13.ばれちゃいましたね
三人に与えられた隠れ家には、そこに住んでいる君島の愛人(かつ、堀田の遊び相手)由梨奈と、わけも分からず君島に指示されて出向いたという、二十代くらいの若い組員二人が待機していた。由梨奈によれば、組員二人のうち髪をマンバンにしているフィリピーノっぽい好青年が「ムッチャン」、右小鼻と左眉にリングピアスをつけている吊り目のたらこ唇が「キョンキョン」だそうだ。二人とも、お揃いの昇竜の和彫を右腕に入れていた。
「適当に座っててくださいね」
白と黒を基調としたモダンなダイニングキッチンと、十五帖はありそうなリビング。灰色のソファに囲まれたガラステーブルの上には、美顔器やらフェイスローションやらが置かれていた。
「俺、ああいうあけっぴろげなのは好みじゃないかも」
それを性具だと勘違いしたのか、佐々木は口をへの字に曲げて
「ねえ、コーヒーと紅茶とコンブチャありますけど、何にします?」
由梨奈は堀田ほど動揺しておらず、むしろ何故か声を弾ませていた。ハプニングを人生を彩る刺激とみなすタイプなのだろう。そうでなければ、短気なヤクザの若頭の愛人なんて務まらないのかもしれない。
由梨奈が三人分のコーヒーを用意している間に、高瀬とムッチャンとキョンキョンにFireStickの使い方を教えてもらい、限定配信のお笑い番組を見始めていた。
「で、どうすんの堀田」
「なんで横に座るんだよ」
汗臭い身体が寄りかかって、堀田は暑苦しそうに跳ね除けた。佐々木は歯牙にもかけずに肩を抱きながらお得意の仔犬のような目をして見せる。
「ミッキーに言ったじゃん、お前がどうにかするって」
「俺はそんなこと一言も言ってねえよ」
「俺のおかげで匿ってもらえたじゃん、恩を返せよ」
「お前こそこれまでの恩を仇で返し続けるのやめてくれ」
だらだら無益な言葉を投げ合う二人の前に、由梨奈が湯気の立ち上るマグを置いた。彼女はソファーで寛ぐ高瀬らにもコーヒーを配ると、スマホを弄りながら自分のコンブチャを持って、堀田の目の前に座った。
「あなた、意外とヤンチャな人だったんですね」
悪戯っぽい唇は、やけに艶々と粘膜じみている。堀田は眼鏡の奥の目を不機嫌にしたまま失笑を返し、こっそり唇を舐めた。
「この年でヤンチャはないだろ。俺はこいつらに巻き込まれてるだけだよ。苦労性なんだ」
「はあ? お前だって」
「由梨奈、が本名なんだって?」
「ばれちゃいましたね」
「由梨奈、由梨奈ちゃん……いや、由梨奈さんか」
「アタシも堀田さんって呼んでいい?」
「好きなようにしなよ」
「ちょっとやだあ。思い出させないでくださいよ」
くすぐったいような薄寒いような会話についていけず、佐々木は面白くない。彼は顔の中心に皺を集め、その表情のままキッチンに向かった。
「由梨奈さん、知っていればでいいんだけど、斎藤という男に心当たりはないか。薬物の売人の」
君島の愛人であれば何か知っているかもしれない。そうにらんだ堀田が問うと、由梨奈はあっさり「知ってるわよ」と首肯した。
「うちの妹と色々あって、落とし前つけさせなきゃってパパが言ってた……って、妹から聞いてますよ」
「…………パパ?」
佐々木はキッチンの方でごそごそと軽食を漁っており、由梨奈の口から飛び出た重大な発言を聞いていない。高瀬はテレビを見て無邪気に大爆笑している。堀田だけが深刻に眉を顰めた。
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