第6話「幼女に迫るポリ公の魔の手! ルナは逃げ切ることができるのかの巻②」

「お~い、誰かおらんのか~?」


家はシンと静まりかえっており、返事は返ってこない。

部屋には生活感があり、ごみ屋敷化したせいで腐臭が漂っているわけではなさそうだ。

ルナはそのまま部屋を見て回る。


「くっそ……元の世界にいたときはあっくんの腐臭とかカビ臭さなんか、大して気にならんかったのに……なんか涙出てきたんじゃけど……」

(これも魔力が失われた影響か……? 身体が魔力も耐性もないただのパンピーになってきておるというのか……)

「くそぅ……元のパーフェクトボディならこんな苦労せんで済むものを!」

鼻をさらに強めにつまみつつ奥へ。ギシギシ鳴る廊下を進んでいく。


その先にはふすまの和室があった。

「……他の部屋には誰もおらんし、家主はここかの?」

「お~い、ここにおるんじゃろ? 我、世界征服に来たんじゃけど、なんか他のラノベ違ってチートどころか弱体化しとるんじゃ。だから匿う権利をやろうと思うんじゃけど、おぬしどう?」

だが、やはり返答はない。


「……うおい! 夜の女王たる我が頼んどるんじゃから挨拶くらい返さんかコラァ! 無視するのが一番よくないんじゃぞコラァ!!」

怒ったルナは、ふすまを勢いよく開ける。

部屋にはぽつんと布団が敷いてあり、そこには老婆が眠っているようだった。


「やっぱり居るではないか! おい、起きろ! アンデッドのくせに寝るな! そんなん本物の死体と変わらんぞ!」

ルナが老婆の肩をガクガクさせる。

「…………」

へんじがない。

「……え。もしかしてこれアンデッドとかでなく……」


ただのしかばねのようだ。


「本物の死体かい!!!!!!」


ルナのツッコミが響くが誰も答えることはない。

咳をしても一人、ツッコミをしても一人だ。

「まぁじか……せっかく流浪の地で魔族と巡り会えたと思っとったのに……」

嘆くルナだったが、そんな暇もなくインターフォンが鳴る。

「な、何の音じゃこれ!?」

さらにもう一度、インターフォンが鳴った玄関の方から声がする。

「すみませーん、警察です。聞き込みにご協力くださーい」

「け、警察!?」

動揺するルナ。声を出さないよう慌てて自分の口をふさぐ。

「今、ちょっと女の子を探してまして~」

(しかも、これまだ我のこと探しとる!?)


ルナは脳内で現状をどう打開すべきかシミュレーションする。

(どどどど、どうする!? 物陰に隠れて不意を突くか!? いや、落ち着くのじゃ……我は今弱体化しておる。バトル脳を抑えろ!)

落ち着いてもう一度考える。

(というか、そもそも勝手に入ってくるものなのか? 居留守していれば諦めて帰るんじゃないか?)

そう判断したルナは、息をひそめて廊下に戻り玄関の方へ聞き耳を立てた。

安普請の古い住宅は、玄関越しでも警察官の声が十分に聞こえてくる。

「誰かいませんかー?」

(おらんおらん! ここには誰もおらんぞ……!)


弱体化前のルナであれば、呪術によって警官に下痢を誘発させ早々に立ち去らせることも簡単だったが、今はただただ念を送るのみである。


(うんこしたくなれ! 忘れ物を取りに戻れ! えっと後は……台所の火止めたか? 家のカギ閉めたか? とにかく何でもいいからはよ、どっか行け!)

「うーん……留守かな」

(よぉし! アホめ、さっさと帰れ!)

しめしめと笑うルナ。

しかし、警察官はあることに気づく。

「……なんかこの家、臭くないか? それにどこかで嗅いだことあるような……」

(え!?)

動揺するルナ。警察官のセリフにデジャ・ヴを感じる。

そして警察官も、少し前のルナと同様に思い至る。

「ああ、思い出した! これ孤独死した独居老人の現場検証してるときの匂いだ!」


その合点がいったという警察官の声に、ルナは内心絶叫する。


(あかーーーーーーーーーーーん!!!)


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