ロットン曼珠 ~めっちゃ嫌いだった腐女子と最終的にハグするに至った話~

 えーと、『腐女子』という文言につられて来た方には申し訳ありませんが、腐女子要素は全然無いことを最初に言わせていただきます。あくまで嫌いだった子がたまたま腐女子だっただけで、腐女子自体は嫌いだったり憎悪を抱いていたりとかはしていないです。というか仲良い女子に腐女子何人かいますしね。

 本題に移りましょう。中学の頃、めっちゃ嫌いだった子がいました。その子は頻繁にウザ絡みしてくる女子でしてね。

 確か、最初の出会いは中1の頃ですかね。小学校の友人が「曼珠ちゃんボカロ好きだよー」的なことをその子に言ったらしく(ちなみに、前回話したオタクでありながら自分のことをいじってきた奴です)、それで「ボカロ好きなのー?」って聞いてきたのです。

 その時は「うわ何か来た」程度だったんですよ。知らない人だからビビりはすれど、不快感とかは特に感じませんでした。

 ただ、それ以降が問題でしてね。その子は吹奏楽部だったんですけど、一緒に帰っている面子(男)の中に吹奏楽部の子がいる時があったんですよ。他にも吹奏楽部の女子がセットになってね。その時にその子がぐいぐい来て、あれやこれやと話しかけてきて、自分のストレスはえぐいことになったんですよ。いや確か吹奏楽部の子がいない時も来たかな?

 粟沿曼珠という生き物にはちょっと特殊な生態がありましてね。いやまあ他の人も普通にそうかもしれませんが。自分、例え一番の大親友であっても、自分への接触が過剰になると一定期間その子のことがガチで嫌いになるんですよ。内心「テメーぶち殺すぞ!」レベルの苛立ちがもうこれでもかって程湧き出ましてね。で、そこまで仲良くない相手だと、当然そのレベルも高くなってくるじゃないですか。

 学校の中ではウザ絡みされ、家に帰れると思ったら下校中も付きまとわれ、それが2年も続き——もう、曼珠ちゃんの怒りは有頂天でした。

 曼珠ちゃん、多分後にも先にもあれが一番キレた時だと思います。何かの行事ができなくなって泣いているのを見て「ざまぁみやがれスッとしたぜぇぇェェ————————ッッッ!!!」って思いましたし、コンパスを持って寄ってきたらそれぶっ刺して迎撃しようとしましたし(正直この時の記憶は曖昧なんですけど、コンパスを持って迎撃しようとしたのは確実。記憶が正しければ実際に刺しました。流石にやり過ぎたと反省しております)。人に暴力を振るおうとして凶器を準備したのはこれが初めてですかね。

 で、そんなその子だったんですけど——最悪なことに、3年で同じクラスになりました。

 各年ごとのクラス替えって、普通ウキウキルンルンな気分で見るものじゃないですか。自分もそれだったんですよ。「自分どのクラスかなー? 今年は仲良い奴どんくらいいるかなー?」ってね。で、その子の名前と曼珠ちゃんの名前は名前の順で近かったんですけど——後はもう察せられるでしょう。

「お、自分の名前があっ——ぎゃぁァ————————ッッッ!!!???」

 って内心なりました。もう表情が一瞬にして絶望に染まりましたよ。あんな女と一年間一緒のクラスで過ごさなアカンのか、と。

 とはいえいち生徒の力ではクラスを変えることなどできず、自分はその運命を受け入れるしかありませんでした。しぶしぶ学校に行きましたよそりゃもう。

 ——行ったんですけど、何ともありませんでした。

 というのも、前回言ったように中2の時点でいじりとかを軽く流せるようになりまして、いかにぐいぐい来ようがどうでもよくなりました。それに加えてそもそもその子が来る機会がむしろ減りました。曼珠ちゃんとクラスメイトでカップリングの妄想をされようが、体を触られようが、オナニーしているか聞かれようが、ちんこを触られようが(いや、俺は触られてなかったか?)、自分はテキトーに流しました。

 それもあってか、関係が改善しました。普通に会話したり、オタク系の話で盛り上がったり、お互いをいじったりするくらいには。まあそもそも女子とあんま交流しない人間なんですけど、女子で一番仲良い奴誰だ、と聞かれたらその子と答えるくらいには仲良かったです。それと数少ない手を出せる相手ですね。勿論全力ではありませんが。

 一番良い思い出は、アレですね。給食運んでいる時に、『Yes!プリキュア5』のオープニングを一緒に歌ったことですね。その子と共通している趣味がプリキュアでしたので。

 うちの学校——まあどこの学校にもあったでしょうが——合唱コンクールがあったんですよ。それで自分とその子がソロパートを担当することになりまして、流石に二人きりではありませんでしたが(その時もあったような気がしますが)、それも良い思い出でした。あの時優勝できたのは、俺とその子のお陰と言っても過言では無い、とは別の友人の弁でしたし、僕もそう思います(自画自賛)。

 でまあ色々話したりいじったりして——そうしているうちに卒業式を迎えました。まあ普通に卒業式をし、色々話し、そしてその後に打ち上げでお好み焼きをクラスの皆で食いに行きました。

 それで、スクールカースト上位層の子達は夜遅いのに近くの低い山に登ろうぜとか言っていたので、自分と一部の女子はその人らとは別れ、帰宅。で、駅の近くで親を待っていたんですよ。そして来て、その子を家に送る、そうなった時に突然言われました。

「ハグしよ?」

 まあ一言一句覚えている訳ではありませんが、そんな感じのことを言われて、流石に混乱しましたよ。曼珠ちゃんとその子は別に恋愛関係にあった訳でもありませんし、そもそもその子は同じ劇団に所属している子と付き合っていましたし、親と友人目の前にいましたし。

 そんな訳で当然自分は拒否します。でもその子はまるでかつてウザ絡みしてきた時みたいに食い下がり、そのやり取りが何分か続き——最終的には自分が折れました。というのも「握手で妥協しよう」ってなって、「まあそれならええか……」と思ったからです(正直握手だったかは微妙なんですけど、これが一番可能性高かったので、握手説でいきます。妥協したのは確実です)。

 そんな訳でお互いに手を差し出し、握り——

 抱きつかれました。突然抱きつかれてびくっとなり、そしてほんの一瞬だけ自分の体は動かなくなりました。恥ずかしさと諦めの感情、どうでもよさが同時に湧き、自分も手をその子の後ろに回して抱きました。

「めっちゃ嫌いだったのに、ここまでなるのって凄くない?」

 といった感じのことをその子が言いました。

 ——いやこの状況に持ってったのはお前だけど——まあ、確かに凄いとは思う。

 実際、「親の仇ィッ!」ばりに憎んでいた相手でしたが、関係が改善されてここまでいったのは、我ながら凄いことだと思います。

 そしてその子を家まで送り、帰宅。多分自分は女性を抱くなんて後にも先にも無いでしょうから、良い機会でした。


 とまあ、こんな感じのことが中学の頃にありました。恋愛だったり、『ハグ』=『セックス』だったりを想像した方は、内容がそんなもんでも無くて申し訳ありません。自分のスペック的に恋愛は無理ですし、そもそも恋愛する気がそこまで無いですし、自分の性格的には無理だと理解しているので。

 本当に良い思い出でしたよ。まさかあんなに嫌いだった子とここまで仲良くなれたとは。人生って分からないもんですね。

 ちなみに今ではお互いのインスタを確認する程度の関係ですが、会いたくないと言えば嘘になりますね。今どういう感じなのー、うまくやってるー? 、ってレベルの話ではありますが。

 ちなみに、去年(2022年)成人式があったんですけど、その子は劇団か何かで来れませんでした。正直ちょっとばかりショックだったというか、寂しかったというか。だって久しぶりに会えるかと思ったんだもん!

 ……冷静に考えると、(元々彼がそういう気質なのもありますが)大親友が成人式に来なくても何とも思わなかったのに、その子が来ないとショックを受けるって、その子どんだけ自分の中ででかい存在になってるんだよ。

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