第2話 天糞


 その村では飢饉が続いていた。

 日照りにより農作物は枯れ、水は干上がり、人も獣も虫すら今に息絶えるのを待つばかり。

 そんな中、一人の男が根気を振り絞り野畑を這いずり回る。

 しかし雑草すらもその環境では育つ事はなく、砂と見紛う程の干涸びた土を苦し紛れに飲み込んでは吐いていた。

 ある日同じ様に食い物を求めて回る男の目の前へ天から何かが落ちて来る。

 男はそれを拾うと細長く、固く、黒い何かの物体であると分かる。

 思わず口に入れようとした瞬間この世の物とは思えぬ程の悪臭が鼻を突いた。

 糞だ。天から糞が降ってきた。

 男は笑えぬわと怒りのままにそれを投げ捨てる。


 次の日、更に次の日。1週間と同じ様に男の目の前へ糞が落ちた。

 最早空腹も限界の中、いっそのこと無理矢理食ってしまおうか。そう一瞬思ってしまう程追い詰められていた。

 もう駄目だと男はそれに手を伸ばす。

 しかしその糞は柔らかみを帯びて指を包み込んだ。

 その気持ち悪さにまた男は糞を投げ飛ばす。

 このまま尽き果てるのか。そう思って眠りについて、次の日もまた糞が降るが何かが違っていた。

 固形物であったそれは今日に限って形を造らず水便の様な物が地面を叩いた。

 面妖な。と思いつつその日も終える。


 翌日の朝、男は頬を叩く水滴に目が覚める。

 雨だ。そう歓喜しながら村人は総出で落ちる水を啜り始めた。

 しかし男はそれを飲む気にはなれなかった。

 その光景を眺めながら、天も人と変わらぬか、糞を詰まらせるのだな。

 そう笑いながら力果てるのであった。

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