第38話 ストレス解消がしたくて

 魔法と魔道具による完璧な変装、男装をして私は夜の街にくりだす。

 フード付き外套も着てるから、誰も公爵夫人だなんて気がつかないはず。

 更に、魔道具のイヤーカフは声すら変えてくれるから、男性のような低い声も出る。

 

 

 馬に乗って一番近い花街に着いた。


 歓楽街……花街には魔法の灯りに本物の篝火。

 夜の花街には深夜ですらそこかしこに灯りが灯っている。


 街角に立つ女。男の腕にしがみつく女。

 呼び込みの男。


 花街の通りには夜でも人が行き交い、賑わっていた。

 ワクワクするな、大人のテーマパーク。


 私は冒険者風の服を着て、男装をしている上に、魔法による偽装もあって、呼び込みから声をかけられた。



「そこの旦那! うちの店、かわいい子いますよ!」

「オッパイで顔を挟んで、パフンパフンとしてくれるようなサービスはある店か?」

「え!? オッパイで顔を挟む?」

「ああ」


 私は真面目な顔でそう言った。

 パフパフはロマンである。


「面白い事言う人だな。それは二階に上がって女の子とスケベする時に頼めばいいのでは?」


「本番をするほどではないけど、オッパイは触りたいって人は多いと思うんだ。だってほとんどの男はオッパイが好きだし、触ってお酒飲んでイチャイチャするだけでも女性は金が稼げるし、男もだいぶん満足ではないか?」


「な、なるほど!! 面白い発想だが、今日の所は呼び込みの俺にそんな事決める権限はないけど、本当にかわいい子いるから遊んで行きなよ」


「この店はどういう遊び方をするんだ?」


 三階建ての立派な建物を見上げて私は問うた。



「まず入店してお酒や料理を楽しむだけってのもできるが、花を売る女の子がいるから、気にいった子がいれば指名して、これで指名料を払う。女の子としばらくテーブルでお話したいなら銅貨10枚、気に入れば選んだ女の子と二階のベッドのある部屋に行って、本番が出来る」


「ホンバンの価格は?」


「女の子のランクによって変わるが新人の……一番安くて銀貨七枚。現在のナンバーワンは金貨30枚ってとこだな」


「ふーん、とりあえず本当にかわいい子がいるなら酒も飲みたいし、入ってみるか、でも俺好みのかわいい子がいなかったら酒を一杯だけ飲んで帰るぞ」


「オッケー! お客様一名様ご案内!」



 私は客引きにドアを開けて貰い、入店した。


 お酒や料理の匂いがする。

 店内はなかなか賑わっていた。

 一階はテーブルごとに高すぎない木製の仕切りの有る食堂のようだった。

 隣りか対面に座る男性客のおしゃべりに耳を傾けつつ、お酒やフルーツをつまんでたりする女性達。


 お、かわいい子もいる。嘘では無かったようだ。



「本当にかわいい子がいるな」

「当たり前だよ、うちはババアしかいない詐欺店じゃないから!」

「いらっしゃいませ、気にいった子がいたら指名してください」



 ボーイっぽい店員にそう声をかけられた。

 私は店内をぐるっと見渡し、そこかしこにいる女の子を眺めて、飲み物を運んでいた子を選んだ。



「えーと、髪が長くて、オッパイが大きい……茶髪のあの子」

「アマーリエ! ご指名だよ」



 アマーリエちゃんと言うのか。

 私は22歳くらいに見える、大変立派なたわわをお持ちの女性を選んだ。

 顔もかわいい。



「一緒にお酒を飲んでおしゃべりしてくれるかな?」

「はぁい。ご指名ありがとう! アマーリエです。お客様はこの店は初めての人ね?」

「ああ」



 私は自分のテーブルに適当に料理とお酒を注文した。

 女性が好みそうなチーズやフルーツも有る。

 


「このお店って貴族みたいな偉いさんも来る?」

「んー、騎士様ならたまに。男爵様ならごくごくたまにってくらい?」


 来るには来るんだな。貴族も。


「なるほど」

「貴族様に知り合いでも?」



 お酒の場だと、せっかくなのでなんとなく情報収集をしてしまう。



「いや、お貴族様も来るくらいなら下の病気持ちの女は出さないかなって思っただけ」

「二階に行く?」



 私が二階に行っても、実際に女性に突っ込む棒は無いのだよ。



「いや、ここでしばらくおしゃべりしてくれたらいいよ。胸が触りたいだけの客など迷惑だろう?」

「……もしかして、勃たないの?」



 まだ若いのに気の毒な。みたいな顔をされた。



「本番をすると配偶者に怒られるから……」

「あら、奥さんがいるのね」



 すみません! 夫がいます!!



「でも胸のお触りだけでもいいわよ、特別に銀貨三枚で」



 アマーリエはパチンとウインクをした。

 マジで!?


 ぱ、パフパフ可能?



「そのたわわで俺の顔を優しく挟んでくれたりしてくれる?」

「私の胸に顔を埋めるのが好きなお客様は沢山いるし、もちろんいいわよ。

お兄さん、美形だし」



 魔法工作で私の顔は美形の男に見えるようになっている。

 ゴクリと生唾を飲んだ所で、急に来店した男がズカズカと歩き寄って来た。



「帰りますよ、お戯れにもほどがあります」



 げえ!! エレン・フリート!! 

 変装してるようだけど、尾行していたのね!! 我が公爵家の騎士が!! 


 ああ!! 夢のパフパフタイムが!! 強制終了に! 

 いやまだ始まってすらいないのに!!


 甲羅酒の席に呼んであげた恩を仇で返すのか!?

 無常にも私は腕を掴まれ、店の入り口に向かって引きずられて行く私。



「あああっ!! 残念無念! ちょっとだけ待ってくれ! 親切なアマーリエにこれを!」



 私はポケットから取り出した金貨一枚を彼女の方に投げた。

 チップだ。

 パフパフは叶わなかったが、してくれようとしたのは確かだ。


 アマーリエは金貨を上手にキャッチした。


「わあ! 美形のお客さん、ありがとう!」


 酒とちょっとの会話で私の夜遊びが終わった。

 泣くぞ。


 私は騎士によって店外に連れ出され、花街内に待機していた馬車に突っ込まれた。

 もちろん馬車には公爵家の紋章など入っていない地味でありふれた物だ。



「私のスーパーおっぱいタイムを邪魔をするとは、君、恩を仇で返したな?」


「申し訳ないですが、いくらなんでも花街に来るのはどうかと思いますよ」

「むしゃくしゃしてたから、お酒と美女に慰めてもらおうとしてただけなのに!」

「美女なら魔法と変装を解いて鏡を見ればいいですよ」



 私かよ! 


「自分を見てどうするの! いくら美人でもね!」

「旦那様の命令ですので」

「あの人、寝て無かったの?」


「冷たい布団が嫌だと言っていたのに急に出て行くから何かあるとおっしゃって」


 クソー〜〜!! 夫に完全に行動を読まれている!

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