第2話

俺、片羽かたばね たすくはごく一般のサラリーマンとして何でもない毎日をぼんやりと過ごしていた。ただ日常を消化していく、それが明日も、明後日も延々と続いていくはずだった。


「いやここどこ!?」


直前まで俺は帰りの電車に揺られてうつらうつらとしていた筈だ。

それが何故か今は真っ暗闇の空間に一面の星々が飾り付けられた……そう、俺は今宇宙を漂っているのだ。


「こんにちは侑、私は時間の女神。突然連れてきて申し訳ないがどうか、この宇宙を救ってはもらえないだろうか。」


突然目の前にうっすらと笑みを浮かべた巨大な女性が現れる。服を着ていない……というか肉体が宇宙と一体化しているからか彼女と対峙するとあまりの異質さに体がブルリと震えた。

目を瞑り、非現実から逃避する。どうしてこうなったのかと頭をフル回転させると、1つ思い当たる事があった。この展開どこかで見たことがある。そうだweb小説の異世界転移というジャンルだ。


「侑、確かにあなたの考えているような娯楽小説とおおよそ同じであるがこちらはとても切羽詰まっている。なにせ、其方が転移し、魔王を討伐できなければその世界と隣接した12の世界が全て奴により一瞬で消滅する。」


「世界が……消滅?嘘だろ。」


あまりにも現実離れした言葉に脳の処理が追いつかない。まるで、ファンタジー映画の導入を聞いている気分だ。宇宙に漂っている時点で現実感もクソもないが。


「否、現に私はこの目でその瞬間を見たのだ。13の世界が消滅し、守るべきものを失った神々が叫びを上げながら自壊していく。まさに人間の言う地獄というものの体現であった。」


時間の女神は空な目を遠くへ向ける。


「私は、時間の女神だ。だからこそ己が消える前に過去へ飛ぶことが出来た。しかしこのままでは未来に全く同じ事が起こってしまう。」


「それで俺か。でも俺じゃないとだめなのか?しかも魔王討伐なんてこんな普通体型の人間1人じゃ無理だろ。もっと強そうな人いっぱい呼べばいいじゃないか。」


「否、其方1人だ。そもそも魔王と戦うというのは不可能なのだ。奴が覚醒した時点で世界の滅びは確定する。予言の女神が言った、君は魔王が覚醒する前に倒す事ができる唯一の人間なのだと。」


唯一……俺が失敗しても代わりは居ない。それどころかこの宇宙の一部分全てがバッドエンド直行。


「いや、いやいや、責任重すぎだろ!!無理だよ俺本当に一般人だよ?」


「安心しろ、予言の女神に間違いはない。君は必ず成し遂げられる。そして、この13の世界全ての神が君に己の権能の一部を引き渡す。神にも力の差があるから本当に役に立たない能力もあるかもしれないが、皆世界のために君に希望を託したいんだ。どうか受け取ってくれ。」


全ての神……それってチートってことじゃん、しかも魔王が覚醒する前に倒すって案外楽勝なのでは。しかも異世界、適当に生きてるだけで金も地位もハーレムも叶う、幸せが舞い込んでくる、最高じゃないか。


「俺やるよ。魔王の姿を見せてくれ、ちょいちょいって倒してくるわ。」


「それについてだが、ない。」


は、今なんて言った?いや、違う。俺の耳は今とても詰まっていて耳掃除をしなくてはいけない状況なのかもしれない。さっき「ない」と聞こえた気がしたがそれはきっと梨の聞き間違えだろう。魔王の姿は梨……ってそんなわけないんだわ。


「だから、魔王の姿はわからない。人間か、他の種族か、もしかしたら無機物かも知れぬ。とにかくわからない。私も魔力と獣のような叫び声しか観測できず他の女神も君が魔王を倒してくれることまでしか割り出せなかった。」


「じゃあ俺、どうやって、」


「がんばれ」


「えっ」


女神は再びうっすらとした笑みを……いやなんか誤魔化し笑いじゃないかあれ。詳細を問い詰めようとする俺を察してか、《ルビを入力…》彼女はすぐさまパチリと手を叩き俺の意識は途切れた。

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