第5話 リンドールの町
「貴様! 何者だ!」
「え……」
私達に向かって槍を向ける男が2人。
もしかして……敵? それとも、町にはこうやってケンカを売ってくるような人がいる?
クルミさんも言っていたじゃないか、いい人ばかりじゃないって。
なら、私がとる選択肢は……
スッ。
私は腰を落とし、彼らを正面に
そして、やられる前に……やる!
「ストップ!!!」
「ッ⁉」
後0,5秒遅かったら相手の頭を殴っていた。
「クルミさん?」
「サフィニア⁉ 暴力はダメだって言ったよね⁉」
「え……だって笑顔を向けたら槍を向けられたから敵かと思って……」
私が思った事を正直に話すと、正面にいる槍を持った男たちが怒ってくる。
「あれが笑顔だと⁉ ドラゴンににらまれたのかと思ったわ!」
「え……」
それはそれでショック。
精一杯の笑顔を向けたつもりだったのに。
1人ショックを受けていると、クルミが首元からなにか薄い板のような物を取り出して槍の人達に見せる。
「あたしはクルミ。ただの冒険者だよ。この子はサフィニア。ちょっと山で育ってて、人をほとんど見たことがないらしくって……だから許してくれない?」
「そういうことか……サフィニアと言ったな?」
「はい」
「俺達は門番で、このリンドールの町を守っている。だから武器も持っているし、相手が
門番の方達はやれやれといった様子でそう言ってくる。
私は本を読んである程度知っているつもりだったけれど、書かれていない、私が知らない事も多かったみたいだ。
反省して彼らに頭を下げる。
「気をつけます」
「ああ、色々と分からないこともあるだろうが、困ったら頼ってもいい。次からは戦おうとするなよ?」
「ありがとうございます」
「よし。いっていいぞ」
門番の人達はそう言ってくれて、私達はこうして町に入ることが許された。
建物も私が住んでいたような家がこれでもかと並んでいる。
それに町中は今まで見たこともないくらい人がいて、少し
でも、まず先にやることがある。
「クルミさん。ごめんなさい……」
私はそう言って彼女に謝ると、彼女は笑顔で許してくれる。
「あはは、そんな謝らないで、っていうか、あたしが注意しろーって言ったせいだから、君のせいじゃないよ。むしろ、あたしの話をしっかりと聞いてくれてありがとね」
「クルミさんの話はいつも頼りになります」
「……サフィニア……嬉しいこと言ってくれるじゃない! そんな君とは初めて町にデビューしたお祝いだ! これからポーションを朝まで飲むよ!」
「あ、それはいいです」
「えーじゃあ普通にご飯食べにいこうか! 今日はあたしがおごってあげる!」
クルミさんは笑顔でそう言っているけれど、おごる……というのはどういう意味だろう?
この言葉も普通の言葉だったりするのだろうか?
私は純粋な気持ちで聞く。
「おごる……ってどういう事ですか?」
「あーそっか、お金とか知らない感じ?」
「はい……お話でしか……」
「そっかそっか、お金は町で生きていく上で必要な物。仕事をして、その対価にお金をもらう。そしてそれを支払って服とか食事とか家を買って生活するんだ。簡単でしょ?」
「え……それじゃあおごるって……」
結構大変なことなんじゃ……。
「だいじょーぶ! だいじょーぶ! お姉さんに任せなさい! 前に来た時に美味しかったお店があるんだよねー! さーいくよ!」
クルミはそう言って私の手を引いて先に進む。
彼女がいいと言ってくれるならいいの……だろうか。
それに、私にはやることがある。
師匠を見つけなければならないのだ。
師匠を探そうと思って色々と見ていたけれど、どこにも師匠の姿は無かった。
その最中、私は町中を色々と見て回った。
家はレンガで立てられている様で、屋根は三角の形が多いだろうか。
歩いている人達は色々な格好をしていて、剣士のような格好だったり、職人の様な人がいたり様々で少し怖い。
「ん? どうしたの?」
「え?」
「あたしの手を握る力が強くなったからなにかあったのかと思って」
「あ……すいません」
「あはは、いいよ。もっとしっかりと握って? お姉さんがいれば怖くないから」
クルミさんはそんな風に言ってくれて、私達は一つの建物に入っていく。
中はそれなりに席が埋まっているけれど、クルミさんは関係なくずんずんと入って空いているテーブルに座った。
「さ! ここで食べて飲むよ! おかみさん! ポーション1つとおススメ定食を2つ!」
「うちはポーションなんておいてないよ」
「えーじゃあおススメの定食だけでいいや」
「あいよ!」
ガタイのいいおかみさんはそう言って
それからすぐにまたこちらに来たり、他のお客さんの対応等で忙しそうにしていた。
私が彼女を見ていると、クルミさんが口を開いた。
「いやー! 大変だったねー! あんな山奥に君が住んでてくれて助かったよ!」
「クルミさんはどうして私が住んでいるところまできたんですか? 目的があったんじゃ……」
「ああーそれね。あたしが旅してる目的はおいしい飲んだことのないポーションを飲むことと、それに合う料理を探すことだよ!」
「あ、それで……いや、ポーションって人が作っているんじゃないんですか?」
「そういうのもあるけど……ダンジョンとかの奥にあったりもするからー。それでどこになにがあるか分からないからね」
そう言って彼女は運ばれてきたドリンクをゴクゴクと飲み始める。
なるほど、確かにポーションをダンジョンで見つけたという話は本でもあった気がする。
彼女の目的は色んなポーションを飲むこと……。
世界は……そんなに広いのだろうか。
「ぷはー! やっぱりここのドリンクはポーションほどじゃないけど美味しいね! さ、サフィニアも飲んで飲んで!」
「は、はい」
私も目の前に置かれた木製のジョッキに手を伸ばす。
持ち上げ中身を覗き込むと、それははちみつ色をした果実酒だった。
少し飲んでみると口の中に仄かな甘味が広がる。
「美味しい……」
「ねー? おいしいでしょー? 他と比べてちょっと高いけど、それでもこれだけの人がいるのはそういう理由なんだー」
「そうだったんですね。この調子なら……」
「うん! 料理も期待出来るよー?」
「はいよ! オススメお待ち!」
クルミさんと話していると、ガタイのいいおかみさんがドン! と大きな音をさせてテーブルに食事をおく。
大きな肉の塊や、黒パンも食べ応えがありそうだ。
「ここのお肉はファングボアでね! 香草とかもすごいんだ。さ! 好きなだけ……はあれかもだけど、いっぱい食べてね!」
「はい!」
私はそれからおススメ定食を初めて食べた
今まで食べてきた食事も美味しかったけれど、人里で作られているものはそれはそれでまた違った美味しさがあったのだ。
「あはは、いい食べっぷりだねー! あたしもそんななら出しちゃおっかな」
「何をですか?」
「うふふ、ポーションがほとんど無くなったって言ったけど、とっておきのやつとかあるんだよねー! それを飲んでいこうかなって!」
クルミさんはそう言ってマジックバッグからポーションを出して、ゴクゴクと飲み始める。
「かー! やっぱりこれだよねぇ! これが最高に美味しいんだ! 気分も上がるし、なんだか楽しくなってくるんだよねー!」
そう言ってクルミさんはがぶがぶとポーションを飲みまくっていく。
「顔赤くなってますけど、そんなに飲んで大丈夫なんですか?」
「いいのいいのー! あたしこれでもそこそこお金持ってるからー! あ、眠たくなったら上の宿借りれるからそこで寝よ。サフィニアもガンガン食べてね!」
「分かりました」
私は少し食べ過ぎにならないように食事を続ける。
5回ほどお代わりした所で、流石にこれ以上はまずいだろうと思って手を止めた。
おごるという言葉に甘えて、なんでもしていいことはないだろう。
「ふぅ……」
「サフィニアーまだまだ食べれるんでしょ? もっと食べてもいいよー?」
「え? でもこれ以上は……お金とか……すっごくかかるんじゃ……」
「いいっていいって! おかみさーん! この子にご飯いっぱい持ってきて!」
「あいよ!」
「い、いいんですか?」
「いいっていいって! ほら! いっぱい食べて飲んで楽しくしよー!」
「……はい!」
私はそれからテンションの高くなったクルミさんと一緒に食べて飲んだ。
一体どれだけ食べたのか分からないけれど、町に来てこんなにも楽しい事になるとは思っていなかった。
******
チュンチュン。
「うぅ……ん」
私は外で鳴く鳥の声で目が覚めた。
辺りを見回すと、窓の
しかも、隣には気持ちよさそうに寝ているクルミさんがいた。
昨日はすごく楽しく食べて飲んで昼間の疲れもあって一緒のベッドに飛び込んでそのまま寝た気がする。
でも、こうやって……起きた時に、隣に人がいる。
1人じゃない。
私は……1人じゃない。
その事がただ嬉しい。
「……クルミさんを起こすのは悪いよね」
「んー起きてるよー」
「クルミさん。おはようございます」
「うん、おはよう。いい朝だねー」
「はい」
クルミさんをじっと見つめていたけれど、心の声まではバレていないだろうか。
ちょっと心配になるけれど、きっと大丈夫……だと思う。
それから私達は少しのんびりした後に、朝食を食べるために町に出る。
今日こそは師匠を見つける。
そう思っていたけれど、町を歩く人の多さで少し驚いてしまう。
朝の町は
「いらっしゃい! かわいい
「こっちのファングボアの串にかかってるタレは特製で、ここでしか食えないよ!」
そんな風に人を呼び込む声でとても騒がしかった。
夜とは違った町の姿に、少し戸惑ってしまう。
「あはは、ちょっと驚くかーでも、ここら辺のお店はどれも美味しいよー。適当に買って食べようか」
「いいんですか?」
「いいよー。串っていってもそんなに高いものじゃないし、あたしはそれなりに持っているから……」
「クルミさん?」
クルミさんは急に立ち止まり、青い顔をしてサイフの中身を見ている。
「あれ……お金ってどこかに落としてきたっけ?」
「え?」
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