第5話 スズメって食べられる?
俺の通っている大学の周りはお世辞にも都会とは呼べなかった。建物は電車を4駅くらい乗り継げば、それなりの建物は見えてくるが、大学の周辺は小田舎くらいではある。いや、ド田舎かもしれない。なぜなら、今目撃しているのはカラスが子スズメを撃ち落としたところ。なんなら、俺がいなければ道端で倒れている一羽の子スズメはもうカラスの胃袋だろう。そんな光景を見て都会とは呼べないという都会を知らない田舎者の俺はそう思うしかない。
それにしてもどうしたものか…………俺がこの雛を拾わなければ待ち伏せしていてカラスにパックンチョされていただろう。でも、うちのアパートはペット禁止であるため、契約破棄される恐れがあるので、飼うことはできない。しかも、この雛が今の状況で野生を生き抜くのは、人が空を自力で飛ぶくらい難しい。なぜなら、この鳥はカラスの襲撃で羽をケガしている。つまり、俺たちと同じで地上を歩くことしかできない。さて、どうしたものか。そう思いながら歩いていると、一人のご老人に話しかけられる。
「おにいちゃん、その鳥、どしたんかい?」
これは好都合、この老人にこの雛を預ければいいんだ。そうすれば、スズメも助かるし、俺がアパートを追い出されることもない。すまないが、おじいちゃん利用させてもらうよ。
「先ほど、カラスに襲われて、奇跡的な生存を目撃したところを自分が助けました。どうも、羽をケガしているみたいで、空を飛べないようです。自分が助けたいのはやまやまなんですが、アパートで一人暮らしをしているもので、ペットは買えないんですよ。だから、この雛を助けてあげてください。」
全人類が号泣するほどの完璧な説明をしたと自分でも自覚した。これでもう安心だ。あとは日本昔話のようなおじいちゃんとスズメの生活を楽しんでもらいたい。そこで、相手の返事を待っていると。
「ありがとう、大事に
おい、ちょっと待て、どういう意味だ。いただくというのは確かもらうという意味もあったよな。そうだ、偏見たっぷりで申し訳ないがいくら思考が昭和だからって、流石に怪我しているかわいらしい無力なひな鳥を食べたりしないだろう。そう思いつつ、ひな鳥を自分の手元から渡すと、おじいさんはムギュッとなりそうな勢いでひな鳥を握る。なんなら、ひな鳥は苦しさのあまり声も出ず、目を瞑るしかできていない。そんなに強く握ったら死んじゃうよ、ただでさえ、弱っているのに……これは生かす気が何のか、結構ガチなやつなのか…………。
ここで、見ていて気が気でない俺におじいさんの追撃が来る。
「今日は焼き鳥がいいのう」
まじか…………。これはこのまま見過ごしたら、胸ぐクソ悪いやつなのでは、ほら、いじめを見過ごしている奴も加害者的な感じのやつ。でもこれ、このおじいちゃんが危ない感じを見せてきたせいで話しかけるハードルが急に上がったんですが。まあ、仕方がないか。
「あの~、すいません。そのひな鳥をどうするおつもりですか」
「そじゃなあ、夕飯は焼き鳥がいいかのぅ」
マジですか……もう、このひな鳥をもうすでに夕飯として見ている件について。でも、もしかしたら、シンプルに俺の声が聞こえないだけで、偶然話がかみ合っているというのは………………。
「用がないなら、けーるぞ」
帰るをけーると言うとは、これは完全に黒と見てよろしいのではないでしょうか。完全に意味不明だけど。でも、このおじいちゃんは俺が止めようとした瞬間に帰ろうとしだすし、言動が怪しい。しかも、歩き方が独特。妖怪のヌリカベのように脳天から体を串刺しにされた人のようなに歩くな。あと、遅い。百メートル10分台くらいじゃないか。こんなんじゃ日が暮れるどころか、日をまたぐ。何とかしなくては。
「そのひな鳥やっぱり返して欲しいな……」
「………………」
「……………………………………」
なんで返事しないんですか?そう言いたいけど、このいつでも人を殺せますオーラ漂う危ない感じに深入りすると、もしかしたら夕飯に人肉が追加されるだろう。もうこのままいつでも逃げられる態勢を保ちながら、黙って着いていくしかないんだ…………。
しばらく歩いた。本当にただその場を足踏みするような速さで、無限とも感じる時間だけを使い、しばらくほんのちょっとの距離を歩いた。やっとだ、おじいちゃんのゼロに等しい歩みがやっと止まった。目と鼻の先の場所に着くまでが本当に長かった…………。でも、家じゃない?住宅地にポツンとある一本の大きな木で緑も少しはある場所?ここなら、おじいちゃんの家に行くよりもまだ生きていけるかな。あっ、食べるんじゃなくて逃がすんだ。しかも、ちゃんとカラスに襲われないように木陰に隠しながら。よかった俺の思い過ごしか。もう、俺は必要ないな。
「スズメを安全なところへの送迎お疲れさまでした」
よし、これでもう安心して帰れるぞ。今日は非常にグロテスクでハートフルだったな。
その後のひな鳥の行方を知るものは誰もいない………………………………………………………………………………。
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