ふりかえるな
これは、私の知人Yさんから聞いた話だ。
Yさんは大学生時代、大阪に住んでいた。
夏のとある日、Yさんは学友5人と一緒に肝試しに誘われた。
肝試しの場所として、学友が誘ったのは兵庫県にあるトンネルだった。
どうも、そのトンネルは心霊スポットとして有名なトンネルらしく、あまり心霊など信じていなかったYさんは軽い気持ちで参加する事にしたそうだ。
肝試し当日、Yさん達は二台の車でトンネルを通過する事にした。
そのトンネルにまつわる話としては、絶対に振り返ってはいけないと言われている。
トンネルを通っている時よりも、トンネルを出た後に振り返るとトンネルの出口に四肢のどこかを欠損した人が立っているのだとか。
トンネル内は軽自動車一台がギリギリ通れる程狭く、2台の車のうちYさんは後方の車の後部座席に乗っていた。
照明も無いトンネル内部を車のヘッドライトのみで走行する途中、Yさんと同乗していた学友達は口々に怖がり、身を寄せ合っていたが、Yさんはあまり怖いと感じなかったそうだ。
やがて、トンネルを抜けて学友達は口々に「怖かったね」「もう二度と来たくない」と話し合い、誰も意図的に後方に遠ざかっていくトンネルを見ようとしなかったそうだ。
しかし、肝試しにしてはトンネルを通過するだけでは物足りないと感じたYさんは怖いもの見たさが勝ってしまい、ついつい後部座席から後方のトンネルを見てしまったらしい。
振り返ったのだが、トンネルの前には何も居ない。
拍子抜けしたYさんは、その後学友達と別れ帰宅する事にした。
帰宅後、友人のAさんからメールが来た。
Aさんは、Yさんが乗っていた車の前を走る車に乗っていたそうで、Aさんの車に乗っていた三人も悲鳴を上げる程怖がっていたという内容だった。
そんなAさんに、Yさんはついつい『トンネル出た後に振り返ったけど、誰も居なかったよ』と送ってしまった。
AさんはYさんの行動に驚き、Yさんが何かに憑りつかれていないか心配したが、正直YさんはそんなAさんの反応を大袈裟だな、と感じた。
その日の晩、就寝しようとしたYさんは深夜に目が覚めて体の異変に気が付いた。
動かないのだ。指の一本すら動かないのに、意識は覚醒してしまった。
奇妙な感覚に不安を感じたYさんは、とにかく眠ろうと必死に目を瞑って朝を待った。
いつの間にか、朝を迎えたYさんの体の異変は更に酷いものと変わっていた。
強い吐き気に眩暈、喉も乾ききっており、掠れた声しか出ない。頭もぼーっとして、意識も混濁している。
這い出るように、なんとか布団から出たYさんは自分が病気になった事を悟った。
同居している母親に体の不調を訴えると、明らかにただの風邪などではなく、深刻な体調不良だと感じた母親はYさんを近所の病院にすぐ連れて行ってくれた。
43℃を超える高熱、近所の病院の医師は「原因が分からないので、大きな病院へ行って下さい」と言い、病院を紹介してくれた。
紹介された病院でも、結局Yさんの病気の原因が分からず、しかし高熱が続く状態は非常に危険な為、Yさんは入院する事になった。
体調が回復しないまま、Yさんの入院生活は続いた。
入院中、Yさんの体調不良を知ったAさんからメールが届いた。
メールの内容はYさんの体調を心配する言葉と、明日お見舞いに来てくれるという内容だった。
高熱が下がらず、体調こそ悪かったがなんとか会話が出来るまで回復していたYさん。
Yさんのお見舞いに来たAさんは、厄除けのお守りを持ってきてくれた。
心霊現象をあまり信じていないYさんからすれば、Aさんの持ってきた物はあまり嬉しい物では無かったが、京都の厄除けで有名なお寺まで行って、わざわざ買って来たと言うAさんから受け取らない訳にもいかなかった。
しかし、AさんはYさんと違い、Yさんの体調不良はあのトンネルに行ったせいだと思っているようだ。
Yさんは言った。
「お医者さんは、大袈裟に原因不明って言ってるけど、ただの熱だよ。だって、一緒に行った人はみんな元気なんでしょ?」
Yさんの言葉にAさんは、言いにくそうに答えた。
「そうだよ。でも、Yだけだったんだよ……」
「なにが?」
「トンネルを出た後に、振り返ったのはYだけだったんだよ」
「でも、何も居なかったって」
「それでも、私は心配だから……早く元気になってね」
そう言って、AさんはYさんの病室を出て行った。
その日の晩、Yさんは奇妙な夢を見た。
Yさんの病室に、白髪交じり初老の男性が入って来る夢。
Yさんの病室はYさんしか利用者がおらず、他の患者の面会などあり得ない。そもそも、消灯時間などとっくに過ぎている深夜に入って来た老人にYさんは純粋な恐怖を感じた。
白髪交じりの男性は左足を失っており、松葉づえをついていた為、もしかしたら自分の病室と間違えたのかもしれないと考えたが、無表情で何かを探す男性はとても間違えて入った様子では無かった。
Yさんはその男性が良くない者だと直感して、Aさんが持ってきてくれた厄除けのお守りを握りしめた。
目部下に掛け布団を被り、息を殺して男性が去るのを待つYさんの願いとは裏腹に男性は少しずつYさんのベッドに近づいてくると、Yさんと目が合った途端ニタァと笑った。
Yさんは潰れる程強い力でお守り握りしめ、必死に祈った。
すると、男性は表情を豹変させ、恨みの籠った目でYさんを睨みけると、何かをぶつぶつ呟きながら病室を出て行った。
それから、日が昇るまでYさんは一睡も出来なかったと言う。
しかし、その出来事をきっかけにYさんの高熱は徐々に下がっていき、無事に退院する事が出来た。
この一件以来、Yさんは謎の高熱等に襲われる事なく健康に過ごしているそうだが、心霊スポットには絶対に近づかないようにしていると語った。
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