神の手違いで転生したら転性した~妹は姉に、幼馴染や両親からは天使に、友達からは姫に~

アユム

第1話 俺の人生が色んな意味で変わった日

 なんてことない俺の平凡な日常は一つの超常現象によって人生が180度変わってしまった。




「あきちゃーん、そろそろ起きなよー」


 遮光カーテンの隙間からチラチラと朝日が俺の顔を照らし、妹が学校の制服であるブレザー姿で元気よく扉を開けた。


「……なんだよぉ」

「もう朝なんだから、起きなよ? そろそろ学校にも行かなきゃなんだしさ?」


 散乱した床上の物を踏まない様に器用に歩き、高校デビューかほんの少し赤っぽい長い黒髪を後ろで一つに結わえたポニーテールが元気よく尻尾を振っている。


「何言ってんっだお前。俺はもう一度卒業してんだからいいんだよ」

「えー」

「というか、あきちゃんって呼ぶな」


 俺はクタクタな掛け布団にくるまりながらムクリと起き上がった。


「だって、今はお兄ちゃんじゃないでしょ?」


 扉から家の電気が眩しく俺の部屋に差し込みつつも、妹は俺のベッドに腰掛けた。

 それに俺はジト目を向ける。


「……」

「そんな可愛い顔してもダメだよ!」


 妹は人差し指で俺の頬を突いてきた。

 はっきり言うが、俺は妹とはこんな関係ではなかった。

 別に特別仲が悪かったわけじゃないが、笑顔を向けられることはあっても抱きつかれるなんてではなかった。

 というか、俺が知ってる妹だった時の妹の姿も今とは全く違うのだ。




 佐竹秋斗(さたけあきと)、23歳。

 癖っ毛で肩にはつかないくらいの手入れのされていない長めの髪型、身長は180は無いくらい。

 垂れ目で覇気のない瞳、無精髭を生やす所謂就活失敗者。

 それが俺だった。


 家から近くの普通の大学をそれなりの成績で卒業し就職したはいいものの職場に馴染めず退職。

 心が疲れて人とは極力会わない生活を実家でする様になってしまっていた。

 両親に歳がかなり離れている6歳の妹、愛犬のウミの4人家族に一匹という家族構成だったが、仲は悪くはなかったと思う。




 俺はベッドから立ち上がり妹に手を引かれながら洗面台へと連れて行かれた。

 妹が水道のレバーを上げるとシャワー状にお湯が流れ出る。


「顔洗ってね。ご飯できてるんだから」

「……あのなぁ、俺は――」

「分かってるって。お兄ちゃんでしょ。お・に・い・ちゃ・ん。先リビング行ってるからね」


 妹は悪戯な笑顔を俺に飛ばしてから洗面台から離れた。

 湯気が立ち上るシャワーに両手を皿状にして突き出し、お湯を顔にかけた。


「ふぅ……」


 タオルを手に取り顔を拭きながら俺は鏡に映る自分の姿を眠たげな目で見る。


「俺の面影、皆無だわ」


 ボサボサではあるものの、長く綺麗な銀髪につるつるピチピチな肌。

 長い白のまつ毛に囲まれる綺麗で無垢な瞳に真っ白な肌。

 身長は俺の最高身長より50センチ以上は小さいのではないか?

 両親どころか日本人ですらないんじゃないかと思ってしまうレベルでの容姿。

 そこに映るのは、俗に言う美少女と言うやつだった。


「まぁ、一度死んでるもんなぁ」


 俺はもう一度お湯を顔に叩き上げ洗面台から離れた。









 前の俺は急性の心臓発作で死んだのだ。

 それも自称高次元生命体の手違いとか、なんとか。

 運命課という部署の“人”の様な、違う様なそんな存在によって、俺はミスで殺されたってわけである。


『すみませんすみません』


 男とも女とも捉えられる中性的な存在。

 言葉では形容できないそれはそれは美しい存在。

 存在それは平謝りであった。

 よくある流れで俺の脳裏には異世界転生がよぎる。

 俺はお約束の問言を目の前の存在にぶつける。


「俺は、生き返れるんですか?」

『そ、それはもちろんです』


 あー、やっぱそういう展開か。

 実感湧かないまま、俺は異世界転を覚悟しながら言葉をつづけようとすると、その存在は先に口を開けた。


『身体はもう消滅してしまっているので再構築するとして、あの。申し訳難いのですが秋斗さんが想像している様な異世界? ではないですよ』

「えっ……」

『それと母体――ではなくてお母君や秋斗さんのご家族にも夢を通じてその旨を伝えております故、再び妊娠から出産を経て秋斗さんが転生します』


 えっ―――…


「は? えっ?」

『この度は誠にすみませんでした。あなたの来世に幸あれ』

 

 ほうけている俺に有無を言わせない勢いがあった。

 急に足元に底なしの落とし穴が創造されるや否や俺はそこに落ちた。




          ※




 秋斗が急死した日の夜。

 私達家族は不思議な夢を見た。

 私が来るのが最後だったのか、お父さんとまだ幼い娘の氷彗(ひすい)、そしてこの世のものとは思えない美しい存在……あれは神?っぽい何かが真っ白の空間にぽつんと置かれているダイニングテーブルに座していた。


『皆さん揃いましたね』


 夢だとわかっていても確認せざるにはいれず、私は口を開いた。


「ここは、どこなんですか?」


 秋斗が急死したタイミングで、まだ心の整理がついていないこの瞬間にこんな夢を見るということは神様か何かがもう一度だけ秋斗に会わせてくれるんじゃないか? と思わずにはいられなかった。


『まず、皆様に謝罪をしなくてはいけません』


 神のような見知らぬ存在は頭を下げると、申し訳なさそうに私たち家族の顔を見た。


『もう、ある程度予想がついているかもしれませんが、秋斗さんの死は私たちが招いたミスによって運命が執行されてしまいました』

「どういうことなんだ」


 お父さんが眉を顰めながら呟く。


「じゃあ、秋斗は? 本当に死んじゃったんですか?」


 まだ整理がついていないのに、再び秋斗の死を口にした神様の言葉に私の頬を一筋の涙が濡らした。


『申し訳ありません』

「……ごめんで済む話じゃないだろ!」


 お父さんは涙を流しながら机を叩いた。

 まだ、状況がよくわかっていない氷彗は私の顔を覗き込んできた。


「にぃに、死んじゃったの?」


 娘の瞳には今にも溢れそうな涙が震えるように溜まっていた。


『ご家族様のお気持ちはもっともでございます』


 神はまだ言葉を続けていた。

 神にとってはただのミスかもしれないが、私たちにとってはかけがえのない息子であり家族である。


「秋斗には、秋斗には今会えるんですか?」

『今すぐというわけには……』


 私の涙腺が再び決壊する。

 それを見かねてお父さんは口を開いた。


「どう責任を取るつもりなんだ。秋斗は私たちの大事な家族なんだ。返してくれるんだろうな?」


 怒気の孕むその声音に氷彗も涙を流し始めた。

 それは怖いというより、私たちの悲しみが通じたからだろう。

 そんな状況で神は一つ提案を持ち出した。


『お詫びという訳ではないのですが、皆様は転生という言葉はご存知ですか』


 神のその言葉に私に一瞬だけ淡い期待がよぎる。

 そしてその期待に応えるかのように神は言葉を続けた。


『秋斗さんの体は現世にて役割を止めてしまったため、今すぐに皆様の前にお連れすることはできないのですが、転生という形で皆様のもとにお返し、お連れすることは可能です』


 ――と。

 

 

 

 






       

       

 目が覚めると俺の目の前にはロウソクが1つだけ刺さっている苺のショートケーキが置いてあった。

 今起きたというよりは、今この瞬間に前世の俺が目覚めたという感じだろうか。


「秋ちゃん、一歳のお誕生日おめでとう」


 それは聞き覚えのある、というかまごうことなき母親の声だった。

 っていうか、あきちゃんってなんだ。


「これ、これどういうじょーきょー?」

「「おかえり!」」

「えっ、た、ただいま?」


 マジでどういう状況だこれ。

 父親に関しては口を手で覆って男泣きしている状態だし。

 涙を浮かべる両親にやけに大きく見える妹。

 転生は成功ってことでいいんだろうけど。


「秋ちゃん。これが今のあなたよ」


 そういうと一つの手鏡を渡された。

 そこには可愛らしいお人形のような赤子がいた。


「こ、これ……だれ」


 顔が青ざめていくのがわかる。

 まさかというか、信じたくないのだがまさか、まさか。


「あきにぃだよ!」


 ニコニコな妹が後ろから肩を掴んで教えた。


「まじか」

「まじまじ」


 妹は両手でピースサインを作っては満面の笑みで返答する。

 こうして俺は転生して転性した。

 



 一通りのお誕生日会というか、夕食を食べ終え俺は色々説明された。

 神に夢であって転生させてもらえること。

 これは聞いてたからまぁいい。

 で、問題の容姿についてだが転生処理の際魂に神の手が加わってしまっているからその影響で両親には全く似ていないとのことだ。

 性別はランダム。

 なんだそれって感じだが、現実は小説より奇なり。

 もう割り切るしかなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る