本編
第8話 200年前
気が付けばアデリーナは石畳の通路の上に立っていた。
見覚えのある通路は第十二区の住宅街中央通り。周りの住民たちは何ともない平穏な生活をおくっている。先ほどまで炎の魔女に襲われていたのは噓のように静か。
アデリーナは身にまとった鎧を解除し、どういう状況か確認するためにラヴァンダ城に向かった。
視界に映る町並みはいつも通りのどやかでどこにも戦いが起きていた痕跡は見当たらない。空も快晴でこの国を守るために城壁に作られた八本の塔も無傷で立っている、まるで『終焉の審判』など起きていないように。
状況を少しでも理解するためにアデリーナは近くの情報掲示板に足を運ぶ。そこに書かれた一つの文字にアデリーナはい思わず後ずさった。
『星歴659年』と書かれている記事、これが正しければアデリーナは魔法によって203年もの時を飛んだ事になる。そうなるならばアデリーナの目標は自然とあの未来を変えることになる。
未来を変えるために自分には何ができるのか、そのことは直ぐには思いつかないが今できることをするんだ。アデリーナはブルーにそう教わった。
「まずはシルビア様の元に向かいましょう」
自分に言い聞かせるアデリーナは速足でラヴァンダ城へ向かう。
遠くにそびえる白と青で彩られた綺麗な城がアデリーナの目に入り込み上げてくるものがあった。この城が未来では壊されこの町がめちゃくちゃに壊される。
自分に何ができるのかもわからない。アデリーナが過去に飛ばされたという状況をシルビア様は理解しているのか、未来に起こりうることを信じてくださるかも分からない。
それでもアデリーナのやることはただ一つだった。
『炎の暁』からこの穏やかで平穏な暮らしを守ること。そして、死んでいなかった諸悪の根源である炎の魔女を倒すこと。
大通りを速足で横切るアデリーナ、監視カメラがその背中を追いかける。そして、もう一つ監視カメラの死角、路地裏からこっそりとアデリーナを追いかける一つの影があった。
暫く道なりに進むとすぐにラベンダーノヨテ聖域国の中央に建つ立派なラヴァンダ城の姿がすぐ目の前にある。先ほどまで跡形もなく消え去っていた住み親しんだ城が今、目の前で立派に建っていることに少なからず込み上げてくるものがあった。
すると丁度正門から女王陛下がいつもの仮面をつけ姿を現した。
アデリーナはすぐに鎧を身に纏い敬礼をするとまっすぐにこちらに来た。
「ブルー。その装備はどうしたの」
シルビアの予想外の間違いに戸惑いながらアデリーナ。
「いえ、女王陛下。私はブルーではなくアデリーナです」
その言葉と同時にジルビアの魔法が慌ただしく揺らめき地面から鋭い氷の刃が飛び出した。咄嗟に後ろに飛ぶアデリーナは兜を外しシルビアに訴えかけた。
「違います!シルビア様どうしたのですか!私はアデリーナです!」
先ほどまでは少し動揺していた女王陛下だったが、現在アデリーナに向けられているものは明らかに殺意だった。身が凍り付くほどの恐怖を肌で感じる。
「どこでその名を」
その言葉に続けて女王陛下が地面強く踏み込むと、太さだけで数十メートルもありそうな氷の蛇が伸びてくる。とても受け止めることもことのできない攻撃にアデリーナはぎりぎりで身をひるがえし回避した。
アデリーナのいた地面は氷の大蛇の口に埋もれている。もし回避が送れていたら一撃で死んでいた。だが攻撃はこれで終わりではなかった。住んでいる住民、建物関係なく大蛇の頭からもう一つの頭が生まれアデリーナに向かって伸びていく。
空中にいたアデリーナに足場はなくどこへも回避できない。
まただ。……また死ぬ。
そう直感した、その時だった。
赤いマントに身を包んだ黒仮面がアデリーナの体を突き飛ばし、かばう様にその氷の大蛇を受け止める。
なぜ、『炎の暁』が自分をかばったのか困惑していると、氷の大蛇が内側から破裂していく。その先に見える女王陛下が頭を押さえ地面に倒れ込んでいた。
見たことないシルビアの姿に戸惑っていると、黒仮面が尻餅をついているアデリーナを見つめていった。
「早く!逃げるわよ!」
状況が理解できていないアデリーナに対し黒仮面は体を抱きかかえその場から飛び去って行く。
「えええええ」
人生で初めて出したかも知れない情けない声を上げながらアデリーナはお姫様抱っこで運ばれていった。
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