第35話 だまし討ち


「はあああ…こんなハズじゃ…」

広央がまた盛大なため息をついた。

場面は再び山中に戻る。


「ヒトはヒトでも“死人”か…なんだよ死人って…」


つと、メンバーの方を見る。

遊んだりはしゃいだり喧嘩したり、緊張感ゼロの幼稚園状態だ。

「おーい、みんなちょっと集まれ…(う、誰も聞いてないし…)オオオオオオオい!集まれえええ!!」

キレ気味に叫び、やっと皆がこっちを振り向く。


「みんなよーーく聞け、一回立ち止まってよく考えよう。第一のヒント、“見せばやな 出づる波の端 ちぎりの瀬”」


「見せばやな 出づる波の端 ちぎりの瀬」


メンバー12名揃って復唱するが、何も浮かばない。


「優、よく歴史の本とか読んでるだろ。なんか分からないか?」

広央が尋ねる。


「………」

「ダメだよー、優しゃべんないもん」

「そうだ!後ろから読んでみたら何か分かるかも」

「おおっその手があったか!」


「せのりぎち はのみなるづい なやばせみ」


12名「……全然わかんねーじゃん!!」


こうして広央率いる早鷹組がアホな討議を繰り広げ、一向に宝探しが進展しない一方…



「ユキ兄、見つけたよ!」

鬱蒼とした木々の聳え立つ山道で、荒鷲組メンバーたちの声が響く。


荒鷲組は統率者のユキを含めて13名。

クジ引きにより先行チームとして、広央たちより10分早いスタートをしている。


リーダーのユキと他メンバーが駆け付けた。

見ると地面に、長い木の枝と短い木の枝が十字に組んで置かれている。


「よっし!“進め”のサインだな!長い枝の指す方向に進むぞ」

「ユキ兄、俺ら第一ヒントの意味全然解読してないよ?」

メンバーが尋ねる。


「ああ、まずはサインを追跡する方が先だ。ヒントの意味はおいおい分かってくるだろ」

それがユキの方針だった。


メンバーたちが意気軒高としてずんずん前進していく中、和希だけが来た道を振り返り振り返り見つめていた。

『ヒロ兄達、ちゃんと来れてるのかな…』



◇◇◇

場面変わって


りく朝陽あさひ!また喧嘩すんじゃねえええ!!」

光輝こうきがまたお腹痛いって!!」

「虫に刺されたああ!」

「(優)……」

「だからヒントの解読に集中しろおお!!」


山狩りスタート時から既に2時間は経過しているのだが、いまだに早鷹組はスタート地点から殆ど進捗がない。

『う…こんなはずでは…俺の計画ではとっととヒントを解読→追跡サインで、効率よく宝を探すはずだったのに…どうしてこうなる…』


「ヒロ兄、荒鷲組のメンバーに全然追いつかないよ。もうだいぶ先に進んでるんじゃ…」


サジの不安げな声にぎくりとした。

『いかん…このままではユキ達に追い越される…負ける…!』


「よしっ解読は後だ!先に追跡サイン探すぞ!!」


今更ながらの作戦変更にブーイングが起きたが、保父リーダー広央の叱咤激励と先導で早鷹組も何とか歩を進めつつあった。


その時。


道の前方に白い人影。

和希だ。

他2名の荒鷲組のメンバーがいる。



「あれえー、俺ら追いついちゃった?」

「他の奴らはー?」

「ユキ兄たちはどこいるの?」

早鷹組の面々がわらわらと集まってきて、質問を投げかける。


「つーか俺たち、はぐれちゃったんだよ!」

「怖かったよ~、良かったヒロ兄たちが来てくれて!!」

荒鷲メンバーはそう答えるが、和希は黙ったままだ。


広央がつい、と近付き

「そうだったのか、じゃあ一緒に行くぞ。追跡サインはまだ見つから…」


その時だった。

広央たちの背後から一斉に荒鷲組の面々が走り出てきた。

そして手に持った紅色の札を、早鷲組メンバー達の背中や肩にバンっと貼ってまわる。


とっさの事なので避けられず、札を貼られてしまった早鷹メンバーは計5人。

他メンバーは慌ててその場を飛び退き、何とか貼られずに済んだ。


「よーし、かかったな」

茂みからユキと他の荒鷲メンバーが現れた。


「あー---!和希、裏切ったな!!」

広央が非難の叫び声を上げた。


和希は無言でうつむく。 


山狩りのルール、“捕虜取り”だ。

ルールは至極簡単で、己の組の札を敵チーム員の身体に貼り付ける。(荒鷲組は紅、早鷹組は白)それで自軍の捕虜にできるのだ。

捕虜を自軍に取り戻すには、見張りがいない隙をついて脱出させるしかない。


山狩りのルールに“仲間を見捨てるべからず”があり、仮に先に宝を見つけてゴールの高宮神社に到着しても、仲間を取り戻せなければ無効にされてしまう。


「よーし、捕虜は連れてけ」

ユキが冷徹にも指示を与える。


「ユキ、てめーきたねーぞ!!」

広央と早鷹組メンバーは大ブーイング、だがユキも荒鷲組の面々は意に介さない。


引っかかる方が悪いんだよ~と散々煽った挙句、捕虜を連れていってしまった。



「なんて事だ…」

広央はまたもや涙目。

まだ最初の追跡サインさえ見つけてないのに、捕虜奪還の労まで加わった。

これでは勝利がますます遠くなるではないか…

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