のっぽだって恋をする
いとうみこと
第1話
「ねえ、ママ、また身長伸びてるよぉ」
「そんなに嫌なら測らなきゃいいじゃないの」
朝食のパンにジャムを塗りながら、母の
「だって、今日身体測定があるんだもん。その前に知っておきたいじゃん」
「学校に行くまでに縮むといいわねえ。そんなことよりさっさと食べちゃいなさい」
「ママの意地悪っ!」
「ち〜さ〜」
外から知沙の名前を呼ぶ声が聞こえた。幼なじみの
「おはよー」
今朝も笑顔が可愛い優花は幼稚園からの友だちだ。控え目だが芯が強くて頼りになる、いちばんの親友と言っていい。ただ、優花は女子の中でも小柄な方で、一緒にいると知沙がますます大きく見えるのが少し嫌だった。
「今日身体測定じゃん? さっき測ったらまた伸びてたんだよ」
「わたしは体重の方が心配だよ〜」
優花は少しぽっちゃりしている。ガリガリの知沙から見ると、丸くてちっちゃくて、まるでハムスターみたいで可愛くて仕方ないのだが、本人はそれが苦痛らしい。
「優花はそれくらいがちょうどいいよ」
「スタイル抜群の知沙に言われたくな〜い」
その時、追い抜きざまに「おはよー」と声をかけて行く男子がいた。顔を見なくても
「遼太くん、最近急に背が伸びたよね」
確かに小学生の頃はずっと見下ろす感じだったのが、最近ではその差が随分縮まった気がする。それはそれで何だか面白くない気がして、知沙は「中身は全然成長してないけどねえ」と言って優花を笑わせた。
その日は朝から全校集会があった。一年一組の知沙の場所からは全校生徒がよく見渡せる。三年の男子でも一七〇センチ近い知沙より大きい生徒はそう多くない。そんな中、ひと際目を引く男子がいる。バスケ部部長の
しかし、どう頑張っても手の届く存在ではないことは自覚している。知沙が背の高さを活かしてバスケ部に入れば話をする機会もあっただろうし、実際女子バスケ部からの誘いがあったのだが、生憎と球技はさっぱりで断らざるを得なかった。そのためこうしてたまに見られる機会を心待ちにしている。それは知沙に限ったことではなく、恐らく女子生徒の半数以上が同じ気持ちだろう。
教室へ戻っても女子の興奮は収まらず、教室のあちこちから蒼佑を賞賛する声が聞こえてきていた。知沙もまたひとり余韻に浸っていたのだが、それを邪魔するかのように隣の席の遼太が言った。
「どいつもこいつも『蒼佑先輩、蒼佑先輩』って、他にもいい男はいるだろうに」
羨ましいのか妬ましいのか、それとも単なる意見なのか……知沙は遼太の顔をまじまじと見つめて言った。
「例えば遼太とか?」
「ち、違うよっ」
冗談のつもりだったのに日に焼けた遼太の顔が見る間に赤くなり、知沙は少し可笑しくなった。
「遼太もそれなりにいい男だよ」
「なんだよそれなりって。こう見えてもこの間……」
遼太がハッとして口をつぐんだ。
「何? この間何かあったの?」
「なんでもない」
「何よ、言いなさいよ」
この後遼太は、どれだけ知沙が問いただしても頑として口を割らなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます