転生神は突っ込みたい! ~お前ら死んだからって何でも簡単に貰えると思うなよ!?~
物草コウ
第1話 トラックに引かれそうになっていた子供を助けた少年の夢と希望をぶち壊す話
「おい。さっさとチートをよこせ」
横柄な態度のクソガキが目の前にいるわけだが、神である俺に対して不遜すぎない?
「聞いてんのか。俺はトラックに引かれそうだった子供の命を助けたんだぞ!だからチートよこせ」
なんかさ、良い事をしたのに自分からそれ言っちゃう系って寒いよね。そういうの他の人が言うから意味があるのに。
「大体なんでお前、男なんだよ。それもフツーの。こういう時のお約束ってじいさんとか美女とかじゃねぇのかよ。空気読めよ」
「オウコラ。ケンカなら買うぞ。誰かフツメンやねん。神なめてんじゃねぇ」
俺はなぁ!しょぼそうとか、へぼそうなら海のように広い心でしゃあないな今回だけやで?って許せるが、普通とか特徴のない顔とか言われるのは我慢できねぇんだ!
「へっ!喋れんじゃねぇか。だったら早く俺にチート能力よこして異世界転生させてくれよ」
はぁーーーー………。マジ、ホンマ、こいつら、もう。なんで揃いも揃って同じような事しか言わないわけ?死んだ事に気が付いたら大抵の奴が、急に目を輝かせて異世界転生キター!って言うやつ多ない?
「今まで平凡でつまんない人生だったけど、最後の大逆転だぜ!」
「あのさ、喜んでる所ごめんだけど、君にチートあげられないよ」
「えっ」
「えっ」
そんなに驚かれると逆にこっちが驚くわ。
「は?意味わからん。ここはチートをやる流れだろ。子供の命救ったんだけど!?」
おぉう………。なんかめっちゃ主張してきた。善意の押し売りみたいになってきたな。
「いや、あのさ、よく考えてみて欲しいんだけどさ」
「なんだよ!平凡な顔しやがって!!」
「オメーよぉ。イラついたからって的確に俺のムカつきポイント刺激してくんの止めてくんない?」
「そんなことはどうでも良いんだよ!さっさと先を話せ!」
なんかすっごくダルくなってきたんだけど。一応、俺も神だから放置するわけにはいかんけどな。説明なしで無理やり転生させるわけにもいかん。
「さっき平凡でつまんない人生って言ってたけどまさにそれよ」
「あ!?どういう意味だよ」
「そんな人生送ってきた君が、チート付きの転生できると思う?」
「………え、いやだって、俺、子供を………」
「それは確かに偉いんだが、それ言ったら医者とかやばくね?あいつら毎日、命を救ってんよ。医者が転生したらマジで最強のチーター出来ちゃうよ?」
「………」
「そもそもさ、あの子供って道路に飛び出してきて引かれそうになってたわけじゃん?トラックの運ちゃん可哀そうじゃね?」
俺、この中で一番の被害者って運ちゃんだと思うんだよな。
「………………」
「君は人一人の命救ったわけだけど、人一人の人生も狂わせちゃってるわけだからなぁ。どちらかというとプラマイゼロで………あっ」
なんかすげー涙目になってる!?やべぇ。あまりに直球に言いすぎた。
「だ、だからね?ちょーーーーっとチートな転生はむずかしいかなーって?」
「………………ぅぅぅ」
「………………納得してくれた?」
「………………はい」
すげぇ殊勝な態度になってるわ。なんかごめんな。
「あ、一応、君たちが好きそうなファンタジー世界に転生もできるよ」
「マジで!?」
お。すごい食いつきよくなったね。よかったよかった。
「でも記憶はリセットされちゃうけど仕方ないよね」
「なんでだよ!?」
渾身のなんでだよ!?頂いたけど、これも説明しなくちゃなんないのか。少し考えればわかりそうなもんだが。
「地球って文化レベル結構高いんだよ。大体の異世界って地球より文化レベル低いからさ」
「………だ、だからなんだよ」
「もう察してる顔してるやん。そういうわけなんよな」
所謂、知識チートというやつだな。なんかリバーシとかマヨネーズとかそんなん。
「あぁ。君は大した知識がなさそうだから問題ないっぽいが」
「お前、一言余計だって言われない!?」
よく言われる。
「その世界のバランスを転生者の思い付きで壊されたら困るんだよねぇ」
真面目な話、チート持ちが転生できる世界ってそもそもバランスがすでにおかしい世界か、管理している神がおかしい世界か、神が善意で転生させるってパターンがほとんどだ。安定を望む神ならチート持ちなんて不安要素は絶対に転生させない。それに俺の担当、そんな世界じゃないし。ちなみに俺は転生の担当なだけで、世界の管理はしていない。
「え、俺、ハズレ引いた?」
「君、今俺の事ハズレって言った?」
ほんま失礼なやっちゃな。夢見てるお年頃だろうから、気持ちわからんでもないけど。
「まぁそんなわけで、チートも記憶もないけど、そろそろ転生いっちゃう?」
「軽っ。お前、そろそろ面倒くさくなってるだろ!」
そんなことないよ。俺は誠実な神だからな。ちゃんと説明はしてるだろう?
「というか、転生させるのは君だけじゃないんだから早く決めて欲しいのは確かだけど」
「こちとら今後の一生にかかる問題だぞ!そんなに早く決められるかっ」
「俺としては地球にもう一度転生する事をオススメするけどね。ファンタジーの方は文化レベル低いし、娯楽も少ないし、治安も悪いよ。魔物もいるからなぁ。危険満載よ。それに高確率で村人スタートだから贅沢も出来んよ」
その点、地球は出生ガチャはあるけど、ある程度の生活は確保できるからお得なんだよな。
「そんなの夢も希望もないじゃないか。異世界は冒険者にだってなれるんだろ?」
「まぁあるけど、冒険者になった人の八割が引退前にここにまた戻ってくるぞ。地球で言うならクマとかライオンとかの猛獣と戦う自信あるなら止めんけど」
魔物は普通につえぇからな。ダンジョンに行くと絶対魔物もいるし、戦わない選択肢はない。
「えっ。その、レベルとかスキルとか魔法は………」
「ガチンコバトルよ」
だから難易度が高いともいう。極一部の神がそういうシステムがある世界を作ってるらしいが、当然のように俺の担当ではない。
「………………」
黙っちゃったよ。うーん。全然俺が悪いわけじゃないけど、なんか悪い事をした気になってきたな。でも出来ないもんは出来ないしなぁ。なんとかしてやりたいけど。
「…………の…………みは?」
「なんて?」
「美少女の幼馴染は!?付いてこないの!?俺の事じゃないからいいよねっ!!」
「なめてんじゃねぇぞコラ」
なんとかしてやりたい気持ちがすっ、と消えたわ。すっ、と。そんなんチートよりよっぽど貴重やろがい!
「はいはい。もういいから、いい加減決めな?」
「やだやだやだ!!美少女欲しい!欲しいったら欲しい!!」
なんて往生際の悪いやつなんだ。ちらちらとこっち見ても手心くわえねぇから、無駄な抵抗はやめろ。
………それから一時間後。俺が一切折れないのを見たらようやく観念したよ。全く。
「で、どうする?地球にする?ファンタジーか?それともまた別の世界にする?」
「別の世界って………」
「もれなくハードモードだけど。チートありでようやくノーマルレベル」
「…………あっ。そっかぁ」
すげー弱々しい声になっちゃってまぁ。可哀そうだけど、現実はそんなもんよ。
「…………………あの、じゃあ、地球でもっかい頑張ります」
うんうん。それが良いと思うよ。なんか目が死んでるけど、地球以外だともっとひどい目に合うだろうしなぁ。転生者の中にはあえてそっちに行くやつもいるけど、すぐにまたご対面するパターンかなり多い。
「どうしてこうなった」
そんなに悲観すんな。異世界に対する夢と希望をぶち壊して悪いとは思うが、また同じ場所で頑張るのも悪くないぜ?だから今度は老衰するまでくるんじゃないぞ。そうしたら、もしかしたら今度はチートが与えられるかもしれんしな。それじゃあ、またな。
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