第31話 寿司屋の追い打ち
さっさと八神邸を後にする門松を見送った航平達。
彼らは折角なのでと、頂戴した万札を頼みに白いワンボックスカーを呼んだ。
側面に雅寿司と書かれたその車は、玄関付近でハザードランプを灯すと、航平達と同年代の少女が寿司桶を持って降りてくる。
「お待ちどうさまです。
握り特上の5人前お持ちしまし……」
寿司桶と交換にお金を受け取ろうとして、相手が知り合いであることに気付いた少女が固まる。
その様子に、少女の正体に気付いた航平は、クラスメイトの格好に問い掛けようとして、
「え? 植村さん?
もしかしてアルバ……?」
「ち、違うわ!
うちの手伝い! 手伝いだから!」
と、慌てた否定を受ける。
別段、学校としてはアルバイトを禁止していないが、真面目なクラス委員長で通っている
「あ、そうなんだ。
雅寿司とか行ったことなかったから、知らなかったよ」
「ま、まあ、うちはそこそこ高級店で通してますしね。
けど、此処に八神君がいたのには驚きました。
あれ? 八神君の家って……」
「色々あって、暫く此処で暮らすことになったんだ!」
クラス委員長であると、同時に航平の幼馴染みである要扇玲香とも仲の良い悠里。
当然のように、航平についても玲香から情報が回っていたようだった。
「色々?
気にはなりますけど、人様の事情に首を突っ込むのも野暮ですね。
お代を受け取ったらさっさと退散しますね」
ニコリと笑って、詮索を止める様子から、このクラス委員長が男子に人気の理由を悟る。
「助かるよ。
あ、お金はちょっと待ってて」
慌てて、寿司桶持って玄関へ向かう航平。
この家に住んでいることよりも、問題になる爆弾があるのだ。
それとクラスメイトが接触する惨事だけは是が非でも避けたい。
しかし、
「お寿司屋さん。
お代はこちらで宜しいかしら?」
「へ?!」
何故か2人の背後から現れた桃花が、一万円札を数枚差し出したのだ。
航平の視線の先には、門松から預かった万札があるにも関わらず……。
「……えっと、あのぉ?」
「失礼しました。
八神航平の妻で桃花と申します。
聞けば、航平のクラスメイトとのことですから、2学期からは私とも同じ学校の生徒として、仲良くしていただけますでしょうか?」
「え?!」
「ちょ! 北嶽さん?!」
「嫌ですわ、旦那様。
いつもの様に桃花と呼んで……」
相変わらず、飛んでも発言をぶっ放す桃花に、驚く悠里と焦る航平。
更に、航平へ追い打ちを掛けようとした桃花の口が塞がれる。
「はい、そこまで!
すみません、うちの姉がバカ言って。
僕は北嶽勇太郎、こっちは姉の北嶽桃花です。
航平君とは所謂従兄弟の様なものでして、暫く同居することになったんですよ。
このバカ姉は、昔の口約束を本気にしているだけですんで!」
つい最近見た光景である。
と言うか、桃花も江手野も当たり前のように、自分達より道路側に現れないでほしい。
しかし、
「まあ、そんな感じだから、植村さんは気にしないで!
あ、桃花さん! お金持ってきてくれたんだよね!
ありがとう!」
今は桃花の言動を誤魔化す方が優先だと、慌てて江手野少年の言葉に飛び乗る航平。
だが、
「……そんな昔から一途に思ってくれていた娘がいたのに、玲香と一緒にいたんですか?
八神君って……」
代償として、悠里からの好感度が目に見えて下がる羽目となった。
『そんなゴミを見るような目で見ないでほしい。
父さんの無茶振りで出来た偽従兄弟だって言えればなぁ……』
クラスメイトの冷たい視線で更にダメージを受ける航平。
しかし、
「まあ、八神君と玲香がこれから付き合うわけでもないですし、良いんですけどね。
父親が車で待っているので、さよなら」
「あ、うん……。
また2学期に……」
「……」
そんな航平の心中が伝わるはずもなく、悠里はさっさと去っていく。
休み明けに会おうと言う言葉に返事を返すこともなく。
「……ああ!
最悪だよ!
委員長、絶対軽蔑してた!」
去っていく車を見送りながら、頭を抱える航平に対して、
「1年一緒なクラスメイトの1人でしかないですよ?
航平さんには、私が側にいますから!」
能天気に宣う桃花。
そこに場を混乱させた罪悪感は微塵もなく……。
とは言え、暫く同居することになった初対面の相手に、強く言う気も起きない航平は文句の言葉を呑み込むことで抑えるのであった。
……普段、八神家では出てくることもない良い寿司なのに、少しも堪能出来なかった航平。
クラスメイトの不評を買ったショックで、食後につい不貞寝をしてしまった彼は、その結果、更なる厄介事に巻き込まれるのであった。
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