第7話小さな花火

嫌な事を忘れて久しぶりの温泉を1人で楽しんだアクトは、頭に乗せていたタオルを取ると、サウナが無かったことを少し残念に思いながら、何故やるのか理由は分からないが、昔から温泉を入った後はタオルを身体中に叩きつけて、最後に自分の股間部分タオルで叩き、そのまま鼻歌混じりに温泉を後にした。


温泉から上がると何故だか知らないが出口にユウリが立っており、温泉効果で忘れていたやらかしを思い出して、気まずくなりアクトは黙りこくってしまった。

それから5分程2人は無言のまま温泉の出入口の前で立ち尽くしていると、意を決したようにユウリは話し始めた。


「あ、あの!アクト様は、空に咲く炎の花をご存知ですか?」

「……炎の花?花火の事か?」

「花火?」

「あ、ああ花火って言うのは詳しくは知らないけど、色の付いた火薬を爆発させるとそれが花の形に見えるってやつかな?多分だけどな、俺も花火は見た事あるけどそんな詳しく無いから」


何で今花火?とは思いながらも、この気まずい空気に耐えられないアクトは、何となく覚えている合っているかも分からないが、それっぽい説明を焦りながらもなんとか話した。


するとこれまたどうしてかわからないが、ユウリはこちらを目を輝かせながら見て来た。


「え?な、何?」

「アクト様はそれをどこで!」

「花火の事?何処……どこって言われてもなー」


え?本当に何?

どこで知ったって、日本って言っても絶対伝わんないよな……


「えーっと確か、昔父上の書斎の本で見た様な気がする様な気もするな〜」

「そうですが……」


残念な事にこの回答はユウリにはお気に召さなかった様で、少し落ち込んだ様な声でそう答えた。


と言うか花火の話題が上がった頃にちょうど思い出したんだが、確かなんのイベントかは覚えてないけどヘン学で、ユウリと主人公のカイが一緒に打ち上げ花火上を見るシチュあったよね?

今も急に花火について聞いて来たし、ユウリって花火の事好きなのか?


「なぁユウリさんって花火好きなのか?」

「え?」

「いや急に花火について聞いて来たから、てっきり好きなのかなって……違った?」

「それは……」


そうして再度黙りこくってしまったユウリに、俺は今俺にある全魔力を人差し指に込めた。


「え、えっと、ユウリさんちょっと見てもらえるかな?」

「はい?」

「いくぞぉ!はぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


そしてその掛け声と共に人差し指から小さな光の球を作り出し、その光の球を空中へと打ち上げると、その光の球を空中で弾けさせた。


「はい、打ち上げ花…火………」


そうへラリと笑うと、魔力切れで俺はそのまま意識を失った。


そして次に目を覚ますとそこは、エインズワース家の屋敷ではなく、ホワイト家の中にある医務室のベッドの上だった。


「あれ?確か俺、エインズワース家に行ってた様な……」


そう言いながら周りを見渡すと、何故かよくわからないが、少し服が乱れたシャーロットが俺の腕にホールドしながら、ベッドの中で寝息を立てながら眠っていた。


俺がそんなこんなで困惑していると、医務室の扉が開きそこから母上が部屋の中に入って来た。


「は、母上!あの俺に何があったんですか?確かエインズワース家に1週間行っていた筈なんですけど」

「それは……」


何かを言い淀む母上の姿を見て、俺は自分がやらかした事を理解した。


「あの、もしかして婚約破棄とか無いですよね?」

「…………」


流石にそこまでの事をした覚えは無いが、やたらめったらユウリの地雷を踏み抜いた記憶はある為、もしかしたらと思い母上に聞いてみたらなーんとビックリ!

黙っちゃいました!

oh my god!


まさかの婚約が決まった翌日に婚約破棄されたとなると、本格的に俺家を追い出されるのでは?なんて考えると頭痛がして来て俺は頭を抱えて俯いた。


そんな落ち込んでいるアクトの様子を見た母上は、クスクスと少し笑い始めた。


「フフフ、アクト大丈夫よ。向こうもうちの家系が総魔力量が少なくて、よく魔力切れで倒れることも知ってるから別に怒ってないわよ。まぁ流石に目の前でいきなり倒れちゃったから、怖くなってユウリちゃんが泣いちゃったらしいから、今度会った時にでも謝っとくのよ」

「あ、うん」


何とかギリギリの所で婚約破棄を免れた様だが、結局のところ俺がユウリの地雷を踏み抜きまくった事には違いない。


いや〜今後の婚約関係本当どうすっかな…………

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