第12話 南の湖へ
「一緒に……素材を取りに行くですか?」
「そう。場所はここから近い南に行った湖だし、そこには強い魔物も出ない。それにいざとなったらアタシが戦うよ」
彼女はそう言って腰の剣の様な物を持ち上げる。
そう言ってくれるミカヅキさんの言葉に、嘘があるようには思えない。
でも、私だけで決めることはできない、ちゃんと2人の意見も聞かないと。
私は振り返ると、2人とも頷いている。
「いいのではないのです? ギルドに依頼を出してもらう。ということ
「そうだねー。それなら問題はないよ」
それを聞いたミカヅキさんは頷いて引いていたゴザ等をしまい始める。
「では早速ギルドに行こうか。アタシからの依頼ということにしておこう」
「よろしくお願いします」
2人が賛成してくれるのなら問題はない。
私は大事な包丁が修理してもらえることにうれしくなりすぐに承諾した。
ただ、私達が行こうとすると、ミカヅキさんは多くの女性達に引き留められる。
でも、ミカヅキさんは彼女たちをなだめてすぐにこちらに合流した。
「お待たせ」
「良かったんですか? 皆さん待っていたようですけど」
「大丈夫さ。彼女達のもので修理が必要な物は全て終わっているからね」
「そうだったんですか」
ならなんで……? と思ったけれど、依頼主だしあんまり聞くのも良くないと思ってそう言うに止めておいた。
そんな話をしながらギルドに到着すると、ミカヅキさんはすぐに受付に向かう。
「お、アンタ達、依頼を受けるのかい?」
「レーナさん」
そう言って笑顔で声をかけてきてくれたのは、前に気にかけてくれた女剣士のレーナさんだ。
今回も私達を気にかけてくれるのか、話しかけてくれるのは嬉しい。
とても優しい人なのだと感じる。
「はい。これから依頼を受けて南の湖に行くことになっているんです」
「あそこか。あそこは確かに危ない魔物は出ないから大丈夫か」
レーナさんはそう言って不安そうな顔色をしている。
「なにかあったんですか?」
「なんでも森の魔物が活発になっているらしい。南なら大丈夫だと思うけど、一応ね。森の中に入りすぎるとトレントやマッドスパイダーが出るかもしれないから、気を付けておきな」
彼女はわざわざそんな事を教えに来てくれたらしい。
「ありがとうございます。レーナさん」
私はそう言ってお礼をする。
ただの新人である私達にわざわざ言ってくれるのは、彼女が優しいからだろう。
レーナさんは恥ずかしそうに手を振って答えてくれた。
「気にすんなって。あたしだって助けてもらったことがあるからやっているだけ。あ、そうだ。湖は大きい魚もとれるから、気が向いたら釣りや漁もやってみな。それじゃあね」
彼女はそれだけ言うとすぐに出口に向かっていく。
彼女達も依頼があるはずだろうに、わざわざ……。
そんな事を思っていると、後ろから声をかけられる。
「お待たせ。待たせちゃったかな?」
「そんなことはありませんよ。ねぇ……」
私は振り向くと、ポーションを飲んでいるクルミさんと、ワールドマップになにか書いているネムちゃんがいた。
いつの間に。
とても親切なレーナさんが話してくれたのに……。
「あはは、つい暇があったからねー」
「……クルミさん、今日はポーション禁止です」
「ええ⁉」
「じゃないとご飯抜きです」
「そんな……」
「アドバイスは聞いた方がいい思うのですけどどうですか?」
「うぅ……すみません……」
クルミさんは反省してくれていて、それからネムちゃんにはどうしようか考える。
それから私は無言でネムちゃんを抱き抱えた。
彼女の荷物が少し邪魔だけれど、なんとか抱えられる。
「へ? なんなのです⁉ なんでわたしは持ち上げられているのです⁉」
「集中していたので、このまま行きましょう」
「それは止めて欲しいのです⁉」
「でも降りたら書けませんよ? 私も気にしませんし」
「わたしが気にするのです!」
「そうですか」
「なら降ろしてほしいのです⁉」
でも私は降ろさずに、このまま連れて行くことにした。
「町を出るまではこのままです。レーナさんのアドバイスを言えたら放してあげます」
「そ、それは……その……あれなのです。なんか……その……気をつけろと言っていたと思うのです」
「出るまでに思い出せるといいですね」
「ごめんなさいなのですー!」
私達がそんな事をやっていると、ミカヅキさんの笑い声が聞こえてくる。
「あっははははは。君達とっても仲がいいんだね? びっくりしたよ」
「そうでしょうか?」
「アタシにはそう見えるね。これなら今日の依頼も楽しく過ごせそうだ」
そんな事を話しながら、私達は依頼を受け、南の湖に向かう。
南の湖に半日ほどで到着するらしく、軽く自己紹介をしながら向かった。
湖までは切り開かれた森を進んでいく。
ちなみにネムちゃんは町を出てからちゃんと降ろした。
自己紹介が終わった後は、これからのことについて話を聞く。
「それで、湖では何をしたらいいんですか?」
「簡単さ。すぐ近くに見えるあの湖に潜って緑色に光る鉱石を見つけて欲しいんだ」
「そんな簡単に見つかる鉱石が100万ゴルドまで行くんですか?」
簡単に見つかるのであれば、もっと多くの人が湖に向かっていると思うのだけれど。
ミカヅキさんはその説明をちゃんとしてくれた。
「ああ、普通は中々見つからない鉱石だからね。こんな場所でたまたま見つかったのも幸運なんだよ? ここで見つからなかったら本当に100万ゴルドかかるかもしれなかったところだよ」
「因みに何という鉱石なんですか?」
「
「水緑石⁉」
ネムちゃんの悲鳴が私達の耳に届く。
振り返ると、ネムちゃんが目をお金のマークにさせながらミカヅキさんに詰め寄っていた。
「それは本当なのです!⁉」
「本当さ。君も水緑石の価値を知っているのかい?」
「知っています! 湖の中で
「とても詳しいね。その通り、その鉱石を採取しておきたいんだ」
「なるほど……でも、1人でもできるのではないですか?」
「それがね。アタシは
「へ……?」
彼女は今なんと言ったのだろうか?
濡れたくない? 彼女は火でできているとかだろうか。
「聞こえなかったかい? 濡れたくないのさ。アタシの体は火でできてると同じだからね。濡れたくないんだ」
私は本当にそうなんだという言葉を飲み込んだ。
代わりにネムちゃんが微妙な表情で返す。
「そうなのですか……」
「さ、そんな事を話している間に到着したよ」
森を抜けた先には大きな水たまりがあった。
反対側の岸は見えず、ずっと遠くまで水しか存在しない。
「これが湖ですか」
「そうだよ。こっちだ」
そう言って彼女の案内に従っていくと、木の杭が岸に突き立てられていた。
「ここだここ。ここから少し入った先にあるんだ。さぁ、とって来てくれるかな?」
「見れば分かりますか?」
「もちろん。簡単だよ」
ならばと私が湖に入ろうとした時、クルミさんに止められた。
「ちょっと待ったー!」
「クルミさん?」
「こんな時こそ魔法の出番だと思わない?」
「え? 濡れずにここで待っているだけで鉱石を取ってきてくれるような魔法があるんですか⁉」
流石クルミさん! 彼女に任せておけばなんでもできるかもしれない。
「……流石にそこまではできないけども。濡れない。っていうことだったら、あたしの魔法でなんとかしてあげる!」
クルミさんはそう言って魔法を使う。
「『風魔法:
クルミさんが魔法を使うと、私達の周囲に緑色の風のドームができ上がる。
大きさは5mくらいで、私達が入っても余裕があった。
「すごいですクルミさん!」
「ふっふっふ。でしょう? たまにはお姉さんらしいことをしておかないとただポーションを飲むだけの人だと思われるからね」
「違ったのです?」
「違ったのかい?」
「君達……」
ネムちゃんとミカヅキさんが同時に同じような事を言う。
「汚名返上だ。いいから行くよ。この魔法はあたしの周囲5mまでしか効かないから、あんまり離れないようにね」
そう言ってクルミさんが進むのに私とネムちゃんはついていく。
「あれ? ミカヅキさん?」
しかし、彼女だけはその場に立ったままだ。
「これなら濡れませんよ?」
「そ、そうだね。でも……アタシは別にいかなくてもいいかと思うんだ」
「でも一緒に来て下さった方が分かりやすいんじゃ……」
「……だ、大丈夫。君達なら大丈夫だと信頼している。だからアタシはここで待っておくよ」
どうしてそこまで来ることを嫌がるのだろう?
でも、クルミさんはなにか察したように魔法を操作した。
「それならそこからちょっと出てて、この魔法は囲っちゃうから、このまま行くと君も中に入ることになるよ」
「……では外で待たせてもらおうかな」
そう言ってミカヅキさんは出て行き、私達は湖の中に潜る。
入りたくないなら仕方ない。
包丁も修理してもらうのだし、私達だけで終わらせようと思う。
「こうやって見るととってもきれいですね」
「でしょー? あたしだってやれるんだから」
クルミさんの言う通り、風の障壁で囲まれているここ以外の全てが見える。
湖の底を散歩しているように歩けるのだ、見ていて楽しくないわけがない。
「お2人とも、水緑石も探して欲しいのです」
「おっと、そうだったね」
「すいません。あ、あれがそうじゃないですか?」
「言ってから見つけるまでが早すぎると思うのです⁉」
それから3人で見つけた20㎝くらいの緑色に光る鉱石を掘り返して、私がマジックバックに入れる。
地上に戻るとミカヅキさんが今か今かと私達を待っていた。
「どうだった? 見つかったかい?」
「はい。見つかりましたよ」
「良かった! あの時おぼれか……ごふん。見たのは間違っていなかった!」
「おぼ……?」
「さ、それはいいから見せてくれ!」
ミカヅキさんがそう言ったすぐに、なにかが彼女やクルミさんに近付いている気がした。
「危ない!」
私が叫んだ途端、地面からなにかが飛び上がってきた。
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