障子の向こう
これは、私自身が体験したお話です。
実際の出来事をそのまま書いているので、意味が分からない事や不必要な内容が含まれますがご了承下さい。
私が通信商材の訪問営業をしていた頃、田舎にあるお客様宅へ訪問する事になりました。
当時の私の仕事は、加入問合せ頂いたお客様のお家までお伺いする業務でしたので、様々なお宅へお邪魔しました。
私の担当する地域は田舎で、築年数が古く趣のあるお家が多かったのですが、今回の訪問先は珍しく新築のお家でした。
インターホンを押すと、男性の声で「裏手に回って欲しい」と言われました。
奥様が対応されると引き継いでいたので、てっきり奥様が出られるかと思っていたのですが、特に気にせず建物の裏手へと回りました。
すると、裏手にはもう一軒家があり、そちらは新築とは違い、瓦屋根の築五十年は経っているであろうお家でした。
玄関には、五十代ぐらいの男性と高齢のおばあさん、二十代の娘さんの三人が出迎えてくれました。
男性が今回のご契約者様のようで、居間に通された私は商材の説明を始めました。
居間で私が説明していると、左の縁側から鳥の鳴き声が聞こえてきました。
ふと、そちらを見ると娘さんがスマートフォンから鳥の鳴き声を流していました。
なぜ? という疑問が脳裏を過りましたが、特に意味は無いと思い説明を続けました。
説明が終わり、「印鑑を取って来ます」と言ってお父さんが席を外された時、左を見ると娘さんがニタァと笑いながら私の方を見ていました。
少し怖くなった私は、反対側に顔を向けました。
右手は障子を隔てて台所になっていました。
台所と居間を隔てる障子は少し開いていました。
私がお伺いしたのは、朝の十時でしたので当然台所の電気は付いていないのですが、方角の関係か日が差し込まず台所は薄暗かった事を覚えています。
そんな薄暗い台所で、髪の長い女性が私に背を向けるような形で正座をしていたのです。
商談中は右側から人の気配など無かったものですから、直接目の当たりにするまでは彼女の存在に気が付きませんでした。
一体誰で、何故明りも付いていない台所で正座をしているのだろう?
そんな疑問を感じたのですが、娘さんといい少し変わった人が多い家庭なのかな? とあまり気にする事はしませんでした。
その後、印鑑を持ってきたお父さんに書類を記入して頂き、私は帰りました。
その帰り道、ふと障子の向こう側で正座していた女性について考えたのですが、彼女が本来対応する予定だった奥様だったのでは無いだろうか?
高齢であるお婆さんでさえ、出迎えと見送りに玄関まで顔を出してくれたにも関わらず、彼女は何故台所で一人正座をしていたのだろう?
考えても私に答えは分かりませんが、もしかしたら、私以外に彼女の姿が見えていなかった。のかもしれませんね。
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