月蝕のル・シッド
棺田
紅い吸血鬼の話
赤。紅。緋。私の1番古い記憶の中で、未だ鮮明に残り続ける恐ろしい赤。私から、大切なもの全てを奪った忌々しい赤。忘れたくても忘れられない、いや、忘れてはならないものだと、心の奥底で理解している。
この光景を忘れたら私は、今在る私の存在を否定することになる。
それだけは、あってはならない。
だから私は、赤いドレスを纏い、スカーレットという名を纏い、血という赤を纏うことで、その「 」を忘れないようにした。
しかし、それでも記憶は段々薄れてゆくばかりで、もはや元の自分の名前すら思い出せない。大切だったはずの、何か、の名前。
初めは忘却への恐怖が渦巻いていたが、その恐怖が薄れるほど、私の記憶はすり減った。
忘れたくないのに、消えていく。忘れたくないのに…………何を忘れたくないんだっけ?
赤というもの以外全て忘れた私にはもう、大切だったもの、守りたかったもの、手放したくなかったもの、全てが無意味だと。そう思っていたのに。
彼は、私の心をいとも簡単に射抜いたのだ。勿論、特殊な血液による効果も大きいのだろうけど。終わりのない闇を歩いていた私にとっては、彼は出口から差す一筋の光のようなものだった。ああ、彼を手に入れたら、私は、■■■■は、この悪夢から覚めることが出来るかしら?…………いいえ、覚めなくてもいい。ただ、愛すことが出来なかったあの子の分まで、私の愛を注いであげなくちゃ。
……ん?あの子って、誰だったかしら。
-スカーレット-
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます