第10話 夏休みは忙しい。でも②

 夏休みも終盤のある日、あたしは弘樹くんと植物園に来た。

 季節の花を見て、それから薬草園に行く。

「すごい! こんなにたくさん薬草が!」

「薬草、興味あるの?」

「うん! 最近、本を読んだの」

「彩香はいろんな本を読んでいるね」

「うん。……弘樹くんが部活している姿を見ながら……ね?」


 弘樹くんはとっても自然にあたしの手をとって、手を繋いで歩く。

 嬉しい。……でも、弘樹くん、たぶん、元カノと手を繋いだこと、あるだろうなあ。

「彩香、お弁当、食べない?」

「うん! 食べる!」

 だけど、植物園も初めてだし、お弁当を作ってもらったのはあたしが初めてだし。

「うふふ」


「どうしたの?」

「ううん、嬉しいなって思って! 今日のお弁当は何?」

「お出かけだから、おにぎりいろいろにしたよ」

「わーい!」

「おにぎりは、おかかと梅と鮭チーズだよ。おすすめは鮭チーズ。食べてみて」

「……おいしい!」

 鮭はちゃんと焼いてほぐしたやつだった。

「でしょ?」

 弘樹くんは嬉しそうに笑う。

「あとはね、ピックで食べられるものにしたんだ。おかずは、卵巻きと唐揚げとポテトフライ、ブロッコリーとミニトマト」


 二人でゆっくりお弁当を食べる。

 気持ちのいい風。

 いっしょに食べるお弁当。

「ねえねえ、この植物園、冬にまた来たいな。ツバキ園があったでしょう」

「うん」

「ツバキが咲くころ、また来たい」

「うん、また来ようね」



 お弁当を食べ終わってまた植物園を散歩して、売店でしおりを買った。ううん、弘樹くんが今日の記念にって買ってくれたの。黄色や白の草花の押し花がついているかわいいしおり。あたし、ずっとたいせつにするんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る