Wind of god 【神之島編】 

葉純(はすみ)

第1話 山の上の就任式 【第一章 新総代ヘタレ説】

突き抜けるような青い空。

大きな白い雲がいくつも浮かび上がり、汐風が吹きカモメも自由に飛び交っている

空の上には制限のない自由があるのに、その下はそうではない。


日本に軍事政権が敷かれ100年余り。

政治・民生・言論。社会の全てが軍の統制下に置かれ、且つてあった束の間のデモクラシーは遠い過去のものとなっている。


その日本で唯一、軍制からの分離独立・自主性を保っている場所がある。


それが神之島だ。


海の孤島であるこの島は、土地面積約65.58000平方キロメートル

首都東京から直線距離にして南東方・約100㎞


元来この島は、時の政争や戦に破れ“罪人”に堕とされた者たちの流刑地だった。


それゆえ中央の支配者や、島を支配しようとする征服者に対する反骨心が先祖代々受け継がれている。

本土から理不尽な年貢をかけられて拒み、それがきっかけで戦などを仕掛られた際は島民総出で武装し、遠来の海賊などとも協力して迎え撃った。


支配されまいとする反骨心と、いざという時は命をかけて戦う気概がこの島の独立を守ってきた。


突き抜ける青さ、カモメが自由に飛び交う空の下の神之島で、 本日ある大事な行事が執り行われる。


山頂付近にある神社の境内に、家紋の入った幔幕としめ縄が張られている。

式に参列している男たちはスーツの上に黒紋付の羽織、もしくは同じく重々しい紋付の羽織袴姿。そして周りにはたくさんの見物客。


実はこの行事、世界に向けてリアルタイムでネット配信中だ。


今日はこの反骨の島の新しい統領、“総代”の就任式なのだ。

異例の長期軍事政権が続くこの日本。

その日本国内で唯一、分離独立・民主主義を保っている島として、神之島は世界からも注目を浴びている。

その島の新総代の就任式ともなれば、当然国内外からも注目を集め、画面の向こう側の視聴者たちも興味深くこの就任式を見守っていた。


その時、境内がザワザワし始めた。


式は粛々と行われていて、神主が御幣を振り、祝詞をあげる。そして注目の新総代が皆の前に現れる…はずなのだが、一向に現れないのだ。

5分経ち、10分経ち…まだ現れない。


見物客たちは何が起こったのかと、ざわざわ噂を囁き始めた。


「ったく、遅せえなヒロの奴。何やってんだよ!?」

参列者の中でも大柄な、小麦色の肌をした男が、イライラした様子で声を上げた。

「あいつこの期に及んで就任を躊躇をしてやがんのか?首に縄付けてでも引きずり出してやる!」

そう呟き、実行に移そうとした正にその時。


「ユキ兄、ユキ兄、ちょっとこっちに来て!」

幔幕の隙間から、黒のスポーツキャップを顔が隠れるほど目深にかぶった青年が手招きで呼んでいる。


ユキ兄と呼ばれたこの男は幔幕を出て、「どうした和希。ヒロの奴は?便所にでもこもってんのか?」と本日の主役の居場所を聞いた。


和希は、辺りを憚るような声で言った。

「それが、ヒロ兄どこにも居なくて…」

「いない?どういうことだ?」


言い辛そうに和希が言った。「多分、逃げたんだと…」


境内中に響き渡るような声で、ユキが怒号をあげた。

「はああ!?逃げただと!?あいつふざけんなあ!!」

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