第106話「奥様と秘密の部屋」アイリス異世界F大賞2銀賞記念番外編
「私と背格好の似た金髪美女の女優は見つかった?」
私は侍女長を振り返り、声をかけた。
「はい、王妃様こちらに」
「……」
女優は俯うつむいていた。
私の身分が高いので許可なく発言できないと思っているようだ。
「ふむ、よろしい、あなたは今から私の影武者。身代わりよ。
と言っても、私が外出している間、具合が悪いふりでベッドで寝ててくれたらいいわ」
「発言を許される」
侍女長が返事を促した。
「はい、王妃様。おおせのままに」
最近の私と言えば、ラヴィが成人して女王となるまで夫と私で王と王妃で国を支えている最中だ。
いずれ明け渡す座ではあるが、今はやはり国内でもとても高い位置にいる。
しかし、私には行きたい場所があった。
画家や画材を売る者達が集う芸術街道がある。
私は王侯貴族しか行かないような格式高い展覧会より、とても素敵な絵なのに埋れたままの画家がいそうなそんな場所に興味がある。
「では私は出かけてくるから寝巻きを着て身代わりを頼むわ」
「はい」
私は忙しい政務の間をぬって、変装をし、城から抜け出した。
久しぶりに買い物でストレスを発散したいのだ。
芸術街道には絵の具の匂いとか、独特の香りがした。
あちこちにイーゼルに立てかけられた絵や、壁に無造作に立てかけられてる絵もある。
木彫りや石像の彫刻もちらほらある。
裸婦は結構多いけど、下半身に肉がむっちりついててリアルっぽいのが多いな。
熟女体型が多いような……これはこれでいいけど、もっと若い……少女から大人になる中間のような時の……。
無防備にゆったり寝てる女性の絵が欲しい。
まるで写真のように精緻な描写で透明感があり、透明感もあって、あ、あれ良さそう!
「これとこれと、これも、いただくわ! とても精緻で素敵な絵ね!」
素敵な絵を見つけて駆け寄って凄い勢いで買う私に、売り子がびっくりした顔してる。
「あ、ありがとうございます」
「あなた、描いた本人?」
「はい」
私はバッグから紙と万年筆を取り出して画家に渡した。
「ではここに名前と住まいを書いて。後援者が欲しい場合は」
「は、はい!」
30代くらいの貧しそうな様子の画家は慌ててメモを書いた。
よし、作者の名前もゲット!
──でも、セクシーな絵ばかり買うわけにもいかない。
次に他の絵も見て回る。
「あ、素敵な風景画と静物画!
瑞々しさが伝わってくる果物、美しい花のある風景。いいわね」
静物画と花のある風景画を5枚くらい買った。
「あ、かわいいうさぎの絵があるわね、これはラヴィにお土産にしましょう」
はっ!! これは素敵なたわわの絵! 素晴らしい才能です!
これも買いましょう。いや、これは芸術ですから。エロじゃなくて芸術。
「何故裸婦画ばかり買われているんですか?」
背後から護衛騎士がジト目で問いかけて来た。
「し、失礼ね、エレン卿、兎や花や静物画も買ってるでしょう」
「裸婦やそれに近い絵が多いような」
「気のせいよ、きっと後で高額になりそうな絵を選んだのよ」
「裸婦画がですか?」
「美しいのよ、見なさい、この精緻な筆使い! 芸術よ!」
「はあ……」
全く芸術を理解しない朴念仁め!
そうしてしばらく買い物を満喫してから城に戻った。
その後、影武者を一旦解放し、また仕事がある時に呼び出す事にした。
そしてすぐに自分用の絵を飾る部屋を作った。
美少女と裸婦と花と果物の絵、私の好きなものいっぱいの空間が完成した。
ご満悦でお酒を飲みながら絵画鑑賞をしていると、秘密の部屋の扉を無遠慮に開いて、旦那様が現れた。
いや、現在、国王様のアレクシスだ。
そう、誰も現在最高権力者の国王陛下を止められないのだ。
「な、なんだこの裸婦画ばかりのいかがわしい部屋は」
「何を言うんですか!? いかがわしくなんてありません! 芸術部屋ですけど!?」
「これらの女人の絵、服がはだけ過ぎではないか?」
もはや布キレ的に、はだけてる裸婦画も確かにあるけど。
「芸術です! この良さが分からないのですか?」
「やれやれ、其方は二人目を産んだ後も本当に変わらぬな」
「もう、私の癒し空間で文句を言うのをやめてください」
「そう言えばラヴィアーナが兎の絵を貰ったと言っていたが」
「あなたも裸婦絵が欲しかったなら正直に言ってください」
「裸婦では無い! こ、この、精緻な絵を描く画家に肖像画でも描かせてみようかと」
「娘か息子の絵ですか?」
「……其方と、その、皆だ」
──あら、少し照れているようね?
「いいですよ、画家の名前はメモってありますからね」
私は口元が緩むのを止められなかった。
いつも不器用な愛情を示す、旦那様がかわいくって。
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