第43話 死なず、死ねず、死に続け
「見ろ、混乱してるぞ」
「そりゃあ混乱するだろ。だって死人が現れたんだからな」
「??????」
目の前で潰された筈の白装束が元気に立っている。
しかしキメラの手には潰されこぼれ落ちた白装束の腕が握られている。死んだのは間違いない、その手に証拠が残ってるのだから。
ついでに先程まで迫り白装束を潰した壁が元の位置まで戻る。その壁にはべっとりと赤い液体と赤に染まった服が張り付いていた。
「がう…………なんで!?」
「地味にバリエーション増えてるな」
人の言葉は練習しても咄嗟に出る訳ではない。英語を日本語で変換するように少しの時間差が必要になる。
故にこの3文字が出ただけで褒めても良いだろう。
それはさておき混乱するキメラをよそに白装束は自分の『跡』に対して手をかざすと煙が空気に溶けるようにきれいさっぱりと消えてしまう。
文字通り魔法と言っていいだろう。キメラにとって不可解なことが起きたのだから当然だ。
もちろん男の方も仕組みを全く理解していない。
「それはそうとこういう罠は古今東西変わらないんだな」
「典型的とはいえ避けられなかったのかよ」
「見ただろ、ノータイムで潰されたんだぞ?」
「反応しろよ。教祖だろ」
「運動神経は人類より優れてるとはいえ限度があるんだよ!そもそも体勢崩してたし避けられないって」
「瞬間移動しろよ」
「咄嗟に出来るもんじゃないんだよ!」
普通の地上の人間では確実に不可能なことを条件がそろえば出来るようなことを平然と言ってのける。
やっぱりコイツら人間じゃない。キメラはそう思った。
「さて、ぶっちゃけ萎えたんだが戻らないか?そろそろ飯を食いたい」
「自由か。いや、不自由だからか?」
「あながち間違ってない。教団にいる時は孤独だからな」
訳の分からない会話をしつつ2人はキメラを置いて来た道を引き返し始めた。
キメラは罠の強さを確かめるべく敢えて罠を踏んでみた。
カチリという音とほぼ同じタイミングで壁が迫りキメラの身体を押し潰す。
しかし、2mある身長かつ8tという質量の筋肉を持つキメラが潰れることはなかった。単純に肉体が強固だったからである。
潰されたままムニムニと壁から這い出て脱出する事は出来たが、少しざらざらしていた壁に服が引っかかったのか少し破れていた。
そんなことは気にしないキメラはドスドスと質量に似合う足音を立てて二人の後を追った。
自分はこの程度では死なない、そう思いながらあまり他のモンスターと出会わないと感じていた。
キメラが遊んでいた間に思ったよりも二人は思っていたよりも遠くに行ってしまったようだった。
「がう…………」
とはえいダンジョンはキメラのホーム。男の家の位置は既に把握しているため迷うことは無い。
何故かダンジョン内部の構造が変わったとしてもどこをどう通れば目的地に到達するのか分かってしまう。
話題に上がらず忘れがちだが『ボス部屋』も知っているのだ。
だが、先ほどの人間では即死する罠をたまにモンスターも踏んでしまう時もある。そういう時はたいてい即死、昔のキメラでも死ぬ可能性はあった。
今はどうだ?200年もの間、引きこもり続けて姿も声も出さない『ボス部屋』のモンスター。喰らい、学び続けたモンスター。
力関係がいつの間にか逆転している、そしてあの男が居る限り『ボス部屋』も出てこないだろうという確信があった。
普通に強すぎる奴が居座ってるし、なんなら何故か上の階層へ行くことが出来ない。
侵略が目的のはずだったのにいつしか穴倉に潜む獣の集まりになってしまった。
「がう…………」
一体どこで何を間違えたのだろうか。まあ、間違えたのはダンジョンの創造主だからキメラは関係ないけどね!という顔をしている。
今を生きる生物としてあまり関係ないと思い込んでいるキメラには関係ない話だ。
あの男と白装束から可能な限り情報と力を奪う。それがキメラの現状の目的なのだから。
ドスドスと足音を立てながら堂々と男の巣へと足を運ぶ。
戻ったら何を食べようか、飯のことを考えて道を進んでいくが何かおかしい。
先ほどから他のモンスターの姿が全く見えない。あの二人が近くを通ったからという理由付けは出来るのだがそれでも多少の気配はするはずなのだ。
監視のような幽霊型も定期的にやって来るはずなのに気配も感じない。
「がう?」
これと言って問題はないのだが不思議だと感じつつ歩き続ける。
キメラが思っているよりも何事もなく男の巣へ戻ることは出来た。
『お、戻って来たか』
出迎えたのは、かつて二度もダンジョン内で蒼き太陽を放ちモンスター群を焼き払った鎧だった。
「ぐるあっ!」
『やっぱり来るか』
その姿を見た瞬間に飛びかかったキメラは銀の鎧の背中から生えている四つのアームから放たれるレーザーを浴びせられた。
超高熱のレーザーを浴びせられ飛びかかった勢いは落ちた。しかし前よりも圧縮された肉体の強度は凄まじく、少々後ろに押し出されたが地面に足をつけて耐え切った。
それどころか手を広げて胸部で受け止めてるではないか。
「おお、胸部の厚みを利用して耐えてる。巨乳はやっぱり得なのか」
『そこ、よく分らん解析をするんじゃない』
レーザーを胸で受け止めつつキメラは前進し続ける。
今までは貫通していたモノを受け止められた。それだけでも大きな成長であることを実感しつつ今ならあの状態の男を襲えるのではないかという邪心を持って進んでいく。
だが忘れていないだろうか。この男は肉体はともかく、超科学の頭脳を持っている。
この四つのアームはあくまで副碗、メインの攻撃を補助するためのパーツに過ぎないのだ。
鎧の胸が輝く。そこは人口太陽を排出した部位、鎧の起動に欠かせないエネルギーを生産している機関を形成しているだけでなくレーザーを放つこともできる。
つまり、男の方は対抗手段がまだあるということである。
そうとも知らずにレーザーを受け止め自慢げに進み続けるキメラ。もう既に何が起こるか察した顔でいる白装束。
そして胸から発射された極太レーザー。
「ぐるあああああああ!?」
「…………出力上がってる?前に見た時はもうちょっと地味じゃなかったか?」
「ああ、構造を組み替えて出力の上限を大きく上げることに成功したんだ。今はMARK7、確か最後に見せたのはMARK2だったはずだから性能はかなり向上しているぞ」
「そういえば、それ単体でも大気圏突破できるんだったか。『天文台』が欲しがりそうなものをずっと保有し続けて怒られないか?」
「怒れるもんか。全部のスペックをお前以外に明かしてるわけじゃないからな」
「それもそうか。ま、だれしも手の内を明かすわけないもんな」
男二人で談笑しているが、キメラはというと極太レーザーに押し飛ばされてひっくり返っている。
自分一人だけがのされたのが気に喰わないのかひっくり返ったまま唸り続けている。
談笑している二人にもグルルとよく聞こえるほどの大音量。非常にお冠ということをアピールしていることに苦笑い。
「助け起こすか?」
「勝手に起きるだろ。それよりもナノマシンアーマーで一つ案が浮かんでな、魔力の専門家に話を聞きたいんだが」
「どんとこい。君が考えた代物は並大抵じゃ想像つかないからな」
だがその程度で二人は動じない。キメラを放置して工房の方へと消えていった。
そして…………
ドゴォォオォォォンッ!
「ぎゃああああ!?」
「陸斗が死んだ!…………さっさと復活しろ」
爆発音が鳴り響いた後に聞こえた声。そして思っているよりも無慈悲なことを言っていることに気づいたキメラはきゅっと口を閉じた。
思ったよりも誰にでもドライな性格している、キメラはそう思った。
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