閉鎖的兵差的
僕らの住む帝国について一つの文で表すなら“帝国は酷く閉鎖的で兵差的な環境である”。
基本的に国で認められた者しか国境を超えてはならず、日本のようにパスポートを手に入れて気軽に外国に行けるような国ではない。
なぜ“兵差”という言葉を用いたかと言うと、兵差は中国語で軍に強制される労役を指すからだ。
この国は軍を中心にした帝国主義が根本にある。
帝国は戦を続けるために沢山の兵士や優秀な士官や文官を広く確保する事を重視し、そのための施策の一つとして学校による教育制度を用いている。
帝国はこの世界において、かなりの広大な領土を支配しているらしく多くの国に攻め行っているようだ。
“ようだ”というのは、村にはほとんど情報が入ってこないためだ。
村に入ってくる情報というのは、大抵はどこかの村で粛清があったなどの悪い話題しかない。
これは民衆への情報統制も上手く使いこなしていると勝手ながらに解釈している。
また、民の感情抑制に徹底的だ。
村や街では三百人単位で人数を統一され、そこからさらに十人一組にわけられ、この中で互いに監視、告発する事を義務付けられている。
もし、罪を犯した者がいて訴え出ない場合は十人全員が連座で罰せられ、逆に訴え出た場合は戦争で敵の首を取ったのと同じ功績になる。
あと、この村には商人はいないけれども、商業をする者や怠けて貧乏になった者は奴隷の身分に落とされてしまうようだ。
貴族や上級士官であっても戦功のない者はその爵位を降下されるらしい。
さらに別の施策として、情報伝達能力は凄いと感じる。
二十〜三十kmおきに宿舎・食料・換え馬を備えた宿駅を設置することで交通の円滑化を図っている。
そのために情報伝達がかなり迅速で、反乱を起こしたとしても、すぐさま討伐軍が反乱した村を一人残らず虐殺すると言われている。
逃亡についても徹底的だ。
もし他国に逃げようとする際に、帝国から認められた旅券を持たない者は、帝国内の村や街の宿に泊まることが出来ず、旅券の偽造は絶対に出来ないとの事。
それに、逃げるにしても民同士が監視し合っているし、村や街に常駐している兵士に追いつかれるのがオチだ。
パッと挙げただけでも、反乱させる気にさえさせない法整備である。
さらに、討伐にくるのは王都での教育を見事乗り越えた精鋭部隊なので、漏れなく迅速に討ち取られてしまう。
唯一の良い面があるとすれば、男は農業、女は機織りなどの家庭内手工業に勤めるが、努力によって農業生産・機織生成を高めた者は翌年の納める税が少し減らされる事だろう。
鞭が八割の飴と鞭を使いわけ民の反乱を防いでいるのだが、僕が最もガッカリしているのはこの果てしない束縛ではない。
この帝国で最も重要で絶対不可侵の法律がある。
そう…“歴史を紡いではならない”という絶望の淵に追いやられる法律だ。
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