第6話


「いや〜ん♡」

「あ〜ん♡」

「もっとだぁ♡」


渉は驚きを隠せずに目を見開き。


「か、要……お前……」

「私ではないッッッ!」

「だ、だよなー…2度目は寒いしな」


俺は何度も頷きながら、


「1回目も私ではないわッッッ!」


要の叫び声を背後に浴びながら部屋をあとに外に向う。2度目も思った通り外から聞こえて来たからだ。

今度は一体どんな変態が待っているんだろうか。

扉を開けた瞬間尻を小刻みにふっている男がいた。いや、正確には麻痺をして俺に尻を突き出す形でぶっ倒れている男を見下ろした。

 頬を引きつらせ目線をそらす。


「ご、ごめんな。俺ー…要じゃねぇんだ。だがらその、そんな尻を突き出されても困るんだわ……」

「も、もっとだぁ……♡」


男は気絶仕掛けているのか半ば目を白黒させながらぼやいた。

そこまでの執着あっぱれだよ。すぐに望み通りしてやるからな。

仏になった気で脇に手を入れおじさんを引きずる。

所々勢いよくぶつけてしまい折れないか心配したが、比較的スムーズにご主人様のいる2階へ連れていけたはずだ。


「喜べ。ご主人だぞ」

「誰がご主人だッ」


 八つ当たりでムチを振う。良い子の皆は真似しちゃだめだぞ。


「いや〜ん♡」

「あ〜ん♡」

「もっとだぁ♡」


ここまでくると、もう驚きもしない。2度目があれば3度目は来るよな。


「いや〜ん♡」 

「あ〜ん♡」

「もっと♡」

「やってぇ、だ♡」


俺は深い溜息をついてから。

出来るだけ同じ角度、トーン、眉になるよう。確か眉の筋肉もこんな感じだろう。


「か、要……お前……」

「だからっ! 私ではないっっ! 3度目は辛いっ」


 どうだ、前と同じだろう。

 要の良い反応を見たあと、満足しながら下へ向かった。


「こんどゅは誰でちゅか? まったく……」


唇をタコにさせながら扉を開けると、俺は驚いた。そこには、至って普通のおじさんがいたからだ。


「なんてことだ、変態じゃないっていうのかー…」

「おいガキぃ何ブツブツ呟いてんだぁあ?! 俺を誰だと思ってんだぁ?!」

「誰なんですか?」


誰だろうと興味はないが、聞いてほしそうだったので聞いた。すると親指を自分に向け、何故か威張りながら告げた。


「俺様はこの辺を縄張りとしている『ゲリラ』の一員だ」


そういえば、ジゲルがなんか気をつけろと言ってたことを思い出す。


「んで、何用でしょうか?」

「俺様に良いビールを全部無料で飲ませろ」

「申し訳ございません。こちらのお店、治安悪いお客様に出せる酒は一本もございません。ああ、そうだ。先払いでしたらお伺い致します」


俺は丁寧に対応しながらお辞儀をして扉を閉めようとした。


「ああ?! このガキぃ黙って聞いてりゃ客に舐めた態度取ってんじゃねぇよ」

「あっ、お前風魔法だったりする? だったら使うのはやめたほうが良いかも。 水魔法だったらまぁ歓迎。あー…でも炎はちょっと辞めてほしいかも」


後退りながらバーのカウンターに物陰に隠れる。一応、ね。


「ああ?! ごちゃごとゃうるせぇんだよ」


男の足元に風が集り出した。1点に風を集中して放つスタイル。

ドガーンと大きな音が鳴り響くのを確認すると俺は様子を見に黒焦げアフロになりくたばってるやつを見下ろした。


「あーあだから言ったのに……ばいばい、自爆草。お前のことは決して忘れない」

「お前……こんなことして、イヤンさんが黙ってると思ってるのか!」


目の焦点が合っていない。口から黒い煙を吐きながら吐き出した名前に、俺は聞き覚えがある気がした。

イヤン……誰だっけなぁ。なんか聞いたことある気がする……。

そして、俺は思い出した。


「イヤン……イヤンって……お前らのボスだったり……?」


嘘だろ、おい。


「そうだ! 俺にこんなことして、お前らなんかイヤンさんが瞬殺だぞ!」


黒く素敵な笑みを浮かべているのを怖がるべきなのだが、そいつは相変わらずさまになってない。


「そいつなら二階で俺の仲間に鞭で撃たれてるぜ」

「そんなわけないだろっ!? ふざけるのも大概にしろ」

「いや、ほんとだって。鞭打たれて喜んでるよ」


まぁ、信じたくないのもわかる。自分より上の立場で崇めてる奴が誰かに打たれて喜ぶ姿なんて、想像するだけゾットする。認めたくないだろ。だが、本当のことだから仕方ない。

ありえないと叫び続ける男を引きずり上げ、自分の目でその光景を見せた。


「う、嘘だろ。ありえない……イヤンさんだ。アーンさんとモットまで……イヤンさん! 貴様イヤンさんに何してくれてやがる! 目覚ましてくだー…」


口調強く鋭い眼差しを要に向けた。

そんなに強く言ったらこれから起こるであろう恐ろしい光景を予想し、指の隙間からおそるおそる覗くようにみると、


「貴様とはなんだぁ?! このかたは純愛SM要様だぞ?!」

「へ…? あ、だれ……うげぇ」


頭を床に押しつけられ、男が悲鳴を上げた。

 鈍い音がなり痛くもないはずの自分のおでこに手を当て俺は痛……と小声でつぶやく。


「お前は俺の部下だよなぁ?!」

「へぇぇい! 俺も打ってくださいいい」 


これから始める変態パレード。俺には関係ない。

さて、俺は残りの雑草たちを見てー…。

俺は階段を一歩降りるところまで来て、お酒を飲みに来たと言ってるのをふと思い出した。

アイツらは皆仲間だ。最後のやつが酒を飲みに来たと言ってた……じゃあその前にいた顔を真っ赤にして怒ってたやつ。

俺はとんでもない勘違いをしていたんじゃないか。

怒ってたんじゃなくてー…。


「あっ……」


俺は雑草のところに行かなかった。行く必要がなくなったのだ。


「要ぇえええ!! このゲリラ変態集団をもっとあへあへ言うぐらいぶってよぉおおおし!」


戦死をした勇敢な雑草達。俺はお前らを愛してる。

お前らは強い。それがたとえ偶然でも。

これが俺の闘い方だ。

いつの間にか俺達はギルト任務を達成していた。

ジケル達が帰ってくると驚いた顔と共にたっぷりと報酬をもらい、さよならをした。


「じゃあな。元気でな渉。要も」

「うん。ジケル達も」


とっとと疲れたと要が先に歩き出す。

渉とジゲルは少し見つめ合ったあと抱き合った。

雑草のことをわかってくれる奴なんてなかなかいないんだ、短い間でもさみしさが込み上げてそばを離れた。

ジゲルが最後にポツリと、


「コードネーム『雑草』か……」


と呟いた気がした。が。


「もっとお前も苦しめッ」

「はぁ?! 俺は雑草との幸せな時間で忙しいんだよ!」

「なんだとぉ?! うげぇっ」

「なっ?!」


その時通りがかった人と要がぶつかり、要の顔が至近距離に近づきー…。


「や、やめろっ!くるなっ!」


近接効果に苦しめられながら


渉と要の人探しの旅はまだまだ続くのであった。






【完】





ここまで読んでくださりありがとうございます(_ _)

他の作品も読んでくれると嬉しいです。

これからもよろしくお願いします!







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