愛着

物書未満

激安ジャンク品

 私のアンドロイドはポンコツだ。


 滑らかなボディだけども、どうやっても人間にはなりきれない旧式の女の子アンドロイドだ。


 掃除をさせれば余計に散らかり、洗濯をさせれば誤操作で泡まみれにし、料理をさせればどうやっても真っ黒焦げにする。


 そりゃそうだろう。中古ショップでコーラ代にすら届かない処分価格のジャンク品だったのだから。


 でも、あまりアンドロイドに興味のなかった私が何故かこの子には惹かれてしまった。


 連れて帰って電源を入れたときのこの子の反応は今でも忘れない。最近のアンドロイドなら初期設定で型番を名乗ったり、取り扱いを説明したりするものだが、この子は真っ先に自分の名前を口にした。しかもすごくあたふたしながら。


「わああ!? 新しいご主人さまですかぁ!? えーっと、えーっと、私はハルっていいま……わーわー! 型番が先でした! えーっと、えーっと……型番、型番……うぅ、忘れてしまいました……」


 こんなのだった。本当にアンドロイドなのか疑ったが、まあ見た目が完全にアンドロイドだったから信じるしかない。


 私もアンドロイドについて色々調べたり友人に聞いたりしたがこの子は特殊すぎた。

 アンドロイドとして求められることがポンコツ極まりないのもそうだし、メーカーも型番も何もかもが不明だった。

 違法アンドロイドかとも思ったがこんなポンコツを違法につくる必要もない。現行のアンドロイドにはポンコツ化パッチというのもあるくらいだ。でもこの子は最初からポンコツでパッチも当てられない。


「私だってお役に立てます!」


 そういって一人でおつかいに行くと聞かなかったこの子は結局迷子になってお巡りさんに保護されたことだってある。おまけに充電が切れかけて交番で電気を借りていたんだからおかしなものだ。


「ご主人ぁ……捨てないで下さい……」


 迎えに言った帰りの車で、助手席のハルはそんな寝言を言っていた。充電中と満タン後しばらく、ハルは文字通りスリープする。ついでに寝言も言うから意味不明だ。


「捨てないさ」


 聞こえてないだろうがそういって信号待ちで頭を撫でてやると心なしか嬉しそうにしているようにも見える。本当に不思議なアンドロイドだ。



――

 この子の過去は分からない。

 でもきっと、何かはあったんだろう。

 もしかしたら誰かに捨てられたのかもしれない。


 ただ、それを聞くのも可哀想だろう。

 

 この子はポンコツだ。間違いなく。

 

 でも、嬉しいときに喜んで、悲しいときに悲しんで、嫌なことがあったら怒れる子だ。

 動画サイトの下らない動画で一緒に笑える子だ。

 対戦ゲームで負けると拗ねてしまう子だ。

 困っている人を見過ごせない子だ。

 道端のたんぽぽを美しいと言う子だ

 雨垂れを眺められる子だ。

 

 それ以上、求める必要はないだろう。


 人間より人間くさい、そんなこの子は今夜も私の腕の中で眠っている。

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