第12話 詰める者と逃げる者



「お兄さん誰?あのちょっと色黒なヒト」

「イトコのユキだ、怒らすと怖い。ユキてめえ!煙で燻り出すって、獣か俺は!」


「ヒロ兄、ごめん。でもお願いだから戻って!」

和希が悲痛な声で叫んだ。


「お兄さん、誰?あの黒の帽子かぶってる人」

「弟分の和希だ。和希!ヒロ兄の事、裏切りやがって!」

こうしている間も、ユキと猪狩隊たちは、じりじりと間合いを詰めてくる。


「ちょっとお兄さん、アルファなんでしょ!?なんかこう、すごい能力とかないの?なんか凄い技とか隠し持ってないの!?」


「いやそれが…俺はフツーの男なのよ。アルファだからって優秀だとは限らないよ?現に俺がそうだし…」


ユキ達がじりじりまた一歩、一歩と間合いを詰めていく。


「ま、待てユキ!ほらアレだ、総代は種別じゃなくて、能力で選ばれるべきなんだよ!」


「言いたいことはそれだけか?」

そう言うとユキは、広央に向けてまっすぐと銃を向けた。


「ぎゃっ、お兄さん、なにアレ!?銃じゃん!」

「いや、実弾じゃないんだ、ゴム弾なんだけど…当たると死ぬほど痛い。」


「おい、つーかヒロ、その後ろの女誰だよ?」

ユキが厳しげな目つきで問うた。


「あ、ああこの娘はカナコちゃんと言って」

「カナミだからっっ」

「ああ、そうだった。カナミちゃんと言って、事情があってこの島に逃げて、というか避難してて…」


「ああ?また家出娘か?どうせ親と喧嘩したとか、学校がつまらないとか、そんな下らん理由だろ?いちいち相手してたらキリがねえ。島から強制退去だ。とっとと学生証か、国民基礎番号コッキカード出せ。」


それまで、広央の後ろに隠れていた加奈美の表情が変わった。


「みんな、みんな…そんなの大した悩みじゃないとか、下らないとか、簡単に言うんだよ!みんなうちに、我慢ばっか押しつけんてくんだよ!!」

叫びながら涙声になっていた。


「お、おいユキ、強制退去だけはやめろ。来るものは拒まずの島の鉄則があるだろ!」


広央たちの後ろの壁がバン!と、音をたて、破片が飛び散り大きな亀裂が入った。

ユキがゴム弾を発砲したのだ。


「クソ犯罪者と、クソどうでもいい家出娘は別だ。安心しろ、ゴム弾はそもそも鎮圧用に使うもんだ、当たっても死にはしねえよ。ま、至近距離からだと安全は保障できないけどな」


そう言うと、今度は広央たちに向かってためらいなく銃口を向けた。


「ユキ兄ちょっと待って!ヒロ兄死んじゃうよ!」

成り行きを見守っていた和希が思わず止めに入り、撃たせまいと銃口を掴んだ。


「おい、手え放せ和希!」

「だめえ!撃つなら俺を代わりに撃って!ヒロ兄逃げて!ユキ兄本気だ!」

和希はユキの腕を必死に掴みながら叫んだ。


「俺らの隊長が危険だ~!隊長、今助けるっス!!おし、みんな行くぞお!」

ヨリがそう叫ぶと、猪狩隊のメンバーが一斉に、和希を助けるべくユキに向かって行く。

皆決死の表情だ。


「すみません、ユキ前隊長!!でも…和希隊長の命を救うためですから!」

「命を惜しむなああ!全力で和希隊長を助けるぞおお!」

全員、涙とともに必死にユキを取り押さえようとする。


その間に広央は加奈美を連れて、さっさと逃げ出した。


「あー!こら待て!おいてめーら放せ!おい、ヒロの奴を捕まえろ!」

「ユキ兄、撃っちゃだめだ!」

相変わらず和希はユキにしがみついて離れない。


「和希隊長危ないっす~今助けるっす~!!」

ヨリが遠慮なく、ユキの頬にグーパンチを入れた。


強烈なパンチにユキは視界が揺れた。

「が…ヨリ…てめえ」


ふらつきながらも、なんとか広央に向けて発砲しようとした。

しかし猪狩隊の面々にがっちり体を羽交い絞めされてるので、どうにもならなかった。

「ヒロの前に、てめえら全員ぶっ殺ーす!!」

前隊長の怒鳴り声は、隊全員の背筋を凍らすほど迫力があった。



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