第2話 ロロとシリル
小学校帰り。
ロロがポストの中を見ると、一通の手紙が入っていた。それはロロ宛の手紙。滅多に手紙など来ることがない自分宛のため、ロロは少しワクワクしながら、その場で手紙を開けた。
その内容は、応募した覚えの無い当選結果の手紙だった。
封筒を見ると、手紙の送り主の名前もなく、消印もない。
これはきっと、もしかしなくても。親友のシリル・ライトの仕業に違いないと、ロロは目星をつけた。
ロロは家に入り鞄を部屋に投げ入れると、すぐにシリルの家へと向かった。
走って五分の所、森の入り口にシリルの家はある。
シリルの家に近づくと、ちょうど外に彼はいた。
「シリル!」
「やぁ、ロロ」
近寄れば、彼の手にも同じ封筒がある事に気がつき、ロロは瞬きを繰り返しシリルを見た。
「シリル、その封筒……。これは、君のイタズラでは無いの?」
ロロが手紙を見せると、シリルは自分の持っている手紙をロロに手渡した。互いの手紙を読み終えると、二人は顔を見合わせる。
「「……誰のイタズラだろう?」」
声を合わせて言うと、二人は小首を傾げた。しかし、シリルはすぐにニヤリと口角を上げる。この笑顔は、何かイタズラを思い付いた時の顔だと、ロロは知っていた。
「なぁ、ロロォ?」
「シリル、さすがに夜中に抜け出すのは難しいよ……」
「五日は明日だ。今日、おじさんとおばさんに、明日は僕の家に泊まると伝えてたら良いのさ。幸い、翌日は学校も休みだ」
その提案に、ロロの心が少し揺れ動く。
「これが誰かのイタズラだとしても、そうじゃ無かったとしても、なんだか楽しそうだと思わないかい?」
シリルはロロの心が、この提案に乗るように揺さぶる。
「真夜中の丘の上。しかも、指定場所は南十字星が見える丘とある。あの丘は、ユニコーンの休む場所と言われて、昼以外は近寄ってはいけないと言われている場所だ。だけど、この手紙を持って行けば、堂々と夜の丘へ行く事が出来る。どうだい? 君も、あの丘の夜の様子を見てみたいとは、思わないかい? 本当にユニコーンが居るのかどうか」
♢♢♢
その夜の夕食時。ロロは早速、両親に翌日のお泊まり会の許可を願い出た。最初は渋っていた母親も、父親の「いいじゃないか。ロロだって、もう五年生だ。子供は子供の社会の中で生きているんだ。子供同士の付き合いは、大切だよ」という言葉に、頷いてくれた。
母親は、夕食を食べ終えた後、シリルの家に電話をして、明日のお泊まり会について礼を伝えて、無事に決行となった。
***
「ロロ、手紙はちゃんと持って来たかい?」
「もちろん、ここに入っているよ」
ロロはリュックのポケットから手紙をチラリと見せ、すぐにしまう。
「念のため、果実水とクッキーを少し持って行こう」
そう言うと、シリルはそっと部屋から抜け出した。みんな寝静まって、しんとした家の中。
足音を忍ばせキッチンへ向かい、果実水の入った瓶を二本と、シリルのおばさん特製のチョコレートクッキーを数枚、紙袋に入れて戻って来た。
二人でリュックに詰め込むと、時計を見る。
「そろそろ丘へ向かおうか。少し早く着く位がちょうどいいだろう」
声を顰め言うシリルに、ロロは声を出さずに頷くと、二人は静かに家を抜け出した。
真夜中の街は、とても静かで暗い。ロロは少し不安になった。明かりらしい明かりは、シリルが持っている懐中電灯と街灯の明かりだけ。そして、良く晴れた空に浮かぶ三日月と星々の輝きだけで、その他の光は無い。
しん、と寝静まった街に二人の足音が妙に響いて、ロロはドキドキしながらシリルの隣を黙って歩いた。
***
指定時刻より十分早めに丘の上へ到着した二人は、目の前の光景に息を呑み、呆然と突っ立っていた。
なぜなら。
二人の瞳の中には、良く晴れた夜空に大きく光る南十字星と、翼を持つ一角獣のユニコーンが八頭、映り込んでいるからだった。
この丘に辿り着くまでに、少し変わった事があった。
丘の麓から歩いてきて、ふと、足を止めたのは、ロロだった。
「ねぇ、シリル」
「なんだい?」
「今日って、三日月の日じゃなかったかな?」
ロロは良く晴れた夜空を見上げながら、そうシリルに訊ねた。
シリルは同じ様に夜空を見上げる。天井には、真ん丸と太った月が柔らかな金色の光を放って、そこにあった。
「天井には満月。ということは、今日は満月の日だ。ロロ、月の満ち欠けカレンダーの見間違いじゃないのか?」
ロロは、少し不服そうに「う〜ん……そうなのかなぁ」と応えた。
天井に満月が浮かんでいるのだ、自分が見間違えただけと、認めざるを得ない。だが、ロロは確かに、先程家を出る時に見上げた月は、満月には程遠い形だったと記憶していた。それをシリルに伝えると「人間の脳とは、錯覚ですら本物だと間違えるんだ。そんな記憶くらい、簡単に間違えることもあるさ」と取り合う事は無かった。
もう間も無く丘の頂上が見える、という場所で、ふいに空気が重たくなった。
「ん? なんか、前に進みにくいな」
「うん、なんだろう。こう、空気が重い。身体に纏わりついてくるみたいだ」
二人は、急に重たくなった空気の中を、無理矢理歩き進めた。その時ロロは、まるで、ゼリーの中を歩いている様だ、と感じていた。
そして、ようやく頂上が見える位置へ辿り着くと、ふと身体が軽くなり、先程までの空気の重さは感じなくなった。そして顔を上げ、見つめた先に、二人は歩みを止めたのだ。
幻獣といわれる、その生き物が、目の中に飛び込んで来たから。
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