幼馴染
僕の名前はカイ。両親が響きが良いからと付けてくれた名前だ。
日本にいた頃の名前だけはなぜか思い出せない。
だけど、日本での家族や友人たちの顔、自分がどんな人生を歩んできたかはすぐ様思い浮かべる事が出来る。
小さい頃から歴史を調べるのが大好きだった。本当に色々な歴史を調べた。
日本初期の歴史の謎から、世界史の未だ解決していない歴史の謎などなど。
古い物だと聖書も全巻一応読破もしたり、ギリシャ神話や北欧神話も面白いと感じて何度も読み返した。
中でも世界各地に伝わる英雄譚などが大好きだった。
三国志を代表とする中国の歴史や、日本の戦国時代、ヨーロッパの百年戦争、紀元前の中東の情勢、ローマ建国などの数々の英雄が登場する歴史は特に好きだった。
とりあえず自分語りは一旦ここまで。あまり自分のことを紹介するのはどうにも慣れない。
自分の紹介というより、歴史が好きな事を語っただけなんだけど…。
そろそろ待ち合わせをしている大きな木が見えてくるはず。
小さい頃、いつもあの木に登って遊んでいた。
三人にとって想い出深い場所で、自然とそこに集まってから学校に行くようになった。
……あっ、二人の姿が見えてきた。
「カイ、おはようっ! 早く学校行こうぜー」
「宿題やってきたの、カイ? またやってきてないんじゃないでしょうね?」
この二人は僕の幼馴染のハイクとイレーネ。
二人とは家も近いこともあり、一緒に待ち合わせをして学校に行っている。
この辺だと僕達の三家族しか住んでいない。
「いやぁ、サボるつもりはなかったんだけどやってきてないんだ」
「絶対にウソよ! 分かっててやってこなかったんでしょっ!?」
「まぁ、俺もやってこなかったけどなぁ」
「もう二人共やってこないとダメじゃない!」
「学校に着いたら急いでやるよ」
「俺はフーシェに見せて貰う」
「もーうっ! ハイクは宿題見せて貰ったらダメだからね。見せて貰ってるの見かけたら、先生に言い付けてあげるんだから!」
ハイクもイレーネも僕と同じ歳だ。
日本にいた頃、同じ歳って言葉が僕の住んでた地方の方言なのかと思ってたけど、戦国時代から使われていた事を知った時は結構ビックリした。
時代と共に言葉も言葉自体の帯びる意味も変わることがある中、脈々と伝え続けられてきた言葉ってなんか使い続けたくなる。
ハイクはガッシリとした体格が示す通り運動神経は抜群だ。
十二歳とは思えないぐらいの胸板と上腕二頭筋が目立ち、脚の筋肉も全体的に引き締まっていて、身体の体幹が既にしっかりと形成されている。
まさに体育会系男子だ。顔は中東系で短髪の黒髪がよく似合っている。
イレーネはスラッとした体型にウェーブの掛かった長い金髪とブルーの瞳が印象的な可憐な女の子だ。
あれ? どこかで似たような子を、最近聞いたことがあるかもしれないって。
……そう、僕です。
僕とイレーネは兄妹に勘違いされる程似ている。
…いや、兄妹ならまだ良い。
学校に通い始めた頃、学校の近所に住んでいる人から“あら、とてもそっくりな姉妹さんね。なんて可愛いのかしら”と言われた日には、泣きながら家まで走って帰った。
イレーネは可愛いって言われて嬉しいかもしれないけど、こんな容姿でも僕は男だ。
はぁ……本当にハイクみたいにもっと男らしくなれたらなぁ…。
僕達三人の家は村の中心部から離れた郊外にあり、国境沿いの川に沿うように建てられている。
他には二組の夫婦がちょっと離れた所に住んでいる。
学校までは歩いて三十分〜四十分程。
ここは農村部で基本的には平野な地形なので時間はかかるが歩きやすい。
「にしても、あと三ヶ月もすれば俺らも卒業かぁ」
「そうね。私達三人は村から一番近い街の寮に入って、新しい学校に通うことになりそうね」
「はぁ…僕は父さんと母さんの元から離れたくないなぁ」
「何を言ってるのよっ! わざわざ街にある学校に帝国からの支援で入れさせて貰えて、農奴から抜け出せる機会を生かさないでどうするのよっ!」
そう。帝国と言われているこの国では、村でも十から十二歳まで教育が行われ、得意分野で優秀な成績を収めた者は近くの街の寮に入れられ、二年の教育課程で得意分野を更に磨く。
街での教育で
この時点で将来は安泰そのもの。上流階級の文官や士官たる地位は約束されたも同然。
無論、王都に住んでいればこれらの教育機構は全て設置されている。
王都には全ての行政や機構、物や人やらなんだってあるらしい。
一度は行ってみたいなぁ〜とは常々思う。
帝国の仕組みや法律は恨んでいるけれど、父さんと母さんには楽になって暮らして貰いたい。
だからこそ勉学に励んでいられる。
本当なら村に残って、これからも父さんと母さんの近くにいたいんだけどね…。
ハイクは兵士としての素質が認められて街での士官教育を、イレーネは座学の成績が認められて街での文官教育を受けることが決まっている。
僕もイレーネと同じで文官の道だ。
こうして改めて考えると、常に良い人材を取り入れるために教育にかなり力を入れてる事がわかる。
国の発展よりも戦争継続のために、人材育成をしているのだろう。
なぜなら、内政を充実させるためならこの辺鄙な村でも、もう少し発展が見られてもいいと思う。
ここは国境沿いの村で大きな川も流れているのだから、街や都市に発達していてもおかしくない重要な拠点だ。
隣国と友好的関係とはいえ無防備だし、色々な点で辻褄が合っていない土地だ。
もしくは、僕たちが生まれる前にこの地を侵略して占領して間もないから、そこまで発展していないのかなどなど、考えれば考える程わからなくなっていく。
明確な答えを出すための情報が足らない。せめて過去の情報を得られたらいいんだけど…それは決して出来ない。
「確かにまたとない機会だからなぁ〜。俺は軍に入って他国に攻め入りたいぜ!」
「はぁ、何て野蛮な考えなのかしら。せめて皇帝陛下のためになりたいぐらい言っておかないと、すぐに村に戻されるわよ」
「うーん、でも僕も他国には行ってみたいかな」
「私も他国には行ってみたいと思うけど、そう簡単には上手くいかないわよ。それこそ栄誉ある立場を得られなきゃ無理な話しでしょ?」
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