第12話 会社でフルダイブゲームをする仕事?

「義姉さん!

 待っていました!

 ……航平くんも一緒なのは?」


 強制的に下の階へ連れてこられた航平を待っていたのは、気の弱そうな男性。

 航平も良く知る親戚の叔父さんである。

 彼は満面の笑みで真幸を迎え入れる。

 しかし、ついでのように同行していた航平に疑問を持つ。


「今まで羽黒に関わる内容は避けてきたでしょ?

 当然、霊力についても教えていないから……」

「……確かに」

「だから、霊力の使い方を実戦で教えてあげようと……」

「待った待った待った!

 そんなの無茶苦茶だよ!」


 それに対する真幸の回答に納得仕掛けて、慌てて止める雅文。

 叔父の慌てぶりから、航平の嫌な予感も跳ね上がるが、


「大丈夫よ。

 ちょっと異世界で大神殿とかを壊してくるだけでしょ?

 それにアバター経由だから、殺されても少し驚くくらい……」

「じゃないよ!!」


 のほほんとした真幸の言葉を大声で打った切る雅文。

 何せ、


「同じような感じで、交際直後の僕は美幸さんに異世界へ連れていかれて、しばらく鬱に悩まされたんだよ?

 甥っ子をそんな目に遇わせられない!」


 涙目で訴える雅文の様子に、航平の危機感は既にマックス。

 しかし、真幸は変わらず、


「あれは雅文くんが一般家系出身の突然変異だから、荒療治が必要だったからよ?

 それに、現代科学では鬱診断だったかもしれないけど、実際は霊力を扱う頭に脳が作り替わっただけだったでしょ?」

「いや、運良く軽く治まっただけだと、今でも思っている」

「……もう!」


『いや、そんな分からず屋ねみたいな顔していても、絶対、叔父さんの方が正しいと思うよ!』


 肩を竦める母に内心で、突っ込みを入れる航平。


「私達が小さい頃は、そこそこレベルの妖魔の棲み家に放り込まれて、文字通り、死にたくなければ戦えだったのよ?

 それに比べたら、死の危険がないだけ数倍マシだと思うわよ?」


『あ、これ、母さんの家が修羅なんだ。

 羽黒の婆ちゃんとか優しそうだけどな……』


 今まで知らなかった母の側面に、現実逃避気味の航平。

 どう考えても、叔父を応援すべきだと判断する。


「母さん、今回は見学ってわけにはいかない?

 準備不足なんだろ?」

「航ちゃんまで急に……」


『いや、有無を言わさず連れてこられただけだから!

 直前で息子に裏切られた母になられても……』


「どちらにしろ、初期調整のアバターしかないから、航平くんの出撃は部長として認めない。

 観測ドローンで真幸さんの様子を観るに留めて貰うよ」


 きっちりと役職を持ち出して拒否をする雅文叔父に、安堵する航平。

 ただ、


「せっかく、航ちゃんとファンタジー世界のピクニックが出来ると思ったのに……」


 息子との外出を潰された母親だけが、膨れっ面でぼやいていた。


『そんな物騒なピクニックはお断りだよ!』


 息子の方は全力で拒否したがっているし、


「あれをピクニック呼ばわり出来るのは義姉さんくらいだよ……」


 と義弟は呆れた顔でぼやくのみである。


「さて、航平くんは僕とモニタールームに移動しよう。

 真幸義姉さんは、コネクトルームへ移動してください。

 アバターは、直ぐに用意します」

「分かったわ。

 じゃあ航ちゃん、お母さんの活躍を楽しみにしていてね!」


 ウインク1つして去っていく真幸。

 彼女に気負いの気配はない。


「……航平くんも災難だったな。

 真幸さんは、いわゆる自覚のない天才なんだそうだ。

 霊力の量も多いし、手足のように自在に使いこなすけど、それが当たり前だと思っているから質が悪い。

 本当に、斗真義兄さんに止めてほしい所だが、あの人はあの人で、義姉さんがスタンダードだと思っているからな……」


 窓際の部屋へ入室していく所を確認した、叔父に肩を叩かれて慰められる。

 しかし、


「まあ、そんな人だからモニター越しに観ている分には、爽快だぞ!

 ……慣れれば」


 叔父は叔父で、不吉な一言を付け加えてくる。

 この時点で航平には、もう嫌な予感しかしない。


「さ、こっちだ」


 真幸の入った部屋の向かいにある部屋へ案内された航平。

 そこは、入り口以外の三方に大型スクリーンが設置された映画館のような部屋になっていたのだった。


「「「部長!」」」

「良いよ。

 そのまま座っていて。

 これから、我が社のエースが登場するから、良く観ていてほしい」


 入室者に気付いた先客が立ち上がるのを止めて、画面に集中するように促す雅文だが、呼び掛けてきた声が気になる航平。


『女の子の声だったよな?

 しかも、同世代?

 ……ちょっとワクワクしてきた!』


 気もそぞろな航平は、その様子に気付いている雅文の気の毒そうな視線に気付くことはなかったのだった。

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