第13話 お蔵入り
昔とある番組のディレクターをやっていた時に体験したお話です。
当時行方不明者の捜索を目的としたエンタメが流行っていまして、私が担当していた番組でも一度そういった企画に挑戦してみようと提案が上がりました。
新進気鋭な時分でしたので熱量を込めて依頼人を探し、少しマイナーですが口コミの良い超能力者にも依頼して構成を考えました。
内容としては5年前突如として書き置きすら残さず家から消した家族の捜索です。
特に何という事はない依頼者達だったと思います。
強いて言えば7人兄弟という随分と子沢山な所が珍しいと思えますが、歳の行った依頼人のお母さんの年齢から考えたら普通ですね。
サイコリーディングの力を持つと豪語していた超能力者の方も力は確かなようでした。試しに私を見てもらった所他人では知り得ない事も当てられましたしね。
後に聞きましたが仕事を選んでいるという事情から本物でも知名度が低かったみたいです。
自画自賛ですが事前準備は万端でした。
いざ撮影が始まってタレントの前説を経由しつつ依頼人の身の上話と行方不明者との思い出を語りつつ、いざと言わんばかりに超能力者の方が登場。
そこから行方不明者が持っていた物の思念を読み取ってリーディングが始まり、その人が指したのは東北の一つの山でした。
此処に彼が居ると言い切り、次の週の日曜日に依頼者と超能力者を伴ってその山へ探索に向かいました。
暑い最中でしたので撮影も大変な労力でしたが、迷う事無く進んでくれたのでその点は良かったですね。
そして案内されるままに人住む痕跡がある洞窟に足を踏み入れました。
これは雰囲気出るなーと喜び勇んで進みますが人っ子一人見当たりませんでした。
超能力者の方は「確かに此処に居る筈なのに」と訝しむ様な悩む様な素振りに固まります。
すると撮影の一人が唐突に声を荒げました。
なんだなんだと其方を見やると私達の目にもそれが飛び込んで来ました。
洞窟の壁の一区域が綺麗に掃除され、そこに木炭の黒い塗料で『探シテモ無駄ダ』と荒々しく大きな文字で書かれていたのです。
一気に血の気が引きました。
何故私達が探している事を知っているのか。
恐らく連絡の取れる状況に無い探し人が我々の動向を知るのは難しい。
超能力者の方はただ黙り、依頼人は恐ろしさから震えていました。
私含めた番組側はこの後どうするか話し合いました。
ただ続行するにも撤退するにも超能力者の如何次第な所があります。
彼の言葉を待ち、やがて関を切った様に「これは追わない方が良いかもしれません。門外漢ですが、何かしらの悪意に晒される可能性がある」と言葉を放ちました。
一転して心霊番組へと様変わりしてしまいました。
結局その後何度かリーディングを行って貰いましたが結果はあの山から変わらない。
これ以上先に進まないという事でお蔵入りにせざるを得なかったのです。
お話は此処までで後は余談なのですが流石にリソースをかなり掛けた企画でしたので何とか続く情報を得られないかと様々な不思議な力を持つ人達に会って話を聞きました。
力のある方は全員この山を指し、とりわけ霊能者と呼ばれる方々は皆嫌な顔をされてました。
理由は誰も話してくれませんでした。
ですがただ一人だけポツリと残した言葉が耳に残っています。
「そこに居るのにそこに居ない。霊で在らず人に非ず。一体何に成っちゃったんだろうね。くわばらくわばら」
私はこの企画に対する執着が途切れ、いつしか社内でも語るのが憚かれる物となりました。
触らぬ神に祟り無し。その言葉が脳裏に浮かぶ不思議な出来事でした。
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