第16話 北の森
時は少し遡り、北の森の冒険者達は警戒しながら森の方を見ていた。
***レーナ視点***
あたしはレーナ、リンドールの町に住むただのCランク冒険者。
今は旦那を含むパーティメンバー、Eランクパーティ達と共に、北の森から100mほど離れた所で警戒をしていた。
しかし、北の森にもかなりの数の魔物が確認されていて、もしかしたらそちらからも魔物が来るかもしれないという事だった。
そして、その考えは現実になった。
あたしは気を張りつめ過ぎないように周囲を警戒していた。
そんな時に、旦那であるタンガンが森の方を見つめたまま聞いてくる。
「レーナ。森が変じゃないか?」
「変? 変ってなんだい」
「なんか……なにか起きそうな気がする」
「なんだって?」
旦那は変な所で鋭い。
あたしはすぐに周囲に警戒を呼びかけた。
「お前達! 警戒しろ! 森から来るかもしれない!」
「はい!」
あたしの声に従って、他のパーティも森を警戒し出す。
それから1分も経たないうちに、森から大量のゴブリンが出て来た。
「ゴブゴブゴブ!」
奴らの姿を確認して、すぐにあたしは叫ぶ。
「迎え撃つよ!」
「おう!」
Eランクの冒険者達とは言ってもゴブリンくらいであれば問題はない。
それに、いざとなったらあたし達がフォローできるからだ。
森から
一向にゴブリン達の勢いがとどまる様子がない。
いくらゴブリン程度相手ではないと言っても、Eランク冒険者達もあまりの数に疲れが見え始めてくる。
「ぐふ!」
「下がれ!」
「でも、レーナさん!」
「いいから! 足手まといを
「すいません!」
そう言って、ケガをした冒険者達は戦線から下がっていく。
彼らは新人の頃から見てきたこともあり、あたしの指示にはしっかりと従う。
そして、彼らが下がった場所は、あたし達が何とか広がって守りを固める。
「一体いつまで続くんだい……」
そんな事をぼやいた時、タンガンが悲鳴のような声を上げた。
「森を見ろ!」
彼の声に従って森を見ると、そこには話で聞いていたゴブリンジェネラルとそっくりな魔物が、ニタニタ笑いながらゆっくりとこちらに向かって来ていた。
「なんでここに⁉ 西にいるんじゃないのかい⁉」
「分からない! 西が
「そんな!」
しかし、森の様子が変わりすぎていてあまり多くの
だから、見逃してしまった可能性もある。
「アニー! アンタ達は他の場所にこの事を伝えにいきな!」
「そんな! でも!」
「いいから行きな! あんた達が一番足が速い! 急いで援軍を呼ぶんだよ!」
「分かりました!」
彼らはすぐに駆け出した。
あたしはそれを見て味方を
「すぐに援軍が来てくれるさ! なんとしてもここは耐えきるよ!」
「おうよ!」
近くで大声で返事をしてくれる旦那が心強い。
昔からこういう所は変わらない、本当にいいやつだ。
そして、小さいころから住んでいるこのリンドールの街も、ゴブリンなんかに荒らさせやしない。
あたしは、少しだけお腹に手を当てて力をもらう。
新しい命もあるし、絶対に生きて帰る。
あたしは体力も厳しい中、絶対に生きて帰る決意をした。
******
「レーナさんが、レーナさんが死んじゃう!」
そう言った彼女の言葉にその場にいた皆は驚いて止まってしまう。
でも、そんな状況からすぐに回復したのは、ミカヅキさんだった。
「それで、どうして欲しいって?」
「すぐに援軍に来て下さい! ゴブリンジェネラルも現れていて、このままでは持ちません!」
彼女の言葉を聞いたDランクの冒険者が驚く。
「ゴブリンジェネラルだと⁉ 西にいるんじゃないのか⁉」
「わかりません! ですが急いで来て下さい! じゃないと町が!」
「分かった! 俺達のパーティは北に行く! お前達の中で少しでも戦ってもいいと思うやつは北に来い! 戦えない奴は東から逃げてもいいし、町に戻って立てこもる準備をしてもいい。ギルドマスターからそう聞いている! 質問は⁉」
急いで聞かれた私達は思わず聞いてしまった。
「ここはどうするんですか?」
「来るかどうか分からない場所にお前達だけで残しては置けない! 警戒してくれてもいいが、戦闘はしないなら残ってもいい! 他は⁉」
少しだけ彼は待ってから急いで走り出す。
「ないな! では後の判断は任せる! 俺達は北に行くぞ!」
そう言ってDランクの冒険者達は急いで北の方に向かって駆け出していく。
北から報告に来てくれた人も彼らについて行った。
「……」
「……」
私達はどうするべきか。
駆け出しの冒険者であるFランクの皆はそれぞれに不安を話し合う。
「どうしたらいいの⁉」
「お、俺は逃げる! 俺がいたってできることはない!」
そう言って東の方に逃げる人もいれば、
「僕達はあの町が好きなんだ! 守りたいんだ! でも、前線に行ったら邪魔になるかもしれない。だから、町に戻ろう!」
そう言って町に戻る冒険者達もいる。
それぞれのパーティごとに、目的地に向かっていく。
ただ、一組の少女達が近付いてきて、頭を下げてくる。
「あの! さっきのご飯、とても美味しかったです。ありがとうございました! これで……私達も町のために戦えます! 皆さんは無事に東に行ってください! 私達がちゃんと町を守ってみせますから、また今度美味しいのを作ってくださいね!」
この場に残っているのは私達だけになる。
私達は……どうしようか相談するために聞く。
「町に行きますか? それとも……東に行きますか?」
3人に問うと、それぞれの答えが返ってくる。
「あたしは反対。力を使えばそれだけしがらみが生まれる。それで後悔したことがあるから。だから反対。ごめん」
クルミさんは辛そうにそう言ってくれる。
「わたしは助けたいのです。困っている人がいて、助けられる力があるなら。使うべきだと思うのです」
ネムちゃんは悩みながらも、そう答えてくれた。
「アタシはちょっと……野暮用ができたからここで別れようかな」
ミカヅキさんはそう言って町の方を見ていた。
「ミカヅキさん?」
「アタシは君達と一緒のパーティじゃない。今は臨時でいるだけだからね。それに、困っている人がいるなら、助けてもいいかもってね」
そう言って彼女は青い顔をしているクルミさんの方に目を向ける。
「でも、クルミちゃんが悪いわけじゃない。戦いなんて……できればない方がいい。それを楽しみにして行くのも、おかしいこと。嫌がるのが普通だ」
「……」
「だけど、アタシは助けたいから行くよ」
「なら」
「君はクルミちゃんとパーティを組んでいるんだろう? 彼女の意思を無視してくるのは違うよ。話し合って」
彼女は私にそう言うと、クルミさんの側に近付き肩に優しく手を乗せる。
「クルミ。君はあれだけ魔法が使えるんだ。昔に何があったのかは……想像できる。だから、無理はしなくてもいい。アタシが何とかしてみせるさ」
「……」
「じゃ、また今度……っていうか、包丁を修理しないといけないからちゃんと帰って来るよ。隣町で待っていてくれ」
彼女はそう言って町の方に向かう。
私はその背と、クルミさんを見て思う。
クルミさんにはなにか……言えない過去があるのは今の態度を見て居れば分かる。
少なくとも戦いに向かいたくない。
そう思う何かがあるんだと思う。
でも、それをいますぐに解決できるかと言えば、できないと思う。
そんな簡単に解決できることなら、クルミさんは悩んでいないと思うから。
だけど、私はレーナさん達を助けたい。
でも、クルミさんに苦しい思いをして欲しくはない。
私が1人で森に行った時も、私を心配して助けに来てくれた。
クルミさんはとっても優しい人だから。
そして大事な人だから、傷ついてほしくない。
「ここから……戦場に行かずに解決できる方法はないかな」
私がぼそりと呟いた言葉に答えてくれたのは、ネムちゃんだった。
「サフィニアさん。流石にそれはできないのです。隕石が当たる確率くらいない事なのです」
「!?」
私はそう言われてすぐに空を見て、ミカヅキさんを呼び止める。
「ミカヅキさん! 待ってください!」
「どうしたんだい?」
「今すぐやってほしいことがあります! 私達の力がバレずに、この状況を全部なんとかできるかもしれない方法が!」
私の言葉に、3人とも何も言えずにポカンとしていた。
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