第7話 ネム

「あの! 少しだけ、お話を聞いて頂けないのです!?」


 私とクルミさんの前に白魔法使いの白い服に身を包み、背とは釣り合わないほど大きな荷物を持った少女が現れた。

 髪は肩口で切りそろえられていて、青色の髪はつややかでとてもきれいだ。

 彼女は私の目を真っすぐに見ながら聞いてくる。


「なんでしょうか?」

「あの……さっき……ちょっと……お話を聞いていたのです。それで、新人……冒険者。ということでいいのですよね?」

「はい。そうですよ」

「あのあの、それで、外に……行きたい……であってるです?」

「そのつもりですけど」

「なら、お願いがあるのです。わたしの個人的な頼みを……受けてくれないです?」

「頼み……ですか?」


 どうしようかとクルミさんの方を見ると、彼女は首をかしげながら彼女に質問をする。


「どうしていきなりあたし達に?」

「そ、それは……わたしはあんまり……お金を持っていなくて……。それで……」

「ギルドに依頼したらダメなの? それからならあたしたちも受けられるけど……。って言ってもあたしもランク低いから難しいのは受けられないよ?」

「大丈夫なのです! 外にちょっと散歩に行って道案内をしてくれるだけでいいのです!」

「うーん。怪しいけど……」

「そ、そんな事はないのです。本当に道案内をしてほしいだけで、なんなら座っている時にちょーっと周囲を見ていてほしいだけなのです」

「(じー)」

「う……あの……あの……」


 クルミさんがじーっと彼女を見つめると、彼女は涙目になって懇願こんがんしてくる。


「ちゃ、ちゃんと話すので、聞いてくれないでしょうか……」

「仕方ないねー。サフィニアもそれでいい?」

「いいですよ」

「それじゃあちょっとだけね」

「本当なのです!? ありがとうなのです!」

「受けると決まった訳じゃないからね」

「はいなのです」


 私達は席に座って、少女の話を聞くことになった。


 依頼に関しては正直分からない。

 でも、こうして困っている少女がいるなら、力になってあげてもいいんじゃないのか、そんな事は少し思った。


「わたしはネムと言います。依頼内容は南の森で3,4泊して、ある魔物を観察したいので、その間わたしの周囲を見張っていてほしいのです」

「ある魔物?」

「はい。Cランクの魔物、ロック鳥の観察をしたいのです」

「ロック鳥の観察? なんでまた?」

「わたしの父は冒険者兼研究者でした。そして、父がやっていたことというのが、『ワールドマップ』の作成なのです」

「『ワールドマップ』?」

「はい。世界中を旅して、地形とか、どこにどんな町があったりするのか、どんな魔物がどんな風に生息せいそくしているのか。という事を記したものを作ろうとしていたのです」

「すごいですね! そんなのができたらとっても素敵です!」


 私は思わず立ち上がってそう言ってしまう。


 それに、もしそんな物があったら、食べたい魔物があった時にそれを使って探しに行くこともできる。


 ぜひとも作ってほしい。

 そして私にも見せてほしい。

 むしろください! 大声で叫びそうだったけれどこらえる。


 なぜなら、クルミさんはちょっと暗い顔をしているのに気付いたからだ。


 私はそれを見て座り直す。


「していた?」

「はい。父はケガをしてしまって、今はわたしが引き継いでいるのです。そして、その完成の為に、ロック鳥のスケッチなどをしたいのです。でも、わたしは白魔導士で、人を回復させたり、強化することはできます。でも、わたし1人だどゴブリンにも勝てるかどうかなのです」

「なるほどね。つまり護衛の依頼をしたいけど、ギルドでは高すぎて依頼出来ない。だからあたしたちに依頼してきたと」

「うぐ。すいません……。確かにわたしはそこまでお金は持っていないのです。でも、移動中の食事とかの準備はやりますし、素材さえあれば……質は良くないですけど、ポーションとかも作りますので……」


 彼女の発言を聞いた途端、私とクルミさんは思わず聞き返した。


「食事は作ってくれるんですか?」

「ポーション作れるって本当?」


 私とクルミさんは身を乗り出して彼女に詰め寄っていた。


 クルミさんに迷惑をかけずに食事ができるのであればそれはすっごくいいんじゃないのだろうか。


 ネムちゃんは驚きつつも期待した目で見つめ返してくる。


「ほ、本当なのです。よろしくお願いするのです!」

「こちらこそ!」

「よろしく!」


 私達は3人で手を取り合い、これからやることを確認した。


「あのー」

「はい?」


 そんな私達に入ってくるように、声をかけてくる人がいた。


 彼女の方をむくと、そこには受付のお姉さんがいた。


「ギルド内で勝手な依頼の契約などは……遠慮えんりょして頂きたいのですが……」

「あ……」

「すいませーん。と、ネムちゃんだっけ。ただの散策っていう事で外での依頼を出してよー。あたしたちはそれで受けるから」

「ありがとうございますなのです! この方達を対象にして依頼を出すのです!」

「はぁ……いいですけど……」


 こうして、私達は受付さんの大丈夫かこいつらという視線を受けながら、ネムちゃんの依頼を受けることになった。


******


 私達はその日の内に出発することになった。

 草原を3人でのんびりと会話をしながら進み、昼を少し過ぎた辺りで森に到着した。


「わたしはこれからこの辺りに生えているキノコとかを取ってくるのです。なので、お2人はしばらく待っていてほしいのです」

「はいよー」

「あの、私も色々と知りたいので、ついて行ってもいいですか?」

「もちろんなのです」

「よろしくお願いしますね」

「ではこっちです」


 ネムはそう言って森の中を色々な場所を見ながら探している。


「あ、あれは行けるやつですね。ふんっ……!」


 彼女はそう言って木の幹のそこそこ高い所に生えているキノコを取ろうと、必死に背を伸ばしている。


 でも、彼女の身長は低い。

 だから、私が手伝った方がいいと思う。

 それに、いっぱい作ってもらうにはいっぱいキノコを取ってもらわないと困る。


「このキノコを取ればいいのですか?」

「でも、それはわたしが……」

「私は結構食べるので、できればたくさんほしいんです。なので、手伝ってもいいですか?」

「いいのですか? 正直……依頼料も通常で考えればかなり低い上に……」

「いいんですよ。というか、外に出る口実がほしかったみたいなものなので、気にしないで下さい」


 割と本心ではあるのでためらいはない。


「……ありがとうなのです。サフィニアさんはとっても優しいのです」

「いえいえ、これくらい普通です」

「そんなことないのです!」

「わ」


 彼女はそう言ってちょっとびっくりする位声を出す。


 私達は近くのキノコを取りながら会話を続ける。


「すいませんなのです。でも、冒険者は力がとっても大事です。それをあらわす様に、荒くれ者も結構いるのです」

「そうなんですか? そんな人はあんまりいなかった様に思いますけど……」

「あの町ではレーナさんとかがいるからあんまりないだけなのです」

「そうなんですか……」


 私にとっても初めての町だから比較できない。


 ネムちゃんはさらに続ける。


「それにギルドには色んな依頼が集まるのです。それこそ、家の片づけを手伝ってほしいとか、店をこの日だけでもいいから手伝ってほしいとか。なんでも依頼がくるのです。でも、冒険者の人達は外に敵を倒しに行くようなものばっかり選ぶのです。それが間違っているとは言いませんが、困っている人を助ける冒険者が居てくれてもいいと思うのです。サフィニアさんもそんな風に助けてくれているから感謝する。それは間違っていないと思うのです。お、これは大きいいいキノコです!」

「……」


 ネムちゃんは小さな子だと思っていたけれど、自分の意見をしっかりと持っているとても素敵な子だった。

 いや、子……といったら失礼かもしれない。


 私は彼女を尊敬できる人のように感じていた。


「それなら……私はこう言わないといけませんね。どういたしまして、と」

「はいなのです!」


 それからネムちゃんは笑顔で両手いっぱいにキノコを抱えてこちらに向きなおる。


「と、これくらいあれば問題ないのです?」

「あ、その……一度クルミさんの所に戻りませんか?」

「一度? わかったのです」


 それからクルミさんの所に戻ると、彼女はしていた。


「戻りました」

「お帰りー。それじゃあこれからご飯かな?」

「そのことなんですけど、少し……肉をとってきてもいいですか?」


 私がそう言うと、ネムちゃんは驚く。


「ええ!? こ、これだけじゃ足りないですか!?」

「あーっと、私の場合……本当に結構食べるので……少しだけ取ってきますね」

「わ、分かったのです。キノコ料理は先に作っておくのです」

「はい。それでは!」

「いってらっしゃーい」


 私は2人から離れて、いつもの要領ようりょうで頭を吹き飛ばしたファングボアを6匹持って帰る。


 結構な数のファングボアがいて、倒すのは簡単だった。

 むしろ大豊作で嬉しい。


「戻りました。なんかいっぱい魔物がいていいですね」

「おかえりー。ファングボアそんなにいっぱいいるなんて珍しいねー」

「すごいのです。あの……サフィニアさんは本当に今日登録したばかりなのです?」

「はい。ずっと山奥で1人で住んでいただけですので」

「それは……すごいのです。今度そこに行っても調べにいってもいいのです?」

「はい、それは……」


 という事を言おうとした所で、クルミさんから待ったがかかる。


「ちょっとお2人さん。そのお話はまた今度、今はご飯にしよう?」

「あ、そうでした。キノコ料理はもうすぐ出来るのです」

「私の方も急いでやりますね」


 ファングボアも早く調理して食べたい。

 朝ごはんも串が1本だったし、流石に物足りないからだ。


 私は包丁でファングボアを解体する。

 そして、ネムちゃんが使っていた火を借りてこんがりと焼いていく。


 後は色々と調味料を振って……。


「完成しました!」

「こちらもできたのです!」

「わーとってもおいしそう!」


 私達の前にはキノコや野菜の入ったスープと、ファングボアの骨付き肉がでんと置かれていた。


 私達はそれぞれの料理を食べ始める。


「このスープとっても美味しい! 素朴な味わいの中にしっかりと芯があるっていうか、普通のと違う!」

「それはこのキノコの美味しさがでているからなのです。この辺りで食事をするなら、これが一番おススメです」

「へーじゃああたしもまた来た時にやろうかな」

「ただ、たまによく似た毒キノコが混じっていることがあるので、注意してほしいのです」


 その言葉を聞いて、私はドキリとする。


「あの、私がとったもの……大丈夫でしょうか……?」

「問題ないのです! 全て確認しましたから。それよりも、このファングボアのお肉もとっても美味しいのです。強くて料理もできてすごいのです」

「あ、ありがとうございます」


 そんな事を話し、食事を終えた。

 その後はまた森の中を進み、ある程度進んだ所で夜になる。


「今日はここに泊まるのです。そして、明日はロック鳥を観察するのです。それが終れば町に戻るだけです。戦闘は勝てないので厳禁げんきんなのです」

「はい」

「うん」


 その事を私達は確かめ合った翌日。


 私達は初めてロック鳥と遭遇そうぐうした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る