざ自分の話を聞きに来てもらっているのだ。それくらいは当然だろう。
「彼にはまだ言ってない。それが問題なの。」
未奈は幼少期に満月の夜が近づくにつれ、振る舞いが狼に似ていっていることを感じた。その月の満月の夜の日の記憶は未奈からは消え去っていた。両親がいうには、振る舞いが狼だった見た目は未奈のままだったという。そのため「狼女」というよりは「狼憑き」というほうが近いのかもしれない。
その時から夜には人に近ずかず出歩かないということを未奈は心がけてきた。友人の中でこのことを知っているのは陽菜穂だけである。だからこそこのことは陽菜穂にしか相談できなかった。
「どうやったら結婚をなくすことができると思う?」
結婚すれば伸也に迷惑がかかるだけではない。伸也に嫌われるかもしれないし、もしかすれば命にかかわるかもしれない。結婚の日が近づくにつれて未奈の中の恐怖は風船のように膨らんでいた。
「じゃあなんで結婚するなんてはなしになったのさ。」
「ひなはすきな人から『結婚しよう』っていわれて断れると思ってる。」
この問題が発生している一番の原因は未奈は伸也のことがとても好きだということだ。実際にすきな人に告白されてしまったら断ることなんてできなかった。
だからこそ、この結婚は冷静になったいまこそなくさなければならない。それがお互いのためなのだ。
「どうするもなにも」
さっきからケーキを口に運んでいた陽菜穂は手を止めて未奈をまっすぐに見つめた。まるですべてを見通しているような目。陽菜穂は昔から真面目な話をするときこんな目をする。
「私がどうこう言えることじゃないよ、これは。みなが正しいと思える道を進むべき。それがたとえ血にまみれていて、後悔することになったとしても。親友としていわせてもらうけどね。」
そう、わかっていた。これは他人に決めてもらうようなものではない。自分の人生の分かれ道なのだから。
「ありがとう、自分で考えてみる。」
「うん、いいよ。けど、結婚するんだったら私も結婚式に呼んでね♪」
そこからはいつもとあまり変わらなかった。いや、いつもと同じようにしてくれていたのだろう。これから未奈は大切な決断をしなければいけないのだから、少しくらいはこのこと忘れていたかった。その気持ちを尊重してくれたのだろう。そのきづかいが未奈にはとてもありがたかった。
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