第3話 勇気を出して告白するのよ!①

「ねえ、ママ」

「なあに?」

弘樹ひろきくんね、すごくもてるの」

「もてない子より、いいじゃない」

「でも! いったい、どうすればいいの?」

「押すのよ!」

「え?」

「ママもねえ、押して押して、すぐるさんをゲットしたのよ!」

「げっと?」


 ママと会話していたら、小一の妹、織子おりこが会話に加わって来た。

「あら、織子ちゃん。いっしょに女子会する?」とママが言い、あたしにはカフェオレ、織子にはルイボスティーを出す。ママはコーヒーだ。今日は、パパは出張でいないので、女子三人でおしゃべりをする。あたしはこういう時間が好き。パパのことは好きだけど、なんだか女子同士の秘密って感じで楽しいんだ。ママの名前は香織かおりという。あたしの名前、彩香あやかも妹の名前織子おりこも、ママの名前から一文字ずつもらった名前だ。パパの名前は「すぐる」で一文字だし、女子っぽくないから一文字もらえなかったのよって、ママは笑っていた。


「ねえ、ママ。パパ、ママのことがすごく好きじゃない? あたし、パパがママのことを先に好きになったんだって思っていたよ」とあたしが言うと、織子も「うんうん」と頷いた。

「ふふふ。違うのよ。パパはねえ、あたしが大学院のときの教授だったの。若くてイケメンで、みんなに人気があったのよ」

「パパが!」とあたしが言うと、織子も「パパが!」と言った。織子は最近、真似が好きだ。


「そう、パパが。ママは一目見て、このひとだ! って思ったから、頑張ったの! だから、彩香も頑張って」

「えー、どうやってー」

「うーん」

「あたし、お料理苦手だから、お弁当作戦も駄目だし」

「うん、それはママも苦手。てゆうか、無理」

「あたし、お料理好きだよ!」と、これは織子。

「あーあ、織子はいいなあ」


 うちで料理が得意なのは、パパだ。そして最近は織子も上手になってきていて、正直、料理っていうのは才能の問題じゃないかと思っている。

「彩香ちゃんはさ、彩香ちゃんのいいところがあるから、お料理出来なくてもいいんだよ」って小一の妹に慰められるあたし。

「ママはさ、なかなか恋愛出来なかったの。卓さんに会うまで。だから、彩香に好きなひとが出来て、すっごく嬉しいのよ? 思い切り楽しんで欲しい。頑張って!」

 とママが言うと、織子も「頑張って!」と無邪気に笑う。


「ねえ、彩香」

「うん」

「弘樹くんといっしょにお弁当食べたりしているんだよね?」

「うん」

「弘樹くん、嬉しそう?」

「……たぶん。最初に誘ったとき、ちょっと赤くなっていたし」

「……告白しちゃえば?」

「え?」

「弘樹くん、みんなに優しいかもしれないけど、話聞いていると、彩香のこと、好きなんじゃないかなあって思うよ?」

「……そうかなあ?」

「うん、そうよ。だから、好きって言ってみたら?」

「う」

 織子も「好きって言ってみたら?」とにこやかに言う。


「弘樹くん、自分から好きって言うタイプじゃないと思うなあ。だから、彩香から言うといいと思うよ。誰かに先に言われちゃうと、流されてつきあっちゃうかもよ?」

「それは駄目!」

「駄目!」これは織子。

「彩香。勇気を出して、告白するのよ!」

「するのよ!」

「うう」

 そんなわけで、あたしは勇気を出して告白することにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る